背に紅葉
アモーンと俺の特訓の日々は足早に過ぎて行き、気がつけばあっという間に2ヶ月が経っとった。
そう!今日は8月30日…アモーンのデビュー戦当日やっ!
え?特訓の内容は?ってか…
フフン♪それはアモーンの闘いっぷりを観てのお楽しみやがな♪
闘いの場となるワールド記念ホールは、開場前からファンが長蛇の列をなしとる。
グッズ売り場の人だかりが凄く、トラブルやパニックが起こらん様にと、警備員のバイトが絶えず声を張り上げとったわ。
新興団体〝マストアイテム〟が主催する初興行であり、イベント名は〝咆哮〟。
新参者が1発目に打った興行としては、この賑わいなら成功と言えるんちゃうやろか?
それもそのはず…空手、修斗、柔道、キック、MMA、そして我等がプロレスと色んな格闘技団体から選手を招聘しての一大イベントやからな。
言うなれば〝格闘技の祭典〟や…ジャンルが多いから各ジャンルのファンが集まってる訳やし、賑わって当然やわな。
それにルールも多彩で、純粋な空手の試合もあればキックやプロレスの試合もある…
かと思えば他流試合もあり、その他流試合でもMMAルールとロストポイント制ルールに分かれてて、あらゆる格闘技ファンに対応出来るだけのバラエティーぶりや。
そしてその中でもアモーンが闘るのはロストポイント制。しかも特別ルールやっ!
この〝特別〟の部分は後でリングアナから説明があるやろから詳細は端折るけど、どうやらアモーン自ら直訴・提案した物らしいわ。
更に言うなら奴の出番は第1試合!
イベントの熱量を左右する大事なポジションや。
第1試合が熱い内容の場合、その熱量に引っ張られて後続の試合も良い内容になる事は多い…
まぁ逆を言えば、転けた時はその後も転けるかも知れん訳やから責任重大やわな…
おっと!もうこんな時間…開会セレモニーの15分前やんけっ!
セレモニーが終わったら10分後にはアモーンの出番や。セコンドには当然ながら俺が就く。
んじゃあそろそろ準備始めるとするか…
ー・ー・ー・ー・35分後・ー・ー・ー・ー・ー
ようやく控え室に戻れたで…
思ったよりセレモニーが長引いてしもた。
レーザー光線を駆使した派手な全選手入場…
と、ここまでは良かったんやけど、主催者のオッサンがまあ喋る喋る!
団体理念やら今後の展望やらオッサン無双のワンマンショー…しまいに客席から総ブーイングを浴びる始末。ったく!選手の集中力が途切れたらどないすんねんって話よな!!
それはそうと…
「どないやアモーン…緊張しとるか?」
「すんなって方が無理あるやろ?」
「ハハハ…それもそうやの♪」
きっと本音やろぅな…
さっきから忙しなくシャドーを繰り返しとるのが全てを物語っとる。
「アモーン、動き過ぎや…試合で疲れが出たらアカン。それくらいにしとけ」
声を掛けてようやく動きを止めたアモーン。
全身に汗の玉が浮き、部屋のライトに反射してキラキラ光っとる…
俺は肩にかけたタオルでそれを拭くと
「時間や行くでっ!?」
気合いの乗った声で奴の背中を押す。
するとアモーンは…
「気合いを1発頼むわ…」
そう言って俺に背中を向けた。
俺は〝ハァー〟と息を吐き掛けた掌を、思いっきりそこへと叩きつけた!
「っ~~!!」
声にならない声を吐きながらアモーンが背中を仰け反らす。
「どや…効いたか?」
「サンキュー…これで気合い十分やがな♪」
「よっしゃ!なら行くでっ!!」
「応っ!!川瀬 亜門…推して参るっ!!」
黒いショートタイツと黒いレガース、更には黒いオープンフィンガーグローブを纏い、黒いタオルを頭から被った黒づくめの男が背を向ける。
自身が選んだテーマ曲が流れる中、花道へと出て歓声を浴びる黒づくめの男やけど、その背中には俺の残した紅葉が真っ赤に色付いとったんや。




