第1章23話:万象破砕(ギャラクティカインパクト)
「想定外なこともあるものだ。まさかほんの少しの亀裂から、エンシェントゴーレムを倒すことになるとはな」
「どれだけしつこいのよ、あんた。でものこのこでてくるなんて、そこで倒れておけば痛い目に合わなくてよかったのに」
ノテレクの感心したような物言いに、カナエが反発する。
俺とサキュバスとなったユリとルナの決死の解放の手柄だというのに、よくも偉そうだなと思ってしまう。
「クククク。果たして、痛い目を見るのはどっちだろうな?」
「さっきから何言ってんのよ。あんたは腕がなくて、こっちにはまだ仲間がいるのよ。あんたが魔導解放していようとも、勝ち目がないなんてわかるでしょ」
「その切り落とされた私の腕と、お前達の傷ついた仲間とやらが足枷になると言っているんだ!」
俺はノテレクの言葉にハッとして足元を見た、そこには魔導陣と呼ばれる幾何学模様がうっすらと浮かび上がっており、円の中心にはカナエが斬り落としたノテレクの腕がのたうち回るように蠢いていた。
すでにその魔導陣は広い校庭全体を覆い尽くすほど大きく拡大しているのがわかり、何が起きるかは見当もつかないがとても逃げられる状態ではない。
俺達がエンシェントゴーレムとやらを倒すのみ集中していたため、ノテレクの策略に気づけぬまま手遅れになってしまったのだろう。
俺は全身が痛むものの持ち前の頑丈さと根性で何とか動くことはできるが、さっきのオリハルコン粉砕に力を使い果たしたルナは一向に目覚める気配がない。
「逃げ場はない。お前達全員が私の不死の体の一部になるのは、明確だった。おとなしく全員食われて、怨嗟を合唱してくれ、心臓の鼓動のような心地の良いリズムでな」
突如足元が泥濘はじめて、次第に泥の様な気色の悪い物体がせり上がってくる。
「もしかして、これって! あの地下迷宮の」
「また、同じ手でまとめて倒すつもりかよ」
初めはつま先までを覆い、くるぶしまで達し、足首まで上がった時には、泥が想像以上に重く非常に動きにくくなっていた。
逃げようとしてもどんどん泥が俺達を塗りつぶすようにせり上がってきており、足の自由がどんどん効かなくなっていった。
ルナの近くにいるカナエとセンが何とか、ルナの姿勢を起こして泥に飲まれないように支えて抵抗しているが、それもいつまでもつかはわからない。
そんな中ノテレクの魔導を止めようと、サキュバスのユリが泥の浸かった地面から飛び上がって、背後に紫の光の線を描きながらノテレクに向かって飛んでいく。
「その魔導を止めなさい! 従わない場合力ずくでも止めます!」
「断るに決まっているだろう。それに力ずくで私を止めるだと? サキュバスのお前が? 面白いやってみろ。そういえば昔、人間と交わった愚かなサキュバスがいたが、裁きを下してやったよ。助けてください、子供だけは、と命乞いしたが、耳障りだったので静かにしてやった。肝心の子供は見つからなかったが」
「あなた、もしかして!」
その言葉を聞いてユリの表情が変わり、滑空しながら勢いよくノテレクの顔面めがけて殴りかかる。
ノテレクの髑髏頭にユリの拳がぶつかるが、ノテレクはよろけもせずかといって反撃もせず、奇妙な紫の瞳を輝かせてユリの表情を見ているだけであった。
「あなたが、お母さんを……」
「もしかしたらそうかもしれないな。もしその時のサキュバスが、お前の母親なら……これはそそる。あの時の悲鳴をもう一度楽しめるのだからな!」
ノテレクは楽しそうだったが、こちらからすると狂気に満ちた笑いでこけにしてくる。
人を踏みにじり蔑んでいるノテレクをユリが青ざめた顔で見つめる。
「ゲスが……」
俺は二人の様子を見て思わず声にもれてしまった。
ノテレクはただ倒すだけではいけない。
これまでのノテレクの凶刃で命を落とした人々の報いを受けさせなければいけない。
多くの人々に恐怖を植え付けさせて、地獄へと突き落とした業を。
「どうあれあなたは、絶対に許しません。あなたのやってきたことは見過ごせることではありません」
