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中指 立てたら  作者: 福島崇史
12/248

キング・オブ・○○○

ついに…

時は来た!それだけだ!

(知っとる思うけど、破壊王・橋本の迷言な)


格闘家チームVS喧嘩屋チーム、3対3のタイマン勝負や。

ルールは単純明快!


素手!

何があっても他の者は手を出さない!


これだけ。簡単やろ?

極端な話…噛みつこうが、目に指入れようが、キンタマ潰そうが、素手ならOKって訳や。

お?先鋒の2人が向かい合った…

いよいよ始まるみたいやな。


島井ゴリラVS細目ニンニク鼻ゴリラ…

つまりこの闘いは、どちらが真のゴリラそっくりさんかを決める闘いって事や…

これは負けられへんで島井っ!

ゴリラそっくりさんの称号はお前のもんやって事を、そこのパッチモンに教えたれっ!!


縄張り争いが如く睨み合う2頭のゴリラ。

見てるこっちまで緊張して来たでぇ…


「おい…お前、名前は?」


「島井…島井 象山や。お前は?」


「……」


「おい…どした?名前を訊いとるんや」


「…言いとぅない」


「人に訊いといて、()がは答えとぅ無いて…それは筋が通らんのとちゃうけワレ?」


「だって…絶対笑うもんよ…」


「見くびんな。これでもワシは武道家や、人の名前で笑うような失礼な事するかいっ!」


「…絶対笑わんか?」


「笑わんっ!」


「…ほんまのほんまか?」


「くどいっ!!」


「わかった…なら教える…俺の名前は…」


ま、まさか

細目田(ほそめだ) (よう)

とか

麗長(れいちょう) 瑠偉(るい)

なんて事は…

僅かな期待を込めながら、俺達は息を飲んでその答えを待ったんや…


「俺の名前は…山田 太郎…や」


「……」


「いや…山田 太郎…やけど…?」


「……」


「……」


島井はもちろん、俺達も頑張った…

頑張ったけど、沈黙を保つなんてやっぱ無理な話やったんや…


「プフッ♪」

島井の口から漏れたコレを皮切りに、俺と柔は堰を切った様に笑い転げたんや。


「だぁ~はっはっはっは!」


「や、山田 太郎て♪ンフッ…ンフフフフッ」


「そこっ!笑ってんじゃねぇっ!!」

山田君が青筋立てて怒鳴りつけて来た。


「だ、だってよ…山田 太郎てお前…なぁ柔?」


「あ、あぁ…区役所や銀行じゃあるまいし…」


「お、それええな!アイツのアダ名は区役所ゴリラにしよ~や♪」


「く、区役所ゴリラ!や、やめろ勇!それ以上言うなて!笑い死ぬぅ~!!」


山田がギリギリと歯を噛む音が聴こえた。

しかし山田は無理から心を落ち着かせたらしく、米噛みと口角をヒクヒクさせながらも再び島井へと視線を戻したんや。

するとそこには、山田以上に米噛みと口角をヒクヒクさせた島井の姿…

耐えてはる!島井は耐えてはるんやっ!!

最初に息を漏らしたのは島井やけども、それ以降のアイツは1度も笑ってない。

立派や…立派やで島井っ!!

山田もそれを察したらしく、堪える島井へと声を掛けよった。


「どした島井…お前も笑いたけりゃ笑ってええんやど?」


「ゎらぁわへん…ヮシは…わらぁゎへん…ゃくそぉく…したぁ~さかい…なぁ~…」


「…声、震えとるやないけっ!!」


「ぁまぁり…はなしかけん…といてくれぇ~…こらぇられぇん…よ~になるぅ~…」


相変わらず島井は笑いを必死で堪えとる。

その震える様子は、もはや泣いとる様にすら見える程や。


「お前…案外ええ奴みたいやのぅ…敵である俺との約束をそないしてまで守るんやからな。

せやけど悲しい事にこれからケンカせなアカン訳や…義理立ててくれたから言うて手加減はしてやれん…スマンのぅ覚悟してくれや」


「アホ…当たり前じゃ!ワシかて手加減なんぞするつもりあらへんわいっ!!それにワレごときがワシ相手に手加減出来るなんざぁ思わんこっちゃ。なんせワシはバカ強いからのぅ」


