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中指 立てたら  作者: 福島崇史
103/248

1つウエノ男に…

鳴り響く鐘の音!

レフリーの五十嵐さんが俺達の身体を引き剥がした!


〝ギブアップか…タイムアップか…どっちやっ!?〟


見上げた俺達にアナウンスが降り注ぐ…

「只今の試合!15分時間切れにより引き分けとなりますっ!!」


〝マ、マジかっ!?〟


悔しさで思わずマットを叩く俺…

モリスエの奴も未だ左腕を抱えたまま立ち上がれないでおる…

その時、観客席からブーイングと野次が浴びせられた。


「おいっ!喜界のタップの方が早かったんちゃうんかいっ!?」


「せやせやっ!不惑の勝ちやろがいっ!!」


「レフリー!眼医者行った方がええのんとちゃうか!おおぅっ!?」


やがてこの騒動を収めようと、五十嵐さんがマイクを握った…


「只今の結果についてご説明申し上げますっ!

確かに不惑選手が最後に仕掛けた〝首極め腕卍〟により喜界選手はタップをしました…しかしっ!ギブアップの意思表示は2回以上のタップと決められており、喜界選手の2度目のタップ以前に試合終了時間となった為、この試合は引き分けとさせて頂きますっ!!」


これにより客席は鎮まったが、気付けば俺は五十嵐さんに突っ掛かっとった…1つだけどうにも納得がいかない事があったからや!


「ちょ…五十嵐さんっ!試合結果については納得してますけど、その〝首極め腕卍〟ってのは(なん)ですのんっ!?あれは俺のオリジナル技〝不破クラッチ〟っすよっ!?」


「えぇ…?そ、そこっ!?てか…あの技は元々コマンドサンボの技やし、リングスでヴォルク・ハン選手が何度か使っとるやんけ!?」


「え…そ、そうなんすか…?で、でも同じ技でも使い手によって名前を変えるんはプロレスの定番っしょっ!?これから俺が使った時は〝不破クラッチ〟でお願いしますよっ!!」


「わあったわあった!」

五十嵐さんが困惑した顔で、面倒くさそうに答えはった…

すると今度はモリスエの奴が喰って掛かる。


「自分もちょっといいスかっ!?自分は喜界選手じゃ無くて謎のマスクマン〝マスク・ド・モリスエ〟っス!そこんところは譲れないっスからっ!!」


「うるせぇよ…うるせぇよっ!!お前ら面倒くせぇわっ!!

ほらっ!試合は終わったんや!とっとと控え室に戻らんかいっジャリ共がっ!!」

ついにブチ切れた五十嵐さん…それを後押しする様に、客席からは又もやブーイングが飛び始めた。


「か~えれ!か~えれっ!!」


満場の帰れコールに見送られながらリングを下りるという、最悪の幕引きとなった俺のデビュー戦…

ほんまホロ苦いでぇ…


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


控え室に戻るとティラノの奴が開口一番


「よぅ!良くも悪くも客にインパクトは与えたみたいやのぅ…良かったやんけ覚えて貰えて♪」


「ヒニク ヲ ケンチ 」

俺がロボット口調で答えた時、マスクを被ったままのモリスエがやって来た。


「勇さん、お疲れ様っス。試合は引き分けっスけど、あと数秒あればアンタの勝ちだったっス…でも次はそうはいかないっスからね!」


「応、お疲れ!俺も楽しかったで!次はキッチリ決めたるから覚悟したれや♪」


答えた時、モリスエの背後に人影がある事に気がついた。


「あ…この方、勇さんの知り合いだってんで連れて来たんスけど…」


ひょっこりと顔を出したのは…


「お疲れ!デビューおめでとう!」


「そ、そそぐちゃんっ!来とったんかいな!?」


「当たり前やん!てか…デビュー決まったんなら直接連絡くらいして来てよねっ!!」


「あ、いや…ハハ…ごめん…デビューを終えてから会いに行くつもりやったから…さ…」


「まぁそれは良いとして…」

ここで彼女の表情と口調が一変する…


「てめぇ!こんな訳のわからん物被った奴と引き分けてんじゃねえよっ!しょっぱい野郎だな!おおっ!?」


あ、やべ…毒島そそぐの本性が顔を出してしもた…


「あ…しょっぱい試合してゴメン…てか…おいっティラノ!〝被る〟に反応して股間押さえてんじゃねぇよっ!!」


「いや…つい…でもよ!モリスエの奴だってマスクだけや無くて〝下〟も被っとるんやぞっ!!」


するとモリスエが腕組みしたまま得意気に言う。


「寺野さんと一緒にしないで欲しいっス!自分のは仮性っスから!!」


「あ~っ!お前っ!!女の子が居る前でそれ言うかぁ~~っ!?」

叫んだティラノに向かって、そそぐちゃんが冷静な口調でアドバイスを送った…


「1つウエノ男になる為に東京上野クリニック行く事をオススメするわ…まぁ高須クリニックでもええんやけどね」


「あ…はい…」


こうして俺達の〝色々とホロ苦い〟デビュー戦は無事に(?)終わったんや…







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