ユリの手元に蝙蝠が集まっていき、長い棒状のようなものへと変化していく。
それは次第に長く伸びていき、先端には大きなでっぱりが生成され、ハンマーの形となっていた。
蝙蝠で作られたハンマーは俺が思ったより頑丈そうであり、月に反射して砕く部分が黒光りしている。
「その力を大人しく、我々魔物に与すればよいものを。なぜ人間なんぞに力を貸す」
「人間や魔物は関係ありません。悪は許せないからです。殺害された私の同胞、ここの傷ついた人間と魔物、そしてこれまでにあなたの手にかかって殺された生き物。あなたはあまりにもかけがえのないものを奪ってきたんです」
「クックック。悪か。何が善で、何が悪かも知らない癖に。だが確実なことはある。最後に立っていた者が正義ということがな!」
ノテレクの背後に紫のオーラの様なものが迸っていく。
ユリは緊張した面持ちで胸に手を置いてしきりに深呼吸を繰り返して呟いていた。
「お母さん。私に勇気を……」
スレッジハンマーのように柄の長い獲物を手に、ユリが泥に足を取られないように宙に浮きながら、ノテレクに向かって振り回す。
しかしノテレクは軌道を読み切っているのか、それともユリの動きが単調なのかわからないが、攻撃をことごとく交わしていた。
ノテレクも回避しながら残った片腕で魔導を放っていくが、ユリは翻弄するように回避しており、互いに決定打を加えられないまま一進一退の攻防を繰り返す。
「小賢しいサキュバスめ。無駄な抵抗をせず、命乞いをしろ!」
苛立った口調で怒りを露わにしノテレクが、突っ込んで攻撃を繰り出してくるユリに向かって魔導で迎撃しようとする。
「今です! お母さん、力を貸してください!」
それがノテレクの作った隙であるのは明確だった。
狙いが甘く自分の状況を軽視したノテレクの放つ魔導の矢は、ギリギリまで誘導された後ユリが上空に急上昇することで避けられ、一瞬高空で停滞した後ハンマーを振り下ろしながら急降下していく。
ノテレクは魔導を放った際に生じる隙で回避が困難となっていた。
ユリがまず上空から蝙蝠が変化した無数のナイフを投げてノテレクの動きをけん制及びかく乱する。
「てりゃあああああっ!!」
その後ハンマーがノテレクの脳天に直撃し、頭蓋から鈍い音が響いてからすぐに亀裂が生じる乾いた音がした。
「ぐぁあああっ! ああああっ!!! 頭が!! 私の頭がぁああああああぁっ! よくも、よくもぉ!!」
ノテレクがその場で頭を抱えてうずくまっており、猛烈に叫びだした。
ユリは緩やかにせり上がっている泥に触れないように宙に浮きながら、ハンマーを振りかぶり跪いているノテレクにとどめを刺そうとする。
「これで終わりです。あなたが傷つけた者、失わされた人の想いを受けてください。最後に謝罪をしてください。私に、そして向こうの人々へ」
「謝罪だとぉ……それは、お前達が謝る番だということを忘れるな!」
「きゃああああっ! なんなのよこれ! 急にあ、あたしを……ああああっ……く、苦しい……」
刹那遠くから足を取られていたカナエの悲鳴が響く。
「あんたは、あたしの代わりに、ルナを……」
「カナエさん……! わかりました! 身命にかけても、先輩は私が」
センの呼びかける声も空しく、俺が振り向いて確認するころには、カナエがいた位置には黒い泥の様なものに取り込まれてしまい、体をすっぽり覆う黒い塊となっていた。
ノテレクは魔導でカナエの足元の泥を操りまるで手足のようにしならせると、カナエが取り込まれた泥の塊を、ユリの飛んでいる方向へ投げつける。
「危ない! 今すぐ交わして!」
リンペイがサキュバスの姿であるユリに向かって叫んだ。
ハンマーを振りかぶて止めを刺そうとしていたユリに回避する余裕や、これから何が起こるのかは想像もついていないだろう。
泥の塊がユリにぶつかったことで、ユリは大きく態勢を崩してしまい、泥の塊に押し込まれる形で泥の床に倒れこんでしまった。
「きゃぁああ! ううぅぅ……そんな! こんなことって……カナエさんを、武器にするなんて……」