「ほ~…言うてくれるやんけ。ならお互いに手加減無しで、そろそろおっ始めよやないか…」


「応っ!手加減無し…んでもって恨みっこも無しじゃいっ!ええのぅ?」


「上等じゃオラァ~ッ!!」


こうして、友情にも似た物が芽生えた2頭のゴリラのタイマンは始まった訳やけども…

喧嘩屋の割に山田の攻撃は雑やった。

回転が早い訳でも無いテレフォンパンチを、闇雲にブンブンと振り回すだけ…

まぁ確かにあのガタイやから、当たれば威力はあるんやろけども。


対する島井は冷静にブロックしとる。

そりゃ漫画じゃあるまいし、全てをかわすなんて事は出来へん。

何発かは当たりもする。

せやけど致命的なヒットは1発も貰ってない。

しかも未だ島井の方からは一切攻撃を仕掛けとらん。

そうや、それでええ。

今は焦らず機を伺え…

相手はどう見てもスタミナがあるタイプや無い。あんな大振りパンチを続けてたら、直ぐに息があがるやろよ。

ほんで手が止まったら一気に組み付く!

そうなってしまえば、柔道家であるお前の独壇場や。

ほ~ら…言うてる間に山田の顎が上がって来たでぇ♪


「ハァハァ…お前…ハァハァ…なんで1発も打ってこんのじゃい…ハァハァ…俺を…嘗めとんかいっ!?」


「嘗めてなんか無い。俺は柔道家やさかいな…柔道家らしい勝ち方をしたいだけや。気にせんと続けたれや」


「へっ…へへへっ!なら…続けさせて貰うわいっ!後悔すんなよダボがあぁぁ~~っ!!」


意地…やろな…

バテバテであろう山田が、前蹴りのフェイントから渾身の右ストレートを放ちよった。

島井も島井やで…

あのアホ…その意地を汲み取って、律儀に蹴りもパンチもワザと食らいよった。


ミシリッ…

頬っぺたに拳のめり込む音が響く。

一瞬、腰が落ちかけた島井やけど、それをグッと堪えると…


「へぇ…やっぱ当たったら痛いのぅ…なかなかええパンチやったでっ!」


そう叫んで懐に入り込み、山田の腕と胸元を掴んだまま自ら倒れ込むようにして身体を捻った。


「体落とし…かぁ。やっぱ上手いわアイツ」


思わず柔が声を漏らしてる。

プロ格闘家のコイツを唸らせるんやから、やっぱり島井は強いんやな…

俺が勝てたんはやっぱマグレ…なんやろな。

なんか複雑…

そんな事を考えてる間に、上になった島井が袈裟固めで抑え込んでいた。

しかし…山田は一切の抵抗をせえへん。

抑え込まれるがまま大の字に寝転んで、あまつさえ笑みさえ浮かべとるやんけ…

そしてその笑顔のままで静かに口を開きよった。


「ギブ…ギブアップや…」


「…ほんまか?離した後で仕掛けたりせんやろぅな?」


「見くびんなっ!俺かて健全に不良道を歩いとる男や!負けくらい潔ぉ認めるわいっ!」


「そうやろな…スマン」


島井が固めを解いて立ち上がると、少し遅れて山田もそれに続いた。


「お前…さっきのパンチ、ワザと受けたやろ?」


「……」


「へっ!だんまりかいや…まぁええわ。

でもな、アレで思ったんや…俺は勝てんってな」


「……」


「あのパンチは本気の本気で打った渾身のパンチや…これ以上続けてもアレ以上のパンチはもう打たれへん…そんなパンチを、お前は笑って受けよった。な?俺の心が折れるんも解るやろが…へへへ」


「……」


「…あのぅ…なんか言ってくれる?俺が独り言を喋ってるヤバい奴みたいやんけ…」


「山田…」


「お?なんや?」


「お前…LINEやってるか?」


「お、おぅ…なんやいきなり…?」


「後でID教えろや」


「いや、だから…なんやいきなり?」


「近々…マクドでも行ってゆっくり話そうや」


「!!……へ、へへへ…しゃ、しゃあないのう!付き合ったるけどお前の奢りやどっ!?」


「わあっとる。王者が下々の者に恵んでやるんは世の常やさかいの♪」


「…うるせぇよゴリラ」


「っ!…お前もゴリラやろがいっ!!」


いや島井よ…今「も」って言うたよね?

もう自分がゴリラなん認めてますやん!

よしっ!こうなったら島井よ胸を張れっ!

勝った君こそがゴリラの中のゴリラ…

つまりはキング・オブ・ゴリラやっ!!


まぁそんなこんなでゴリラ頂上決戦は、ドラミングやウンコを投げるというゴリラ独特の行動を見る事も無く、友情だけを芽生えさせて幕を閉じた。









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