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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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名探偵アモン

試合を終えた俺はさっさと帰るつもりやった。

頭部を打たれてダウンしたから、検査を受けに病院へ…てのが建て前。

でも実際は、第1試合が出番やったのに最終試合が終わるまで待ってられるかいっ!てのが本音や。


それに胸糞悪いってのも理由の1つにある…

そりゃそうやろよ?

レフリーに手を掲げられ、勝ち名乗りの最中やってのによ…

満場の大〝ホーケー〟コールやぞっ!?

そりゃ気分も害するっちゅうねん!

それもこれもコイツが…このボケが悪いんじゃいっ!!

アザだらけになった俺の身体に、湿布を張りつけとる男を睨み付ける。

すると俺の視線に気付いたらしく…


「お、何や?痛かったか?スマンスマン」


いや…1番痛かったんは傷付いた俺っちのハートやし、お前が謝るべき理由は他にあるぞっ!!

そんな怒りをぶつけてやろうと思ったタイミングで控え室のドアがノックされた。

あまりの間の悪さに、思わず舌打ちしてから不機嫌な返事を返す。


「はいはいっ!どうぞっ!!」


すると入って来たんは思わぬ人物やった。

今の今までド突き合ってた相手…匠 康生その人やがな。

俺のドラゴンスクリューと低空ドロップキックで両膝をヤッてしもぅた奴は、セコンドに肩を借りながらヒョコヒョコと控え室に入って来た。


「これはこれは…まさか控え室まで押し掛けて来てリマッチするつもりちゃうやろな?」


「この俺のナリを見て闘える様に見えるんなら、眼なり脳なり検査受けた方がいいな…お前」


皮肉を皮肉で上手い事返しよってからに…

なんやコイツ、案外喋るんやんけ♪

そう思ったら自然と笑いが込み上げて来よった。


「フッ…フフ…ンフフフ」


「な、なんやいきなり…気持ち悪い奴やな…」


「いやぁスマンスマン!まさかお前がそんな冗談じみた事を言うとは思わんかったからよ!まぁ立ち話もなんやし…とにかく座れや♪」


「人をロボットみたいに言うんじゃねぇよ、俺だって冗談の1つや2つくらい言うわいな…ま、お言葉に甘えて座らせて貰う。なんせ何処ぞの誰かさんに酷い事されて、足がアホみたいになってるもんでな!!」


「フフン♪随分な有り様やけど…痛かった?」


「お、お前…この場面でそれを訊けるってどんな情緒をしとるのだ?お袋さんの胎内に大事な感情を置き忘れて来たんとちゃうか…?」


「ハハハ、兄さん上手い事言うねぇ♪」

と、返したのは勇やった。

面倒くさい事にアホが参戦しよったんや…


「君は…確か…不惑 勇くん…だよね?少し前にプロレスデビューしたばかりの…」


「え?俺の事知ってくれてんの?嬉しいけどなんか照れるやんかいさ…ハハハ」


「ああ…有名人みたいやしね。俺も色んな道場やジムに出稽古行かせて貰ってたんやけど、あちこちで君の名前が出たわ…面白い選手やから要注目やっ…てね」


「いやぁ照れますわなぁ♪そんな本当の事を言われちゃうと♪しかし何処のどちら様かね?そんな真実を兄さんに教えたのは?」


「グングニルの大作さん…あとは烏合衆の朝倉さん…」


「なるほどなるほど♪あのお二方かぁ…何か甘~い物でも贈っとこうかねぇ♪」


う、浮かれとる…

完全なる浮かれポンチやんけ…

おのぼりさんと化した勇がご機嫌に続ける。


「なんや兄さん!その適当なアイシングはっ!?いくら応急措置とは言えそれじゃあアカンで!

ちょうど救急セット使ってたところやし、ついでに俺がテーピングで固めちゃるっ!」


「あ、いや…」


「ええからええから!遠慮しぃなって!今日の友は明日の敵っつぅやろ?」


それ…逆な!

