デカい靴裏
「ブレイクッ!」
レフリーの五十嵐さんが、野太い声で叫びながら俺達の身体を引き離した。
そう!これこそが俺の狙いやったんや!
モリスエに極められたのはコーナー付近…
とは言え完璧に固められてたから、スタンディング状態ではロープにエスケープなんて出来へんかった。
ならどうする?
答えは1つや…多少のダメージは覚悟してでも、倒れ込んでロープに身体を触れさせる!
「なるほど…これがアンタの狙いだったんスか…場所に救われたっスねぇ。でも次はそう上手くいかないっスよ、リング中央でガッチリ極めてみせるっス…クレイジーチョッパーを!!」
「え~っと…はい?クレイジー…なんて?」
「クレイジーチョッパーっス!さっきの技の名前っス!!」
「いや…技の名前も何も、お前さっきあれが本当のパロスペシャルって言うとったやんけ…」
「そうっス!あれが本当のパロスペシャルっス!でもそれじゃ面白くないんで、オリジナルの名前を考えたんス!」
「いつよ?」
「今っス!アンタの背中に跨がってる時
〝あ、この形…チョッパーハンドルのバイクに似てるっスねぇ〟って思ったっス!」
「ほほぅ…俺に跨がりながらそんな事考えてたんだぁモリスエちゃんは…偉くなったもんだねぇ君も♪
でもよ、ウォーズマンのパロスペシャルの方がチョッパーバイクに跨がってる様に見えるで?お前のは後ろ向きやからバイクに喩えるのは変じゃね?」
「そうっス!変っス!だからクレイジーなんス!!クレイジーチョッパーなんスよっ!!」
「わぁったわぁった!暑苦しい奴っちゃな…」
と、ここで再びあの野太い声が俺達にかけられた…
「お喋りを楽しんでるところ悪いんやけどな…お前ら試合中って事を忘れとらんか?」
声のする方を恐る恐る見上げると…
そこには本物の鬼ですら天を仰ぎそうな程、鬼の形相をした五十嵐さんが仁王立ちをしとった…
「あ…さぁせん…」
「面目ないっス…」
謝りながらそそくさと立ち上がると、この様子を見てた観客から笑いと野次が飛ぶ。
「ええぞっレフリー!お前1人でそいつら2人相手したれ~!!」
「せやせや!2対1のハンディキャップマッチや!!」
「い~がらしっ!い~がらしっ!い~がらしっ!」
ったく…好き勝手言いよるわ。しまいにはコールまで起こるってどういう事やねん!?
でもまぁウケた事自体は〝美味しい〟けどな♪
「さて…モリスエよ、ハンディキャップマッチにされても困るし、チャッチャと仕切り直そかぁ?」
「そうっスね…異存は無いっス」
再びリング中央で対峙した俺達。
俺が構えを取ろうとした時、いきなりモリスエが自分の後ろにあるロープへと走り出した。
〝なるほどね〟
俺だってプロレスラー…もっと言うなら年季の入ったプロレスファンでもあるんや、モリスエが取った行動の意味くらいは解る。
だから俺もそれに付き合う事にしたんや。
奴より一瞬遅れてしもたけど、俺も背後のロープへと走る!
そしてすれ違い様、奴へと右のラリアットを振った!!
しかしこれはモリスエが下を潜る!そして尚もロープへ走ってゆく!
〝よしよし♪今度は俺が伏せて、奴がその上を飛び越してって流れやな?〟
この一連の流れは、皆もプロレスの試合で観た事あると思う。
で、俺もセオリーに則ってリングに伏せたんや。
そしたら…
「え…?」
突然、俺の視界がデカい靴裏で埋まった…
そして直後には鼻の奥に鉄錆びの様な匂いが広がる。
あのアホ…せっかく俺が流れに付き合ってやったっちゅうのに、セオリーを無視して伏せた俺の顔にスライディングキックなんざブチ込みやがったんや!
〝あ、あれ…?思ってたのと違うんですけど?〟
怒りと戸惑いで考えが纏まらない俺…
まだ顔面をおさえながらリング上でのたうったまま。
そしてようやく痛みも治まり、立ち上がる前に大の字で一呼吸を入れてたその時、トップロープから舞い降りて来るマスクマンが俺の視界に飛び込んで来たんや…




