時の流れ
再開と同時に匠に向かって走り出した俺。
ロストポイントはお互い〝2〟のイーブン。
そして残り時間はあと6分程や…
このままタイムアップになればサドンデスに突入してまう…そうなれば勝敗の天秤はどっちに傾くかわからへん。
だから今や!デカいダメージを与えた今こそが勝機なんやっ!
ここで勝負を決められへん様やったら、俺はその程度やっちゅう事やっ!!
匠が腰を落とした構えで睨んどる…
そうかよ…お前も覚悟を決めたかよ…
どうりでいい面しとるやないか。
それもそのはずやわな、さっきのドラゴンスクリューでお前の膝はイッてしもてるんやろ?
少なくとも靭帯が伸びとるはずや…ならこれ以上の消耗は無理って事やわな。
だからお前もこの攻防を勝負の時に決めた…そういう事なんやな?
スローモーションかと思う様な時の流れ…
その中で思考だけが足早に駆け巡る。
そして…
俺が奴の制空権を侵した瞬間、例のデカい拳が対空砲火の如く飛んで来よった!
真っ直ぐ…真っ直ぐに…俺の顔面を目指して。
せやけどその砲弾はおれの少し上、スレスレの所を疾り抜けて行った。
でも俺はそれをかわした訳や無い。
俺の放った次の一手…それが結果的に攻防一体になってたってだけの話や。
え?もったいぶらんと使った技を言えってか?
フフン♪欲しがるねぇ~…
ま、引っ張ってもしゃあないし教えましょ♪
俺は間合いに入ると揃えた両足を奴に向けて跳んだんや。
そう…所謂ドロップキックや。
プロレスラーらしい技やろ?へへへ…
でもな俺が狙ったんは顔面でも胸板でもあらへん!
的にしたんは未だ健在な奴の右足やっ!!
右膝への低空ドロップキック、これが勝ちへの…フィニッシュホールドへの布石…
〝入った!〟
もろに喰らった匠の奴が、つんのめる様にしてマットに倒れ込む!
ここで間を置いてしもたら、レフリーがダウンを取ってまうかも知れん!
そうなったらせっかくの〝布石〟が、ただの〝捨石〟になってまう!
いやいや、そうはさせへんでぇ!!
俺はすかさず立ち上がり、踞る奴の頭部を正面から股に挟んだ。
更に匠の両腕をレバーの様に引きながら後ろに倒れ込むっ!!
匠も流石や…力の流れっちゅうのが見えとるらしく、前転して逃れようとしとる。
せやけどそうはさせへんでっ!
俺は両足で奴の両足を外側からフックして動きを封じたった!!
「どやっ!?これが俺のオリジナル技〝蜘蛛絡み〟じゃい!!」
首は俺の股に挟まれ、両腕は肘と肩の関節が極り、足すらも動きを完封されとる…もはや匠に反撃の余地はあらへんっ!
エスケープしようにも、手によるエスケープしか認めへん今回のルールでは絶望的といえる状況…
それやのに…それやのに匠の奴、諦めずに必死で身を捩って暴れよる…
こんな状況でも勝負を捨てへん〝武人〟としての矜持…尊敬に値するで。
だからこそや!だからこそきっちりとカタァつけたるっ!!
これが締め技やったら落として済む話やってんけどなぁ…すまんな匠、ちぃ~とばかし痛むけど堪忍したれや…
俺が奴の肩関節を外す決心を固めたその時…
何かが宙を舞うのが視界に入った。
またも時の流れがスローになり、その中でいつまでもフワフワと舞う白い布…
幻想的な感覚に囚われたのも束の間やった、けたたましく打ち鳴らされたゴングが、俺を現実世界へと引き戻してくれたんや…




