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第2章6話:開戦

 ダイゴとアームオブロイヤルのジュンとの激突し、今まさにダイゴ得意の接近戦へ移ろうとしている時、その脇でルナさんとカナエさんがまるでダイゴに任せるように一目散に最奥のマリーへと向かっていく。

 しかしそれを阻もうと同じくアームオブロイヤルのアキラが剣と盾を構えながら立ちはだかった。


「ここから先へ抜かせるつもりはありません。お嬢様には指一本触れさせるつもりはありませんので」

「もしかして、あんた。一人であたし達二人と相手するつもり?」

「そのつもりですが」

「だったら好都合。あっという間に倒してやるわよ」


 カナエさんが真っ先にアキラに向かって斬りかかった。

 大ぶりながらも勢いのついた細剣ならば防ぐことはできても多少の硬直は発生するはずだ。


「やあああっ! これで、どう!」

「甘いです。荒ぶる流れに身を任せ」


 アキラは片手のバックラーのような盾で剣を直接防ごうとはせず、むしろ受け流すように動かすことで剣の力を殺して回避する。

 カナエさんの大ぶりな一撃は逆に仇となってしまい、勢いよく剣に叩きつけるように空ぶってしまい、大きな隙を晒してしまう。


「そして押し流す!」


 カナエさんから受けた力をばねにして片手で飛翔し、一回転して重そうなかかと落としを繰り出す。

 アキラの影がカナエさんに覆いかぶさり、強烈な一撃が放たれそうな瞬間に気付いたカナエさんは、交わすこともできず小さな悲鳴を漏らした。


 直撃すれば気絶が免れないだろう攻撃に隣で観戦しているユリちゃんは思わず目を覆う。

 でも僕は次の瞬間に思わずほくそ笑んだ。


「相変わらず、世話を焼かせる」


 怯んだカナエさんを覆うのはアキラの影ではなく、大盾の巨影。

 カナエさんとアキラの間に割り込んで防御したルナさんの大盾だ。


「あいにくだが、通らず、だ」

「なるほど。やはり援護に回りますか。ならば」


 アキラは空中で身を翻して全体重を乗せて剣を強く振り下ろすと、剣と盾がぶつかる甲高い金属音が鳴り響く。

 想像以上に威力があったのか、ルナさんは防御の反動で動けずにおり、一方でアキラはすぐさま着地してその隙を狙うように低い姿勢を取っていた。

 その狙いはとは、無防備となった足元。


「足元がお留守ですよ」

「くっ……!」

「その大盾はやはり、厄介なもなのです。眠ってもらいます!」


 長い足を伸ばし地面すれすれなほどの低姿勢より放たれる足払いが当たれば、その場で倒れてしまうのは間違いない。


「危ない! アキラ! 上ですわ!」


 遠くで詠唱していたマリーが思わず叫び、僕とユリちゃんは一斉にアキラの頭上を見た。

 そして見上げたアキラも想定外と言った驚きの表情を見せる。


 視線の先にはたゆたいながら大きくなっていく紅蓮の炎。

 炎にゆらめく掌から先へは、火影に映るしてやったりと歯を見せる生意気な顔と、青空の様な青い髪。

 宙返りながらアキラに狙いを定めているカナエさんの姿があった。

 ルナさんが防御してアキラが狙いを定めている、その間に素早く空中へ跳躍し、隙を突こうとする隙を突いた形だ。


「な、そんなことが! いつの間に!」

「あたしなら、こんなこともできるのよ。相手が悪かったわね。これでぶっ飛びなさい」


 回避が間に合わないアキラに、カナエさんが炎の魔導を放とうとする。

 その時彼女たちが戦っていた場所から少し離れて怒号が響いた。


「そっちに向かったぞ! おい、逃げんな! 俺と勝負しやがれ!」


 その声の主とは、さっきまでジュンと熾烈な格闘戦を繰り広げていたダイゴだった。

 そして向かったいうダイゴの言葉の対象は、まるで獣の様な速度でアキラの加勢に入るジュンだ。


「ごめんだけど……ずっと遊んでいる場合じゃない……」

「ちょっ……なんなの」


 ジュンがカナエさんに飛びかかり炎の魔導が放たれる直前の腕を蹴り上げる。

 照準を違えた火炎は上空へと飛んでいき、高い天井に届く前に破裂した。


「あなた……ずっと、飛びすぎ……」


 ジュンはそのまま身をよじって態勢を立て直し、爪を装備した両手を上に大きく構える。


「落ちて……」

「うぐぁ……っ!」