ほんま…アホよなぁ…

すると勇の奴、匠のアイシングをほどくなり愕然とした表情に…

それもそのはずや、匠の両膝は青黒く変色してもてるんやもの。それも結構な広範囲で…


「こ、ここまで酷いとは…残念や…ほんま残念やで…兄さん…せめて痛めたのが〝脚〟や無かったらなぁ…」


「え…?いやいやいや!待て待て待てっ!勇くんっ!なんやっ!?手にしたその注射器はっ!?」


「え?何って…〝脚〟をヤッてしもたら安楽死ってのが定番やし…」


「それは馬の話なっ!馬だけの話なっ!!」


「え…そうなの?」


「仮に人間もそうやったとして、医者でも無い君はやっちゃダメ!絶対!!」


あまりに下らな過ぎて、俺は腹を抱えて(わろ)てしまってた。


「ったく…皆んなの言う通りやな君は…」


「面白い注目株ってのはさっき聞いたし、恥ずかしいからあんまり繰り返さんといてぇな♪」


「いや…それもやねんけど、もう1つ皆が口を揃えて言ってた事があってな…」


「え?何?何?」


「知能はチンパン」


「チ、チ、チン…パン……?」


「そう、チンパン。特に毒島さんが強くこのキャッチコピーを推しとったで?」


「え?毒島さんて…そそぐちゃんっ!?え…何で兄さんがそそぐちゃんを知っとるんっ!?」


「君は人の話を聞いとらんのかっ!烏合衆にも出稽古に行かせて貰ってたって話したやろっ!!」


「あ…」


「あ…や無いわっ!でもそういやぁ…もう1つ毒島さんが推してたキャッチコピーがあったなぁ…」


〝ギクッ!〟


ん?なんや今、ギクッて効果音が聴こえた気がしてんけど?

はっはぁ~ん…これはそのもう1つのキャッチコピーとやらが勇の弱味と見たっ!


「確か…〝ビッツ〟って言ってたか…なぁ勇くん、この〝ビッツ〟ってどういう意味から来てんの?」


「え…いやぁ…さあ…多分、俺の名前をモジッて付けたんちゃうかなぁ……ヒュ~ヒュ~♪」


いや!1文字も合ってへんやんけっ!!

しかも誤魔化すのに今時口笛って!下手かっ!

更にちゃんと吹けて無いしっ!!

これは何やらパンドラ臭が漂い始めたでぇ…

そこで俺は荷物からスマホを取り出して…


「OK Google ビッツの意味を教えて!」


「ピコン♪車の神様によれば…鮮やかさを意味するヴィヴィッドとドイツ語で才能を意味するヴィッツを掛け合わせた造語なのだそうです…」


これで明らかに動揺した勇…


「あっ!テメェ何勝手に検索してんだよっ!!」


「俺のスマホを俺がどう使おうが勝手だろうがよ!でもこれが核心じゃあ無さそうやな…」


「いや、それやっ!華があって才能に満ち溢れとるからそんな呼び名がやなぁ…ヒュ~ヒュ~♪」


「だから吹けてへんっちゅうねんっ!!」


するとここで匠の奴がファインプレー♪


「おい…気になったから音声認識では無く、入力して検索したのだが…色々な意味があるみたいやぞ?ほら…子孫や息子を意味する物やら…小片・小さな塊って意味まで…」


〝ギクッ!〟


ほほぅ~…又もや聴こえましたね効果音♪


「勇…さてはお前…小さい塊なんか?」


〝ギクッギクッギク~ッ!!!〟


フッフッフッ…

見た目は大人、アソコは子供の名探偵アモンがどうやら核心を突いたようやな…

勇の彼女である毒島そそぐが言った〝ビッツ〟という単語…

そしてそれは小さな塊を意味するという…

ならばそこから導かれる答えは1つ!!


「勇!さてはお前!短小包茎やなっ!?」


「そっ!そっ!そんな事無…ウ~ン」


そう言ったまま、勇は倒れて白目を剥いてしもた。

しかしこれはええ事を聞いたでぇ♪

次に俺に〝ホーケー〟コールが起こった時、俺はマイクを握ってこの事実を皆に伝えようと思うんや…ヒッヒッヒッヒッ♪


ほくそ笑む俺を見て匠が言いよった…


「今のお前、液体をかき混ぜる魔女みたいな顔しとったぞ…」



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