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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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反撃の狼煙

俺が2回ダウンして、匠の野郎が1回…

チッ…!ポイントで差をつけられてしもたのぅ。

いや、差をつけられたんはポイントだけや無い…

試合内容でも如実な差がある。

奴が俺から奪ったダウンは縦拳と踵落とし…どちらも〝打撃屋〟らしい技での事や…

それに比べて俺はどないや?

触りと~も無い奴の〝イチモツ〟を握って、反則スレスレで奪ったダウン…技と呼べる代物やあらへん。

そろそろ俺もプロレスラーらしい所を見せんと、このままやったらほんまに只のヒールで終わってまうな。

試合の残り時間は…あと12分てところか…

よっしゃ!それだけありゃあ何とかなるっ!!

先ずは勇が言うとった様に、あのクセの悪い脚を殺しにかかりますかね…


ほらよっ!サイドステップから左右のローキック!どないや?空手家あがりの俺のローは?なかなかの(もん)やろが?

まだまだ止まらんでっ!それっ?次はワンツーからの左ローやっ!

お?今のはええの入ったんちゃうかっ!?

一瞬やけど効いた顔したの…俺は見逃してへんでぇ♪

オラッどした?現役バリバリの空手チャンプが、元・空手家にローをクリーンヒットさせられてたら世話無いで!?

ほれ、蹴り返して来いよっ!

俺は自らの脚をポンポンと叩いてから手招きして見せる…もちろん〝煽り〟ってやつや♪


そ~ら顔色が変わりよったで♪

普段から仏頂面の奴は変化が判りやすくてええのぅ♪

お?相変わらず速い踏み込みやんけっ!

空手お得意の密着した間合いからローの連打かぇ?更には胴への突きのラッシュも織り交ぜて来るかよ?

しかし残念やったな…俺はタフが売り物のプロレスラーや。頭部以外なら好きな様に打たせたる!

受けの凄みって奴や!!

でもええぞっ!それこそ空手家らしい闘い方や!ほんまはソレに付き合ってやりたい所やけども、俺もそろそろ受け以外でプロレスラーらしさを見せつけなアカンのでな…悪ぅ思わんとってくれよ?


俺は奴の胸元を両手で突いて距離を作った。

出来たその間合いは、空手よりもキックボクシングに近い間合い…すかさず奴に左のミドルキックを放つ!

ガードはされたけど…それでええ!

俺の狙いはそこや無いっ!!

ほら!どした!来いよ!!

すると…

思った通り奴が蹴りのモーションに入りよった!

左ミドル。

さっきみたいに途中で軌道が変化する可能性はあるが、負けず嫌いのお前の事っちゃ同じ技で返して来ると踏んどったでぇ♪

よっしゃ!もう変化は無い!!左ミドル確定やっ!

せやけど俺はガードなんてせんっ!

それを脇腹で受け止め、動きの止まった奴の左脚を右腕で抱え込んだっ!!


「ほれ…喰らいな」


無意識にそんな事を呟いた俺は、奴の脚を巻き込む様にして身体を捻りながら自ら倒れ込んだ…

せやっ!ドラゴンスクリューやっ!!

俺の耳元で、奴の膝が奇妙な音を鳴らしたのがハッキリ聴こえた。


俺は直ぐ様立ち上がり、見下ろしながら奴の様子を見る。やっぱ高い所から見下ろすのは気分がええのぅ♪征服者&下郎って感じでよ…ハハハ…ハハ…ハハ、、、

なんや俺…今メチャクチャ頭悪い事言うとる気がする…

いやっ!そんな事ぁどうでもええっ!!

大事な事は、奴が脂汗を浮かべながら膝を抱えたまま立たれへんっちゅう事っちゃ!!

レフリーがダウンを宣告し、カウントが淡々と進んで行く。


〝まだやぞっ!まだまだ遊ぼうやっ!?〟

という想いと

〝もう立ってくれるな!!〟

という想いが複雑に入り雑じる…

いや…割合からして7:3てとこやな…

格好つける訳でも強がりでも無く、7が立って欲しい気持ちや。

何故なら俺にはこの日の為に用意したフィニッシュホールドがあるから。

どうせならその技で勝ちたいやん?

〝6〟が数えられた時、ようやく匠が立ち上がった…

のそのそと…

布団に未練を残しながら這い出す、寝起きの奴みたいな動きで…

あの匠がキビキビ動けない…つまりそれだけダメージはデカいっちゅう事やな?

カウント8でファイティングポーズを取ったが、明らかに体重が右脚に掛かっとる…


試合再開。

俺は〝ファイトッ!〟の掛け声と同時に奴へと一直線に走って行った。




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