〝あったか~い〟話
アモーンからデビューの話を聞いた次の日の夜…
「勇、ちっと付き合ってくれんか?」
アモーンから声を掛けられた。
「あ~…ごめんなさいっ!」
俺は深々と頭を下げて詫びた。
「ん?またご丁寧な詫び方やけども…なんか都合悪いんか?」
「だってよ…俺、彼女居るし…そもそもソッチの気は無いしよ…」
「え~っと…うんっ!アホなお前に対して言葉足らずやった俺が悪いんやなコレは…」
「だ、誰がアホやねんっ!!」
「お前以外に誰がおるんじゃ!何が悲しゅうて俺がお前に交際申し込まなアカンねんっ!
付き合ってくれってのは、面貸してくれって意味に決まっとるやろがいっ!この、すっとこプロレスラーがっ!!」
「あぁ…なんだそっちね♪」
「そっちもクソも、それ以外の意味があってたまるかいっ!ったくよ…で、時間あるんか?」
「ああ、構へんよ」
そんなやり取りの後、合宿所を抜け出した俺達は静かな夜の道を歩いとった…
テクテク…トロトロ…チンチラと。
奴が話す内容と言えば他愛のない物ばかり。
あのTV番組がどうだの…
どのアイドルが可愛いだの…
アモーンがどういう真意で俺を呼び出したんか、俺はそれを掴めないままで奴の話に付き合っとったんや。
20分程も歩いたやろか…ついに俺は痺れを切らせてアモーンに尋ねた。
「よう…お前、そんな話する為に俺を呼び出した訳?」
「……」
「ちゃうやろ?与太話やったら合宿所でも出来るもんなぁ?言いたい事あるんやったら、ええ加減話してくれや…」
するとアモーンの奴、何を思ったか俺に背を向けて近くにあった自販機へと歩き出した。
俺は溜め息をつきながらも、しゃあなしに奴の後へと続いた。
そして小銭を出しながらアモーンが言う…
「お前、コーヒーは苦手やったっけか?」
「お、おぅ…てか、奢ってくれるの?お前が?」
「文句あるんかいな?」
「いや…珍しい事もあるもんやなぁと思ってやな…」
「人を守銭奴みてぇに言うんじゃねぇよ!」
「実際、守銭奴みてぇなもんやろがっ!いつもいつも俺達にたかりやがってよ!!みんな言ってんぞ、お前が自分でジュースやアイス買うの見るんは、UMAと出会うより難しいってよっ!!」
「…酷ぇ言われようだなオイ…てかよ1ヶ月とは言えお前らの方が先輩な訳やん?可愛い後輩には気持ち良く奢ってやろうって気にならんもんかねぇ…実際」
「お前…戻ったら辞書で可愛いって言葉の意味を調べとけな…」
そんな軽い口論の後、ようやく小銭を投入したアモーン。
「コーヒーがアカンのやったら…〝あったか~い〟おしるこでええか?」
「ちょ、おま…7月に入ったこの時期に何が悲しゅうて〝あったか~い〟おしるこ飲まなアカンねんっ!ちったぁ考えろやアホッ!!てか、夏も近いってのに〝あったか~い〟が未だある事に驚くわ…この自販機の管理者はなっとらんのぅ…」
「奢って貰う身分のくせにうるさい奴っちゃのう…そんな事じゃ彼女も出来んぞお前…」
「てめぇ…さっきの話聞いてたか?俺は居るのっ!彼女っ!!」
「ああ…そやったのスマンスマン!こないだ控え室に来とったドSの毒舌彼女な♪」
「お前…それ本人に言うたら殺されっぞ…マジで…キレたあの子は地上最強の生物やねんからよ…」
大袈裟でなく身震いしながら伝える俺…
「ハハハ…お前も気苦労が絶えんのぅ。ホレッ!」
笑いながらアモーンが缶ジュースを放り投げた。
それを慌てて受け止めた俺…
「おっとと…熱っ!!」
このアホ、まんまと〝あったか~い〟を買ってよこしよった!しかも苦手やって言うたはずのコーヒー!!更にロングの500mlっ!!!
もっと言うなら、この季節〝あったか~い〟は売れんもんやから、メチャクチャに熱ぅなっとるやんけ!!
ここまで来たら只の嫌がらせとしか思えんのだが…?
そんな事を思っていると、何やら電子音が聞こえた後にアモーンによる歓喜の叫びが…
「ウヒョ~♪当たった!当たったよ~見ろよコレ!ついとる!ついとるでぇ~1本分の出費で済んだばい♪」
良かったね…守銭奴くん…
「で、アモーンよ…さっきの話の続きやけど…」
「ん…あぁ…とりあえずそこの公園で座って話そうや…」
石屋川公園…石屋川沿いの住宅地に佇む古くて小さな公園やけど、地元の子供やお年寄りに愛されとる地域密着型の公園や。あ…公園は基本、地域密着型か…ハハハ…
それはともかく…ベンチに腰掛けた俺達。
直ぐ様アモーンが開けたプルタブの金属音が闇に溶けた。
俺のコーヒーは、熱すぎて持つ事もままならへんからジャージのポケットに入れたまま…
それでも熱いんやけどなっ(怒)
恨めしそうに睨む俺に気付いたアモーン…
「ん、どした…飲まんのか?遠慮すんなや!いつも奢って貰っとるからよ、倍返しで500mlにしといたんやで♪」
「…うん…先ずは350の倍は500とちゃうし、俺はコーヒー苦手やって言うたはずやし、〝あったか~い〟通りこして〝クソあっつ~い〟やし、言いたい文句があり過ぎて渋滞おこしとるわアホッ!!」
「それはそうと話ってやつやねんけどな…」
「シレッとスルーすんなっ!!ったくよ…まぁええわ…で、その話って何やねんなっ!?」
俺の問いにアモーンの表情が変わった。
真剣ながらもどこか不安げで、憂いを帯びた視線を地面へと落としとる。
そして苦い物を吐き出すような声を絞り出したんや…
「勇…力ぁ貸してくれるか…?」




