表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中指 立てたら  作者: 福島崇史
104/248

アモーンの憂鬱

それは俺達同期のデビュー戦が終わった翌日の事やった…

朝の合同練習が終わった後で、奥堂コーチがアモーンの奴に声を掛けたんや。


「おうっ!川瀬っ!!ちぃ~とばかり(ツラ)貸せやっ!!」


「あんっ!?」


それを見た俺達の間には、当然ながら緊張が走った。

だってそうやろ?

元々アモーンの奴は道場破りとしてこの場所を訪れ、健闘したとは言え奥堂コーチにボコられてるんやから…

ほんでアモーンが正式に入門した後も、コーチと新人とは思えんほど犬猿の仲っぷりや…緊張すんなってのが無理な話やで。

でもそんな俺達を尻目に、奥堂コーチはアモーンを引き連れて道場の外へと出て行ってしもたんや。


「何事やろな…」

タオルで汗を拭きながら、ティラノが心配そうに呟いた。


「まさかあの時のリマッチ…なんて事は無いっスよね?」

モリスエの奴も不安そうや…


「それは無いだろう。アモーンから呼び出したならいざ知らず、勝者である奥堂さんがリマッチを申し入れる必要性もあるまい?」

流石は同期一の知性派。トリケラだけは冷静に分析してるわ。


「ま、俺達が心配してもしゃあない!黙ってアモーンが戻るのを待とうや!」

俺は必要以上に明るくそう言っとった。

内心の不安を掻き消すみたいに…な。


すると…ものの5分程でアモーンの奴が戻って来よった。

そこへ俺達同期が駆け寄る。


「無事っスか!?怪我は無いっスか!?」

前後上下左右と、アモーンの全身へ隈無く目を走らせるモリスエ。


「怪我?…なんで?」

アモーンはこちらが拍子抜けする程にキョトン顔や。


「そりゃモリスエだけや()ぅて、俺達だってその心配するわいや。なんせお前と奥堂さんが2人で出てったんやからの」

と、ティラノ。


「せやせや!普段からお前と奥堂さんの犬猿っぷりを見せられとる身になってみ?心配すんなってのは酷な話やどっ!」

俺もティラノの言葉に乗っかった。


「あぁ…そういう事か…そりゃすまなんだな…」

珍しくアモーンの奴も素直に詫びている御様子。


「とりあえず…何の話だったのか聞かせてくれないか?」

トリケラはそう言うと、ペタンとその場に座り込んだ。どうやらじっくり話を聞くつもりらしい。

俺達もそれに倣って次々と腰を下ろす。

だがアモーンの奴だけは立ったままでこない言うたんや…


「俺の…俺のデビュー戦が決まった。その事を伝えられただけや…」


「マジでっ!!?」

俺達は練習したかの様に声を合わせると、せっかく下ろしたばかりの腰を再び持ち上げとった!


「ああ…マジや…」


せっかくデビューが決まったっちゅうのに、アモーンの声には元気が無い…

トリケラの奴も不審に思ったんやろう…


「みんな…もっかい座ろうか?」


そう言って再びじっくり話を聞く体勢に入ったんや。

俺達もそれに続き、今回はアモーンも一緒に腰を下ろした。

円陣を組む様な形で座り込んだ俺達。

そしてこの場のMCを務めたのは、やはり知性派のトリケラやった。


「さて、アモーンよ…待ち焦がれたはずのデビューが決まっておきながら、お前が元気の無い理由ってやつを聞かせて貰おうか?」


アモーンは同期扱いとは言え、実際は俺達より3ヶ月遅れでの入門…

だから当然デビュー戦も俺達より遅れた訳や。

実際に俺達のデビューが決まった時、喜んでくれながらも時々寂しそうな表情を見せとった…

だから今回の話が嬉しく無い訳あらへん!

さあ、アモーンよ…何があったんか話してみい…

腹にある(もん)を俺達に全部吐き出してみい…


やがて…暫くの間は置いたものの、ようやくアモーンの奴がポツポツと言葉を繋ぎ始めた。


「デビューは今日からきっちり2ヶ月後の8月30日…場所は…ワールド記念ホールや…」


「ワ、ワールド記念ホールっ!?」

俺達はさっきと同じく、声を揃えて一斉に立ち上がっとった!

…何?このデジャヴ…


いや!俺達が驚くのも当然やで!!

俺達が所属する団体〝セレクト〟は、言うなれば弱小インディーズ団体や。

確かに有名選手や人気選手も()るには()る。

でもそれは個性豊かな面子が揃ってるお陰で、他団体から選手派遣の依頼が多いからや。

悲しいけど決してうちの団体だけでの力や無い…

だから自主興行をやる時は大体、どこぞにリングを組んだだけの〝○○特設リング〟っていう名ばかりの会場…

ビッグマッチや特別なイベントの時でも、西代体育館かサンボーホールでいっぱいいっぱい。

それが最大客席8000を誇るワールド記念ホールと聞かされりゃあ、奇声を発するのも()む無しやっちゅうねんっ!!


唯一座ったままのアモーンが、立ち上がった俺達を見上げながら言う。

「ええからとりあえず座ってくれや…」


「お、おぅ…せ、せやな…座ろか…」

動揺を隠せないティラノの音頭でもっかい座る俺達。

それを見届けたアモーンが再び口を開く。


「まぁお前らが驚くのも無理ないわな…せやけど考えてみ?うちの団体にワールドを埋めるだけの集客力があると思うか?」


「て…事は?」


「そうや…自主興行や無い。他団体の興行や」


なるほど…そりゃ複雑な気分やろな。

せっかくデビューが決まったのに所属団体での興行や無いんやから…

ここでトリケラの奴が俺達の1番知りたい事を訊く。


「で…その興行、主催するのはどこの団体なんだ?」


「それがよ…最近出来たばっかの新興団体…いや、プロレス団体ですら無いんや…」


「ど、どういう事っスか?」

モリスエの疑問はごもっとも。

俺達全員の頭上に〝?〟が浮かんでるもの…


「オレァ頭悪ぃからよ…奥堂のオッサンの説明聞いても今一つ理解出来てねぇんだが…どこぞのイベント会社が最近の格闘技ブームに目をつけて立ち上げた団体らしい…名前は〝マストアイテム〟だからその興行もよ、プロレスだけじゃ無くて色んな格闘技の試合が行われるって話や…」


「つまり…色んな格闘技団体やプロレス団体から選手を呼び試合を組む…そういう興行という事か…」

トリケラの呟きに黙って頷くアモーン。


「で、でよぅ…お前の相手は誰やねんなっ!?」

今度はティラノが質問を飛ばした。

皆が固唾を飲んでアモーンの答えを待つ…


「俺の…俺の相手は…神竜会(しんりゅうかい)空手無差別級世界王者…(たくみ) 康生(こうせい)…つまり異種格闘技戦でのデビューっちゅう事っちゃ…」


「な、何いぃぃ~っ!?」

一斉に声を上げて立ち上がるという、本日3度目のこの流れ…デジャヴが過ぎる!

てか…合同練習で散々スクワットやったんやから、立ったり座ったりはもう勘弁…


まぁとにかくや…アモーンこと川瀬 亜門、無事に(?)デビュー決定!!






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