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第2章4話:俺達とアームオブロイヤル

 放課後とは言えまだ外は明るく、新緑がまぶしい季節。

 外では生徒同士で下校の挨拶を交わす声や、遊びや訓練にに打ち込む賑やかな声が、建物の内側に届いている。


 だが今俺達の間には互いの対抗意識を燃やしてにらみ合う、ルナ・カナエのコンビとアームオブロイヤルと呼ばれる三人組の姿があった。

 特に三人組の中央に位置し偉そうに立っている少女とは何か因縁がありそうだ。


 その女は赤い瞳を光らせて見下したような表情をしており、薄紫色の長髪を垂らして左右を小さく結っている。

 背丈はルナの方より若干小さく、胸が大きいということを考えると前線で戦うことは不向きそうだ。

 短いスカートに細い足に身につけられたガーターベルトをのぞかせている。


 外からの賑やかな声が俺達の間に流れる沈黙をかき消そうとする。

 その空気を察してか、偉そうな少女の隣に立つ背丈が高く、ルナに似た金髪を額の中央に分けられ肩ほどまでに伸ばした、美青年風な人物が口を開いた。


「ルナ様、お嬢様が無礼な発言をしてしまい、申し訳ありません。お嬢様が今日こそは皆様と決着をつけたい、とおっしゃるものですから」

「アキラ、うるさいですわよ。それではまるでわたくしが子供みたいではありませんか」

「とはいえお嬢様。見下したような発言は、品格まで疑われてしまいます。言動に気を付け、節度を持って行動をなさるほうが、よろしいかと」


 そのお詫びを聞いて、その人物が男ではなく女と分かり俺は驚いた。

 男子禁制とはいえてっきり男が混じっていると思ったのだ。

 ちょうど俺達のように抜け道を使ったんじゃないかと。


 男かと見紛うほど凛々しい顔つきのアキラという女は、偉そうな薄紫髪の女と主従関係なのだろうか。

 でしゃばる紫髪の少女をたしなめ、ルナに対して代わりに頭を下げている。

 このように見ると主従と言うよりは親子にも見えなくはない。


「お嬢様、素直になって……今度も遊んでほしいと……」

「なっ、あ、遊びなどでは決してありませんわ。れっきとした決闘ですの。家系としてはまだ歴史が浅いにも関わらず、さらに本人が魔導解放ができると調子に乗っていますので、そのお灸を据えに来ましたの」

「でもさっきまで、そわそわしてた……」

「あーもう! お黙りなさい! わたくしがライバルと言えばライバルですの!」


 話に割り込んだダウナーな声の主は、アキラの反対側、薄紫髪の偉そうな女の隣にいるもう片方の小さい女からだ。

 銀色の髪がうなじまで短くカットされているが、前髪が眠そうな眼の片方を覆うほど伸びていた。

 リンペイより背が高いという程度で、体型はかなり小柄で華奢だ。

 俺なら軽々と持ち上げることもできそうに思える。


 三人は容姿、性格がそれぞればらばらのようだが、そんな中での共通点は制服と王冠と剣を模した紋章が描かれた腕章くらいしかない。

 その腕章がアームオブロイヤルの証なのだろうか。


「さて、気を取り直して。こほん。そんなに急いでいかがなさいましたの? また問題を起こして先生に謝りに行くつもりだったとか? ふふふ、滑稽ですわ。所詮たまたま先代が武功を上げて成り上がった家ですわね。ですがそんな者と付き合っていては、せっかくの家名を落とさなくて?」

「マリー、忠告はありがたいが、父上から了承はいただいている。お前の信ずる者と歩め、とな」

「あら? せっかく父上が積み上げた家名が貶められ、あなたの築いた信頼もまた瑕がつきはじめているというのに、まだこんな野蛮な者と一緒にいるとということですの?」

「……貴様にはわかるまい」

「わたくしが認めたライバルとして、せっかく助言を申し上げましたのに、きつい言いようですわ」


 マリーと呼ばれるアームオブロイヤルの中央の少女は、落ち込んだ風も頭を垂れている。

 それを見てルナが慌てて訂正する。


「あ、いや、そんな落ち込むな。言い方が悪かった」


 そんな焦ったルナをよそに、カナエはむすっとした顔で不満げだ。


「ちょっと聞きずてならないわね。優秀なお供に囲まれて、本人は守られてばかりのへなちょこなのに、よくもそんな偉そうにできるわね。弱い犬ほどなんちゃらってやつね。その大層なアームオブロイヤルってチーム名、いい加減返上したらどうなの」

「あの、確かにお嬢様はルナ様に対して失礼な発言をしました。その点は申し訳なく、お嬢様も反省しておられます。私からもきつく叱っておきます。ですがカナエ様、それは言い過ぎではありませんか。お嬢様はルナ様と対等になりたいために、日々研鑽を行っております。それを踏みにじるような発言は黙っていられません」


 アキラのフォローに、マリーは口を結んでルナの方をじっと見つめた。


「ごめんなさいね。あんた達と違って魔導解放ができてしまって。だけどこっちとしてもルナに対して偉そうに言うからには、せめて同じ土俵に上がってくれないとね。あんたらが実力で挑もうと。はっきり言って負ける気がしないから」