「もう少し判断が早ければこんなこと起きなかったのにな! お前の甘さが原因だ。躊躇する、情けをかける。そんなものは不要だ。私の受けた痛みを何倍にして、握りつぶしてやろう」
「うぅぅ……動けない……か、体が重くて動きません……そ、そんな……」
「どうだ。周りの人間がお前にとっての邪魔者になった瞬間は。さぞかし悔しいだろうなぁ」
ユリは必死にもがいて脱出を試みようとするが、じたばたするだけで抜け出せる兆候がない。
そして当初は勇ましかったユリの声色も、弱気になり今ではすっかり涙声となっていた。
「ごめんなさい……みんなの仇、とれませんでした……許さないって、言ったのに……」
「ハハハハッ! 無念だな! 残念だったな。さぁ、あの世で待っているぞ、お前の母親がな。そこではこう挨拶しててくれ。ノテレクは今では先生として立派にやっているとな! お前を先に殺してから、私の腕を切り落としたあの女を葬ってやろう。それからは手あたり次第全員だ。よかったな、お前は一人じゃないんだ。ハハハハッ!」
「お母さん……お父さん……みんな……」
俺は脛の辺りまで上がってきた泥を何とか気合で抜け出して、少しずつ確実に歩を進めている。
「あいにくあの世もたくさん人が来られると迷惑だろうぜ。だがせっかくだ。あんたみたいな外道には、あんただけの特等席はあるだろうから、そこまでぶっ飛ばしてやる」
「オークが、また殺されに来たのか。頑丈でしつこいやつだ」
「あんたには言われたくねえな」
「お前もお前で魔物にとっては戦力になれたはずだが、残念だ。ここまで抵抗できた者は初めてだ。敬意をもって、力の差を見せつけてやり、『もうノテレク先生には敵いません』と言わせてから屠ってやろう。光栄に思え」
依然として足元に絡みつく泥が鬱陶しく、俺の歩みはとても遅い。
「そんな体で何ができる!? ほら、こっちまで来てみせろ。辿りつけるものならな!」
足を上げて移動することすら非常に労力がいることであり、ノテレクの元に辿りつくはおろか、その前にせっかくある程度回復した俺の体力を消耗する羽目になるのだ。
それにノテレクはそのようなことは待たず、俺に掌をかざしてしっかり迎撃の準備をしていた。
一歩ずつ確実に標的のノテレクへ何とか迫っているが、辿りつくということは現実的ではないことがわかる。
だが俺は歩みを止めるわけにはいかなかった。
ここで逃げたらノテレクの計画を邪魔できず、俺は命拾いするものの常にノテレクから命を狙われるだけでなく、リーベカメラード学園はノテレクの野望によって混沌に包まれてしまうのだ。
だからどのような攻撃も受け止めるつもりで覚悟を決めていたのだ。
「あんたは絶対に止める。みんなの想いのためにも。これまでの犠牲、流れてきた血にかけてもな」
「無茶だ、ダイゴ! 足元は最悪で機動力を奪われて、体力の差なんて先ほどからの消耗なんて歴然の差だ。もう、ないんだよ勝てる見込みなんて。だから無駄に戦う必要も理由なんて、もうないのに」
「戦う理由だ? 友達のピンチには助けるのが友達だろう。それにもうそれだけの話じゃねえ。こいつはあらゆるものを奪いすぎた。その裁きを下す時はいまなんだ」
リンペイが泥に身を囚われながら叫んで、特攻しようとする俺を止めたが俺はかぶりを振った。
もうどのみち俺達は殺されるのなら、俺は最後まで抗ってやる、と。
纏わりつくような泥が非常に邪魔で、筋トレをする分にはいい環境なのだが、こと緊急事態においては足を一歩動かすだけでも力を消耗するのは致命的だ。
「勇ましい言葉だ。その醜さと思慮の浅さ故に蛮勇と言われてもおかしくはないがな。それではその想いとやらを抱いて、どこまでもつかな?」
ノテレクの掌から魔導が放たれた。
勢い良く鋭い紫色の矢だ。
だがノテレクの狙いの甘さや度重なる負傷のためか、矢の方向は致命傷になりうる心臓ではなく肩を掠めるだけであった。
その後何度も連続して放たれるが、時折俺の頭部や心臓に矢が向かってきたので、腕で何とかガードする。
防ぐたびに激痛が走り気を奮い立たせて一歩ずつ進んでいくが、傷つくあまり腕の感覚がなくなったかのようにぶら下がってしまう。
