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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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ビッグマン イズ ビッグシット

「ようよう!ファッキュー!」


「……」


「ようってばよ!」


「やかましわっ!俺はファッキューじゃなくて不惑(ふわく)(ゆう)やって言うとるやろっ!!」


「まぁまぁそない言うなや。3年の高校生活でファッキューってアダ名が既に定着してもうとるんやからさ、ええかげんお前も諦めて受け入れろや♪」


「ケッ!!」


下校の最中、後ろから俺をファッキューと呼び止めたこの男…

暮石(くれいし)(やわら)

いつも私服で登校するわ、頭はドレッドだわ、女好きのヤリチンだわ…見るからにチャラ男の問題児や。

だがこの男、こう見えてブラジリアン柔術をベースにしたMMA選手で、高校生ながらも既にプロデビューを果たしとる…

いわば俺のライバル!

ムカつく奴やけど、一番気の合う俺の親友でもある…

だからこそコイツにだけは負けられへんっ!!


「しかしファッキューよ、お前も変わった奴っちゃなぁ~

このご時世にプロレスラー目指すて…周囲は就職や進学や言うて頭抱えとるっちゅうのに、これから帰って又トレーニングやろ?ようも飽きん事っちゃな…」


「そういうお前こそ、もうプロデビューしとるから進路なんか関係あらへん…気楽なもんとちゃうんか?」


「ん?へへへッ…まぁな。せやけど俺にとって格闘技はモテる為の武器の1つやからのぅ~♪やっぱ男がモテるには容姿!金!強さ!これが必要やろ?

まぁ金は卒業して、本格的にプロ活動始めてから稼ぎまくるとしてや、その為にも強さが必要っちゅう事っちゃな♪」


ぐぬぬ…なんちゅう言い種や…

やっぱコイツには負けられへんっ!!


「だいたいお前は格闘家やのにチャラ過ぎるねんっ!なんやその髪型はっ!?ケンカで掴まれたら不利やろがっ!」


「フフン♪言うたやろ?モテるのが俺の第一目標やて。

掴まれたら不利やからってお前みたいな坊主にはようせんわ。で、ファッキューは卒業したら直ぐに入門試験受けるんやろ?」


やっぱムカつく…

しかしその怒りをグッと堪えて、俺は柔の問い掛けに答えた。


「いや…まだ受けへん…」


「マジかっ!?なんでやっ!?毎日スクワット2000回に、腕立て腹筋を各300回、ランニングかて5km走っとるんやろ?もう十分に受かるだけの体力あるやろぅよ?

まぁまだまだ技術は俺の方が上やけどな♪ウッシッシッ♪」


コイツのこういうところがムカつく!

だが…


「その通りや…だからこそまだ受けへんのや」


「へ?どういう事?」


「俺は体力、筋力だけならそこらの奴には負けんっ!その自信はあるっ!せやけどお前の言う通り、技術はまだまだ未熟や…」


「そんなもんプロなってから身につけて行くもんやろぅよ?

まずは入門してプロの肩書きをやな…」


「それじゃアカンねやっ!!」

俺は思わず大声で柔の言葉を遮ってしもた…


「ビ、ビックリするやないかっ!いきなり大声出すなやっ!」

柔は目を見開いて、若干引いてるようにも見える。


「すまん…でもな、俺にとってのプロレスラー像っちゅうのは…

格闘王やねんっ!」


「格闘…王…?」

柔が更に引いたのが一目でわかった。

それでも俺は一向に構わず続ける。


「せや!格闘王やっ!!あらゆる格闘家と闘っても決して負けへんっ!!

今のMMA選手は、バカの1つ覚えみたいに有利なポジショニングを取ってマウントパンチや腕ひしぎ、スリーパーを狙う…皆んな同じ技術で個性があらへんっ!

だから俺は、プロレスの技術だけでMMAでも勝つっ!

そんな選手になる為にも、もっと技術を磨いてからプロデビューするんやっ!!ほんで異種格闘技戦においては無敗のまま引退する、それが俺の目標やねんっ!!」


「ちょ…それ、どさくさに紛れてMMA選手の俺をディスってるやないかっ!…まぁええわ…それで技術磨くって、入門試験受けるまではどないするつもりや?」


「色んな格闘技を習うっ!!」


「……」


「……」

暫しの沈黙が俺達を包んだ。

そして…


「はぁ~~っ!?ちょ…おま…言うとる事おかしないか?

プロレスの技術でMMAでも勝つ言うたのに、他の格闘技を習うて…」


「負けへん為にやっ!敵を知るにはその技術を身につけるんが一番やろ?何もその技術で勝とう言うてるんとちゃう、やられへん為にその技術を学ぶんやっ!!」


胸元に握り拳を固め、意気揚々と語る俺を柔の白い視線が突き刺した。


「お、おう…ま、まぁ頑張れや…

しかし…その分やとお前をリングで見るんは、まだかなり先になりそうやのぅ…お前がデビューする頃には、その格闘王とやらの座に俺様が座ってるんちゃうかいな♪」


柔が冗談で言うたんは解ってた…

でも俺はこの言葉で全身に電流が走ったんや。


「それっ!!」


「うおっ!…だからっ!!急にデカい声出すなっちゅうとるねんっ!!」


「今、お前が言うたそれ…めっちゃええやんっ!!」


「それって…俺が格闘王になるっちゅうたやつか?」


「そうやっ!それやっ!!俺がデビューする頃にお前がMMAで何等かのタイトルを手にしてる…ほんで俺がそれに挑戦するんやっ!!かつての友同士が格闘王の座を競い合う…

強敵と書いて(とも)と読む関係になる…くぅ~っ!熱いっ!!

熱すぎる展開に燃えて来たっ!!」


「いや…あの…ちょ、それ…将来の事を勝手に決められても…」


「そうと決まったらジッとなんかしてられへんっ!

俺、ここから走って帰るからよっ♪また明日なっ!!」


「え…お前ん家って5駅先やろぅがっ!?」


引き留める柔を振り切った俺やけど、走り出した瞬間に何かとぶつかった様な衝撃が走った。


「どこ見とるんじゃいコラァ」


太い声が頭上から降って来た…

正面に目を向けると、そこは相手の胸元だった。

身長187cmの俺が見上げる程のデカい相手という事になる。


「あ…ヤバ…あいつは…」

後ろから柔の呟きが聞こえた。

振り返った俺に、声を大きくした柔が更に言う。


「そいつ!滝山高校柔道部の主将やぞっ!!」


滝山高校…俺達の通う育友高校の近くにあり、スポーツでは全国的に有名な学校や。

そこの柔道部主将ならさぞかし強いんやろなぁ…俺の好奇心が蛇の鎌首の様にムクムクと頭をもたげてしもうた。

それが表情に出てたんやろな、相手が目を剥きながらお決まりの台詞を口にする。


「なんやぁ?やるんかいチビ助っ!?」


「やめとけっ勇っ!今のお前が勝てる相手とちゃうっ!!」


止めに入ろうとする柔を腕で跳ね退けた俺は、目の前の相手に右手の中指を立てながら言ってやった。


「ビッグマン イズ ビッグシット!!」


「あぁんっ!?なんやそれっ!?」


「知らんのかいやっ!?プロレスの神様カールゴッチ先生の名言やないかっ!!

ビッグマン イズ ビッグシット…

つまり、デカい奴はデカいウンコの塊やって事っちゃ♪」


どうやら相手がコレにキレたらしい…

ゴリラみたいな顔の分厚い額に、青い血管が浮かび上がったのがハッキリ見える。

もう止まらない事を悟った柔は、額に手を当てながら首を振っていた。









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