 そしてそのままカナエさんの体に叩きつけるように両手を交差させて振り下ろし、勢いよく地面に叩きつけられたカナエさんは呻き声とともに倒れ伏した。

 その後ジュンは着地して二人がかり、いやマリーも含めて三人がかりの有利な状態を作る。


 じりじりとルナさんの周囲を囲み始め、このような状況からの攻撃となると防ぎきれないだろう。

 一つの方向でしか防げない盾では、囲まれた途端に意味をなくし、袋叩きにあってしまうのは火を見るよりも明らかだ。

 カナエさんは戦闘不能ではないにしても、すぐさま立ち上がって援護に回るよりも先に、ルナさんが倒されてしまうだろう。


「何……? くっ、これは……!」


 しかしそんな危機的状況を打破する轟音。

 大きく吹き飛ばされルナさんを囲う陣形から外されるジュン。

 場外とはいかず白線寸前で踏みとどまり、口から血を吐き出してから手で拭う。


 その轟音の主、圧倒的な打撃力を誇るダイゴが、怒った様子を見せて髪を逆立てている。


「俺とのタイマンを無視して闇討ちとは、いい度胸じゃねえか」


 その援護に驚いたのはルナさんだった。


「き、貴様、私をまた、助けたのか」

「そんなつもりはねえよ。ただ、せっかく楽しい殴り合いをしていたところ、急に抜けられて腹が立っただけだ。あー、せっかくあのすばしっこい動きに目が慣れたっていうのによ。次こそは正々堂々とぶっ飛ばせるんだが」

「そいうことか。、貴様、少しは連携を覚えろ。これは一対一に重きを置いた叩いた戦いではないんだぞ」

「うっせーな。ちょっと熱くなってしまっただけだろうが」


 そう苛立った様子のダイゴの服は引き裂かれたような跡があり、頬のところには薄い傷から赤い血が垂れていた。

 ジュンとのし烈な格闘戦の様子が容易に想像できる。


「なんという破壊力ですの。ジュン、大丈夫ですか」

「お嬢様、私のことは問題ない……ただ、不覚だ……あいつの一撃を舐めていた……咄嗟に身を引いて直撃を避けたものの……」


 ジュンは腹を抑えながら返答し、ダイゴの一撃に驚きを隠せていなかった。


 騎士ならば任務として魔物をこらしめることくらいはするのだが、無事に任をこなすものは無傷なことが多いらしい。

 なぜならそういう場合は、徒党を組んで行動をしたり、罠を張って待ち伏せたり、幾重にも状況を想定をした上で任務を全うすると聞く。

 一昔前のルナさんのように単身で乗り組んできたのは、僕達を甘く見ていたのか、それとも実力ゆえの驕りかは本人に聞いてみないとわからない。

 あるいはレイカ先生の様な伝説の様な逸話に憧れたのか。

 ともあれ治安維持を第一とする騎士が、魔物の放つ強烈な一撃を受けることは思ったより少ないのだという。

 それゆえか実力があるとは言えまだまだ経験が浅いのなら、ダイゴの一撃は想像以上のはずだ。


 だがそれはクップファー、ズィルバー、ゴルデンリッターという位までの話。

 凶悪な魔導士との戦闘や、悪さをする強大な魔物と対峙する事が多い、一握りの上位層の騎士であるなら、無傷で帰れないこともあるそうだが、その段階となるともはや捨て身の殺し合いとなるらしい。


 騎士との誇りや期待からの尊厳を奮い立たせ、命を張り体の一部を失う覚悟で臨むなんて、騎士の位を上げると一層大変なんだな、ととある取材記事を読んでしみじみ思ったものだ。

 そんな中で特に最上位のオリハルコンリッターのレイカ先生は生きているだけでも不思議だ。

 元気な声で応援し、目を輝かせながら生徒の模擬戦を見て、一喜一憂しているのはひどく無邪気に見え、同時に底知れなさの片鱗を見たようだった。


「ところで、詠唱の方は大丈夫ですか」

「もう少しで完了ですわ。もう少しだけ時間を稼いではいただけますか」

「承知いたしました」


 アキラがマリーに耳打ちしているささやきが、ひと時の静けさを取り戻した武道場でかすかに響いた。

 ルナさんやダイゴはまるでどこ吹く風で、互いを意識しあって視線を飛ばしあっている。


 その脇で倒れていたカナエさんがゆっくりと立ち上がり、ジュンに叩かれた箇所と地面に激突した関節部位を確かめるように触ったり動かす。

 そして両手を伸ばして体をねじるなどの柔軟運動を問題なく行えたので、いがみ合っているルナさんとダイゴの肩を空気も読まず強く叩いて、待たせたわね、と根拠のない自信も戻っていた。