「おい、カナエ。お前も口を慎め。それ以上はやめておけ。時間を無駄にするつもりか」

「あんたの方こそ、あいつにあんなこと言われて腹が立たないの? 何も知らない奴らにあたし達のことをとやかく言われる筋合いなんてないわ。それに……」

「それに?」

「なんでもないわよ。とにかくあたしは納得がいかないの」


 たしなめようとするすつルナを振り切って、カナエはマリー達アームオブロイヤルの面々に腕を組んで向き合う。


「それでこっちからあんたの喧嘩を買ってやろうって言っているのよ。もしかしていざ、模擬戦を挑まれて臆病風に吹かれた? そりゃそうよね、痛い目にあいたくないもの。あーあ、へなちょこなのは実戦だけにしてほしいわね」


 カナエの自信満々な挑発的な発言にマリーが動いた。


「なんとおっしゃいましたか。カナエ。そういえば、その生意気な口はいずれ正さないといけないと思っていたところですの。正直あなたなんてわたくしからしたら、歯牙にもかけない存在ですけど、認識を改めさせてもらいますわ。口だけの妹とね」

「あんたって本当にむかつくわね……絶対後悔させてやるわ。それでどっちが強いかってのをはっきりさせてやる。はっきり言って負ける気がしないもの」

「あら、レイカ様の妹ということだけで、なんとここまで自意識過剰になれますのね。あとで負けて、レイカ様に泣きついても知りませんわよ」

「あなたとの戦績は、百戦五十勝……前の料理対決では負けたけど、その前の暗記対決では勝てた……今度はそっちの希望通り模擬戦で、せっかく集まったことだし団体戦でもいいけど……」


 こいつらは一体何で争っているんだ。

 決闘というよりほとんど遊びではないか、と俺はジュンの掠れるような言葉を聞きながら若干呆れた。

 当初の一触即発で凄まじい喧嘩が起こりそうな雰囲気からは考えられない。

 あっけらかんとしている俺を察してか、ユリが俺の腕を引っ張って何か言いたげにしていたので、俺は屈んでその囁きを聞く。


「普段はこうじゃないんですよ。でも久しぶりにルナさんに会ったということで、ちょっと言葉が強くなっているだけだと思うんですよ」


 なるほど確かにルナは俺が編入してからノテレクの一件まで、学園を休みがちになっていた。


「団体戦ね。ちょうどいいわ。こっちには頼りになる助っ人がいるのよ」

「おい、それってもしかして」


 例外なく俺は巻き込まれるようだ。

 だが遊びとはいえ戦闘となると俺の胸が高ぶる。

 カンを鋭くさせ、センスを鍛えるためには、自らが強くなる機会である戦いを通さないといけないのだ。


 いずれ借りを返す。

 そして俺は選ばれた身として、俺の手で『調和のトパーズ』を守る。


「もちろんあんたのことよ。ま、あたしにかかれば楽勝だけど、ルールに則って三対三で戦うんでしょ? ちんちくりんよりかは戦力になるわ」


 カナエの何気ない辛辣な言葉にユリは苦笑いを隠せていなかった。


「だが、カナエ。そんな遊びに付き合う必要はないだろ。レイカ先生が待っているんだぞ。それも時間厳守で、五人で来るようにと言われているんだぞ」

「時間なら気にしなくてもいいの。特に指定もされていないし。そうよ! なんならお姉ちゃんに立ち合いになってもらいましょうよ。百一戦目の雌雄を決する戦いをね。たくさんいたほうが盛り上がるし、名案よ」


 名案が思い浮かんだという風にカナエの顔が明るくなる。

 あの適当そうな明るい先生ならこれくらい許そうと踏んでいるのだろう。


「ということは決まりですわね。では決着をつけましょう。それにレイカ様にわたくしの戦いを見ていただけるいい機会ですわ」


 マリーの言う決着はおそらくどっちが勝っても終わりはしないのだろう、と俺は思った。

 俺と林平がゲームセンターで最後の一戦と言いながらも何度も対戦したように。


「やれやれ。また妙なことに巻き込まれたね。どうも君は戦いと縁が深い様だ。それに君も面倒くさいというよりも、むしろそっちの方が嬉しいという感じだね」

「ああ、だが俺の方もまんざらじゃあねえ。むしろこういうことなら俺の得意分野だからな」

「君が乗り気なのはいいけど、僕達の目的。この学園への入学の意味を忘れないように」

「……ああ、わかっている」


 リンペイの言う通り、戦うことだけが目的ではなく、強くなるのも使命ではない。

 あくまで手段として、過程としてその二つがある。

 だがやはり俺の中でギラギラとたぎっているのは、戦いへの欲求、誰よりも強くなりたいという向上心なのだ。


 あの時『調和のトパーズ』が俺に授けた力で俺達は生き残り、そして俺はその輝石を中心とした運命を背負うようになった。

 もしかするとこれからの戦いもその一部なのだろうか。

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