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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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格闘技とプロレスと…

舞い降りる人影…

俺が一呼吸ついとる間に、モリスエの奴がコーナーポストからフットスタンプを仕掛けやがったんや!


〝逃げる?迎撃?転がる?膝立てる?いや…どっちにしろもう遅い!!〟


モリスエがポストから落下して来る1秒にも満たない時間…そんな中、日常では有り得ない速さで思考を巡らせる。

が!その速度をもってしても時既に遅く、捻り出した答えは結局…


〝全筋力を腹に集中!!〟


砕けんばかりに歯を食い縛った俺やったけど、奴の足裏が腹に接したその瞬間、それは容易く抉じ開けられてしもてた。

決壊と同時に流れ出たんは酸っぱい液体と太い呼気…

俺は胃液と涎を撒き散らしながら、リング上を無様に転がり回った。

せやけどモリスエも容赦あらへん…苦しむ俺を引き摺り起こすと、休む間も与えんままリング下に投げ捨ててくれよった!

情けない事に、然したる抵抗も出来んまま場外に転がり落ちた俺…


涙と鼻水と涎でグチャグチャの顔をようやく手で拭い、首を振りながらリングへ視線を戻すと、助走をつけたモリスエが場外に向かって来よるやないかっ!!


〝トペ・コン・ヒーロ?トペ・スイシーダ?

どっちゃでもええわっ!とにかく受け止め…〟


ところがモリスエの奴、俺を嘲笑うかの様にセカンドロープとトップロープの間でクルリと身体を回転させて、そのままリングに戻ってしもたんやっ!


〝なんや…跳ばへんのかい?舐めくさって!〟


そう思って警戒を解いた瞬間、奴がヒョイとトップロープに跳び乗った!


〝いや、やっぱり跳ぶんかぁ~いっ!!〟


心の中で突っ込む俺に、そこからバク宙で身体を浴びせて来るモリスエ!ところが…浅い!


〝ん?いや…おいおい…それじゃ届かんぞ…ヤバい!その距離やと自爆やんけ!?〟


焦った俺は、奴の攻撃が当たる様に2~3歩前に出たんや。

その甲斐あって、モリスエを受け止めたまま派手に場外フェンスへと激突出来た。

そして場外カウントが進む中、モリスエが俺の耳元で囁いたんや…


〝すんません…助かったっス…〟


その言葉を残して一足先にリングへと戻ったモリスエ。まだ座り込んだままの俺を上から見下ろし、ポーズを取りながら観客へとアピールしとる。

まだカウントは12…俺はギリギリまで休んでからリングに戻るつもりや。

ん?対戦相手を気遣うのはおかしいやろっ!…て?

そんなん八百長やないかっ!…てか?

いや…そうや無いで!

むしろ全てのプロレスラー・プロレスファンが俺と同じ事を考えるはずや!


場外への跳び技を失敗し、選手生命を絶たれたレスラーも少なくない。

ライバルが…仲間が…同志が…そんな形で壊れるのを…去って行くのを望む人間なんておらへん!

おるとしたらそいつはプロレスラー失格やっ!!


それに…プロレスと他の格闘技の決定的な違いって何やと思う?

それはな、格闘技は相手の技を受けずに勝つ事を信条としとるのに対し、プロレスは受けて受けて、受け切った上で勝つ事や。

つまりは受けの凄みと美学!これこそがプロレスがプロレスたる所以やっ!!

ロープに振られて戻るのも、相手の技を待つのも、それがプロレスの〝ルール〟やと思えば納得出来るはずや。

これを理不尽と言うんなら、サッカーが手を使ったら反則なんも、ボクシングが蹴ったら反則なんも理不尽て事になる。


おっと…もうカウント17か!

プロレス論はこれくらいにしてそろそろリングに戻りますかね…

こうして俺がリングに転がり込んだ時、試合の残り時間が6分になっとった。


悪かったなぁモリスエよ…

俺は今まで心の何処かでルチャを舐めてた…

身体の小さい奴がそのハンデを誤魔化す為にピョンピョン跳び回る…その程度にしか思って無かった…

でもな直接手を合わせてみて考えが変わったで!

リングから場外に跳ぶ…飛ぶ…その事がどれ程に怖い事か!

それだけでも凄い事やのに、お前が使ったジャベ(関節技)も実戦で使えるレベルやし、空手仕込みの打撃もなかなかや…

もっかい言うでぇモリスエ…舐めてて悪かった。

お前の目指すコマンド・ルチャは当然まだ未完成やろけど、今のままでもルチャ・リブレは立派な格闘技で立派なプロレスのスタイルやで!!

さぁて…残り5分!

今までお前の見せ場ばっかでええ所無しやったけど、ラスト5分は俺の独壇場にさせて貰うでぇ!!


こうして仕切り直した時、意外にも俺達は正面からガッツリ組み合ってたんや…






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