「すごい戦いですね。開いた口がふさがりません」

「本当によく見ていたのかい? 空いた口がふさがらなくても、目はふさがっていたんじゃないのかい」

「そんなことありません! しっかりこの目で見ました。リンペイさんはそうやってすぐにバカにしてくるんですから」

「ははは。失敬。いつも君はうとうと居眠りをしているもんだから、つい」

「もう! 眠っていたのは朝礼の時と、授業中だけです!」

「そんな、自慢げに言われても……」


 ユリちゃんをからかうと、僕に対しては頬を膨らませてむきになり反論してくる。

 彼女なりに心を許した、ということだろうか。


「ふふふ。じゃあさこれまでの戦いを見て、ユリちゃんはどっちが勝つと思う?」

「……それって答えるのがとても意地悪な質問じゃありませんか?」

「確かに意地悪だと思うよ。でも、そんな深く考えるんじゃなくて、率直な感想でいいと思うよ」


 僕はユリちゃんを試していた。

 彼女が後衛の援護担当となれば必要な技術は、的確な狙撃技術だけじゃない。


 状況を判断し優勢か劣勢を即時に判断する力。

 そして優勢であればその優位を保ちつついかに勝利へと動くか、劣勢であれば打開するために何をすべきかという実行力。


 後衛という体力が温存されている役割だからこそ、冷静に判断し実行できる余裕もあるのだ。

 遠方からの攻撃の正確さは実行力の部分を補う技術に過ぎない。


「個々の能力はルナさん達のほうが強いです。ですが、連携となるとアームオブロイヤルの方が数段上手です」 

「そうだね。だけど最も肝心なことが抜けている」

「え、なんですか」


 ユリちゃんが純粋に聞き返す。

 なるほど、わかっていないようだ。

 これまでの団体の模擬戦でルナさん達が勝っていたとするならば、ユリちゃんの立ち回りは本能的な側面で的確だったと言える。


「マリーがほとんど戦闘に参加していないということだ。これまではきっとユリちゃんが援護攻撃を行うことで、マリーを妨害していたんじゃないの」

「あ、確かにそうですね」

「ダイゴが加入した今回は全てアキラとジュンに阻まれている。そしてマリーの言っている、詠唱。中身はわからないけど、きっとアームオブロイヤルにとって優位に働くことは間違いないね。そしてこのままだとアームオブロイヤルが勝つ」

「だったら止めないと。その詠唱ってきっとマリーさんのことだからサモン型の魔導に違いないです」


 主に物質に対し自分の魔力を加え、物質を媒介として意志を持つ生物を召喚し使役する、サモン型の魔導。

 ノテレクが召喚したエンシェントゴーレムと言うあの巨大な怪物も、サモン型の魔導とみて間違いない。

 弱点は魔力の媒介となる物質だという。


 これの応用として、媒介する物質を自分自身に置き換えて魔力を与え、自分自身に召喚生物を宿して、自身の体に眠る魔力を余さず使うというのが、魔導解放の仕組みらしい。

 簡単の様に思えるが、制御を間違えれば魔力に自我を飲み込まれたり、体を操ることすらままなくなるんだとか。

 しかしそんなことは魔導を使わない僕にはほとんど無関係だった。


「なるほど。サモン型なんだね。でももう止められない。誰もマリーを狙えていないんだ」


 僕は遠い目をしながら喧嘩をしているダイゴ達の三人組を見つめていた。

 ダイゴはジュンと戦いたいと訴えるし、カナエさんはアキラをもう一度同じ魔導でかっこよく倒したいとわがままを言い、ルナさんは真っ先にマリーを狙うという当初の作戦を貫こうとしている。


「長時間の詠唱からの魔導はきっと高まっているだろう。それにサモン型となれば、その影響は計り知れない」


 ノテレクの召喚したあの巨人は、膨大な魔力を使用したに違いないのだろう。

 僕はにやりと口元を歪めてにやりと笑って見せる。


「でも僕の予想が正しければ、ここからは大きく荒れるよ」

「え、でもさっき、アームオブロイヤルが勝つって」

「そうだよ。このまま、だとね。でも僕はあの三人、特にダイゴが何かをしてくれるんじゃないかってワクワクしているんだよ」


 ダイゴは危険が増せば増すほど気分が高揚しその力を発揮する。

 きっとあの時ノテレクを吹き飛ばしたような力を。


 マリーの足元の模様がはっきりと浮かび上がっていた。

 両組は互いに見合ってにらみ合っている状況になっており、ダイゴ側の陣営が今にも飛び出しそうだ。

 互いの顔色を鑑みるに汗をかき呼吸が荒いため披露しているように見えた。


 おそらく次ぶつかる時が決着の時だろう。

 その時はマリーの切札、それが全てを左右する。

 彼らがそれを粉砕できるかを含めて。

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