親愛の証
決戦当日…
長田漁港に着くと既にアイツ等は待っていた。
俺達が近付くのをニヤニヤしながら眺めとる。
「おぅおぅ、やっと到着かいな…えらい待たせてくれたのぅ」
皮肉な笑みで金木が言うと…
「アホゥ…きっちり時間通りやないか。
お前等が早く来すぎただけやろが。こちとら勤勉に励む真面目な学生やからな、暇を持て余しとるお前等が羨ましいわ♪」
柔がキッチリ皮肉で返しよった。
まぁ俺も柔も、胸を張って勤勉に励んどるとは言い難いけども…
「フフン…言うてくれるのぅ。
ま、それはともかくや…今から楽しい楽しいドツキ合いを始める訳やけど、組み合わせはどないするよ?当然俺はお前とヤル腹づもりやねんけどな…ドレッド兄ちゃん」
「あぁ…もちろん俺もそのつもりや。
てか、そのドレッド兄ちゃんてのやめぇやっ!昨日ちゃんと名前教えたやろが!
俺は暮石 柔や!く・れ・い・し・や・わ・らっ!!」
「まぁまぁ細かい事はええやんけ♪
とりあえず俺とお前がヤルのは決定として、残りの組み合わせをどうするかやけども…」
金木が仲間の2人に目をやると…
「最初は俺がヤルわ」
そう言って、GIカットでガタイのええ兄ちゃんが前に出て来た。
身長はそれほど高ぁ無い…170cmそこそこってところか。せやけどとにかくゴツい印象や。
着とるTシャツの胸元も、履いとるカーゴパンツの太もも辺りもパンパンに張っとる。
せやけどムキムキのマッチョって訳やなく、鍛えた筋肉の上に程よく脂肪をコーティングしてる感じ…プロレスラー向きやんけっ!
そんでもって顔はというと…
カミソリで切れ目を入れたような細い目と、ニンニクみたいな形のデカい鼻、更にはおちょぼ口ときた…
うん、ブサイクや。
控え目に言うてもブサイクや。
ようもこの顔でナンパしよなんて思たなと感心すらする…
だからそれを見て俺は言うた。
「島井…お前が行けや」
「ん?それは構へんけど…奴に俺をぶつける根拠はなんや?」
「わかり切った事を訊くな…
ブサイク同士やからに決まっとるやろっ!
自覚が足りんぞっ!このバカチンがっ!!」
「んだとっコラァッ!!ワレから先にイテもたろかいっ!!」
「お前に出来るんかいっ!?もっぺん失神させたろかっ!!」
すると取っ組み合いを始めた俺達に、細目ニンニク鼻がガナリ声を飛ばして参戦!
「オラッ!そこの坊主頭っ!!今なんつったっ!?」
俺も島井も坊主頭やねんけども…まあこの場合、当然俺の事やわな…
だから俺は島井の胸元を掴んだままで答えた。
「ブサイクはブサイク同士でヤレ言うたんじゃっ!」
「ブッ殺すっ!!」
こっちに向かって来ようとした細目ニンニク鼻を金木が止めた。
「まあ待てって」
こちらはこちらで、未だに組み合ったままの俺達を柔が引き離す。
「お前等もええかげんにせぇよっ!アイツ等とヤル前に燃え尽きる気かいやっ!!」
渋々離れた俺達だが、互いにソッポを向いて目も合わせない。
更に島井の奴はヘソ曲げてしもて、細目ニンニク鼻とは絶対にヤラんって言い張っとる…
すると柔の奴がこんな事を言いよった。
「柔道でも剣道でも先鋒戦てのは大事でな…その後の流れを掴む為にも強めの選手を出すもんや。柔道家のお前なら知ってるやろ?
せやから島井よ、ここはお前が出てくれ…頼むわ」
「ちょ、ちょ~待てや柔っ!それやったら出るんは俺やろよっ!?俺はこのゴリラに勝っとるやぞっ!?」
「勇…この際やからハッキリ言うとくけど…
今現在この3人の中ではお前が一番弱い」
「な、なんでやねんっ!俺が島井に勝つところお前も見たやろがっ!!」
「あれは島井がお前を嘗めてかかってたからや。それはそれで島井が悪いんは確かやけどな。でも考えてみ?…島井が最初から本気でお前を潰す気やったらどうなってた?
序盤の上になられた時点でお前は負けとったはずや」
ぐうの音も出ぇへんかった…
確かに柔の言う通りやねん。
自分でもそれは解ってる。
あれはラッキーで勝てたようなもんや…
俺の実力はまだまだ島井にも柔にも及ばへん。
「そういう理由やから島井に出てもらう…
ええな勇?納得したなら島井に謝れ。さっきのやり取りは100%お前が悪いからなぁ」
「わぁった…」
俺は気まずい思いで島井の前に立つと、そのまま腰を折って膝に手を当てた。
「島井…すまんかった、勘弁してくれ。
柔の言う事に異論はあらへん…ここは俺より強いお前が行ってくれ」
「お、応…ワシもちぃ~とばかしムキになってしもうて…なんやそのぅ…悪かったのぅ」
照れたゴツめの男同士…端から見ればさぞ気持ち悪い光景やったやろな。
でもそれに追い打ちをかけるような一言を柔がブッ込みよった…
「よしっ!んじゃ仲直りの証に握手とハグしてもらおか♪」
「へ?」
「はい?」
「アホゥッ!昔から、握手とハグこそが親愛の証と相場は決まっとるやろがっ!やいやい言うとらんと早ぅせんかいっ!!」
結構ガチで怖い顔してる柔に気圧されてしもて…
俺達は頬を赤らめながら手を握り合った。
そして…
どちらからとも無くグンッと身体を引き寄せ合うと、互いの背中をポンポンと叩いた…
なんやこの需要の全く無さそうなBL要素はっ!
するとそれを見ていた金木のグループが、腹を抱えながら笑ろぅてる。
更に事もあろうか、とんでもない野次を飛ばして来よった!
「キ~スッ!」
「キ~スッ!!」
「あ、それっ!キ~スッ!キ~スッ!!」
俺達は互いの身体を離す事無く、首だけを奴等に向けると〝コブクロ〟ばりのハモりでシャウトしてた。
「誰がするかいっ!このボケッ!!」
そんなこんなで先鋒戦は島井と細目ニンニク鼻に決まり、大将戦は柔と金木に決まっとる。
となると中堅戦の俺の相手は…
そう思って連中に目を向けると、昨日須磨で 柔に喰ってかかったチンピラ風情が目に入った。必然的に奴が俺の相手って訳や。
なかなかの出っ歯とギョロ目が印象的やけども、体格的には全くの普通。
ややこしそうやけど、決して強そうには見えへん。でも喧嘩慣れはしてそうやから油断は大敵やな…
こうして組み合わせが決まり、夕方の長田漁港で俺達の闘いは始まろうとしてる。
漁師達の姿は全く見えず、観客といえば大量のカモメ達だけだった。




