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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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術中にはまる…

狂犬みてぇに飛び出した俺に対し、匠の野郎は静かな佇まいでドンッと構えてやがる。

それどころか俺を制するかの様に握手を求めて来やがった!

でもよ、何がムカつくって…その行為にまんまと制されて、足を止めちまった俺自身に1番ムカつくわいっ!

俺はその怒りを、奴の手を叩き落とす事で晴らしてやった。もちろん挑発の意味も込めて…な。

どうだい?オメェも流石にムカついたやろ?

……けっ!相変わらずの仏頂面かいな…

つまんねぇ野郎やな。

まぁええわ、オメェの表情は試合の中で必ず変えてやっから…よ。


さて…先ずはオメェがどう動くか、様子を見させて貰うでぇ。

流石に頭部だけはガッチリとガード固めさせて貰うけどよ、それ以外の部分は好きに打たせたる。

ほれどした?脇腹をガラ空きにしてんだぜ、蹴りたくなるだろぅよ?

足だってそうや…あえてフットワークを使わんと、ベタ足でおるんやで?

さあ蹴って来いや、その瞬間に捕まえてやっから♪


「アモーン!待っとらんと自分から行けっ!!序盤に打撃喰らったら、絶対に後から効いて来てまうどっ!!」


ん?勇か…んな事ぁわあっとるわいな。

でも俺には俺の組み立てってもんがあるんや、悪いけど黙っててくれるか?

……俺からセコンド頼んどいて酷い言い種やけどよ、暫くは好きにやらせてくれや。


匠の野郎も様子を見てるのか、前に出した左足を時々フワリと浮かせて〝蹴るぞ〟アピールしながら間合いを測っとる。

そうかい…オメェも怖いのかい?

そりゃ怖いよな、正直俺だって怖い…

異種格闘技戦なんざぁそんなもんよな?

普段手を合わせてる同門と違って、相手がどんな技を持ってるかもわからねぇんだからよ…

闘いにおいて敵の戦力がわからねぇってのは本当に怖いもんや。

まして俺はデビュー戦で無名の男や、オメェからしたら入手したくても入手するだけの情報すら無かったんやもんな?

おっ!?奴の空気が変わったな…

いよいよ来る気になったかい?

そうでなくっちゃな…さあ来いよっ!全部受け切ってやっからよっ!?


1分程も見合ってたかな…ようやく匠の野郎が左足で俺の内股へローを打って来た。

探るって性質のもんやない、本気で倒す為の〝それ〟やった。

俺は脛で受けんと足の角度を変えて衝撃を逃がし、引き足を捕らえようと手を伸ばした。

ところが…


〝ちっ…流石に速ぇな…〟

捕らえ切れずに舌打ちしたところで、またも勇の叫び声が俺の背を打つ。


「アホゥッ!ガード上げぇ~っ!!」


その瞬間、電流みたいな(もん)が俺の背中をチリチリと走った!


〝ヤベェ…!〟

本能的に危険を察知した俺。

見ると匠の奴が、拳を振り上げながら俺の眼前まで迫っとるやんけっ!!

俺は蹴り足を捕らえようとしてた両手を急いで頭部へと戻す!

身体を丸め両腕で頭を包みながら、この後に来るであろう衝撃に備えた!!


ドンッ!!


〝え…?〟


確かに衝撃はやって来た…

せやけどそれは、想定しとったのとは別の形で俺を襲いよったんや。

浮遊感…そう、例えるなら浮遊感や…

実際、腰の辺りに大きな衝撃を感じた後、俺の身体はフワリと宙に浮いたんやから…

俺の視界が上へと移動する。

やがて目映い光の渦が俺の視界を塗りつぶした。

次にやって来たのは背中を打つ強い衝撃!

俺はようやく自分の置かれた状況を理解した。


〝クッ…!レスラーの俺にタックルやと?〟


舐められたもんや…

空手家の奴が、プロレスラーの俺に組み技勝負を挑んで来るとは…な。

ええやろ…受けたるっ!アマレスで全国行った寝技の技術を見せたろやないかっ!!

とは言えや…反応が遅れた俺は後手に回らざるを得ん状況…

マウントこそ取られて無いものの、ハーフガードの体勢はマズいわな…


「アモーン!足抜けっ!!先ずはガードポジションに持って行くんやっ!!」


ったく…うるさい奴っちゃのぅ…わかっとるっちゅうねん!

少なくとも寝技はお前より俺の方が上手い…

ガハッ!!

し、しもた…!

要らん事考えとったらコイツ…

強引にパンチ打って来よった…

不完全な体勢やのに、なんちゅう威力や!?

こいつぁマウントだけは絶対に取らせたらアカン!!


「無理すんなっ!先ずはエスケープせえっ!!まだ序盤やねんから取り返せるっ!!」


へ、へへへ…そりゃ出来へん相談やで勇よ…

プロレスラーの俺が…

空手家に有利なポジションを取られ…

あまつさえ先にロープエスケープ…

そんなん負けと一緒やんけっ!!


俺は手で奴の胸元を押しながら〝エビの動き〟で後ろに下がると、奴の股ぐらに挟まっとる右足を抜きに掛かる。

あと少し…もうちょっとでイケる…


〝よっしゃ!抜けたっ!!〟

そう思った瞬間、俺の右足を激痛が襲った。

自由になったばかりの右足、その内もも辺りに匠の奴がパンチを打ち込んだんやっ!

これで動きを止めてしもた俺へ、奴が一気にのしかかるっ!!

情けない事に、あれよあれよと言う間にマウントポジションを取られてしもてたんや…


「悪いが…一気に決めさせて貰う…」


初めて聞いた匠の声…

俺は視界いっぱいに迫り来るデカい拳を目にしながら

〝結構いい声してんなオイ…〟

そんな間抜けな事を考えてたんや…






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