こうなったら攻撃方法は頭突きくらいしかない。
「そんな腕で、私に攻撃を加えるつもりか? そんなことで私に勝てるつもりなのか? もっといたぶってやろうかと思ったが、そろそろお前の顔もそろそろ目障りになった。今度こそ立ち上がれないようにしてやる。永遠にな」
そんな少しずつ歩み寄る俺の前に、ノテレクは俺を覆うほどの巨大な魔導陣を眼前に展開している。
「ハハハハッ! さらばだ。愚かなオークよ!」
魔導陣の内側から泥状の物で形成された化け物が俺に向かって飛び出してきた。
俺を飲み込もうと口を大きくてして突っ込んできており、回避や受け止めることもできない。
一矢だけ報いたいという俺の願いもむなしく、ただその化け物が俺の前に立ちふさがったのだ。
悔しいが、ここまでだ。
俺は最後の力を振り絞り化け物へと立ち向かっていく。
武器もなにもない。
ただ負けたくない、みんなを守りたいという意志だけをぶつけに。
そのとき俺のズボンのポケットが神々しく輝き始めた。
取り出して見るとまるで俺に呼びかけるように光を放っていたのは、俺の懐に入っていた謎の石だった。
そしてあの時――俺がノテレクと対峙し絶体絶命の時に聞こえた声が俺の頭に響く。
「あっぱれだ。人の子よ、いや魔の物よ。その覚悟と意地、そして逆境にも挫けぬ心。汝の命を散らすのは惜しい。戦う力を、万象破砕の力を授けよう」
「あんたは、一体。なぜ俺の頭の中に。それにその声は」
俺は頭の中で響いた声に尋ねる。
どこか聞き覚えのある声だった。
「我は輝石に封じられた存在。汝の強い意志が我を呼び覚ましたのだ。そして我は名すらも持たぬ忘れられた存在。汝が我に名をつけるのだ。汝の力の象徴となる者の名を。それが契約の証となる」
「そうかい。よくわからねえが、だけどあんたの名前は決まっている。俺の分身、それに俺自身、そして俺の力そのもの」
俺はその名を叫んだ。
遠い世界へ向かって今まで呼びかけていたものに聞こえるようにはっきりと。
「あんたの名は、ラルーフ! なんでもいい、俺に力を貸しやがれ!」
「承知した。それでは我が人魔融合の力。その力の使い方、披露せん」
ラルーフと名付けた謎の声の主は嬉しそうに返答した。
今まさに泥の怪物に食われそうになる俺に天まで立ち上る光が包み込む。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!! 力が溢れてくる。体の奥底から! 勇気が満ちていく。心、全体を! 今ならあんたを倒せる!」
神々しく輝く光が俺にどこからともなく凄まじい力を与え、傷やあざが見る見るうちに回復していく。
辺りの泥も強烈な光で浄化していき、目の前の怪物も俺を飲み込む直前に溶けていった。
「な、な、なんだその力は! もしやその光、トパーズか!? 『調和のトパーズ』なのか!?」
「そんなことを俺は知らねえ。だが、この力があんたを倒すということははっきりとわかる」
「クククク! ハハハハハハハッ! 私は運がいい。お前達がのこのこでてくるだけでなく、『調和のトパーズ』までこちらからやってくるとは。つまりお前を殺せば、手に入るのだな! 念願のものが、森羅万象を調停する、神の力を!」
「御託はいらねえよ。ファイナルラウンドといこうぜ。どっちが強いか、俺かあんたか。立って居た奴が正義なんだろ?」
「願ってもない! 真っ先に殺す!」
興奮したノテレクが俺の周囲に無数の魔導陣を展開し、四方八方より一斉に紫の鋭利な矢を俺に向かって放つ。
しかし俺は地面を力強く叩いて地面から強烈な光が湧き出し、魔導の矢をまとめてかき消していった。
「囲まれようが関係ねえ。もっと本気で来い」
「バカな!? 一瞬だと!? えぇいっ! これならどうだ!!」
俺はノテレクの方向へゆっくりと歩みだす。
ノテレクが正面から魔導を連続で放ち俺を蜂の巣にしようと言う魂胆が透けて見えたが、俺は迫りくる矢を腕を絶え間なく動かして弾き飛ばしていく。
俺の腕は有機質の筋繊維のようなものが禍々しく蠢いている籠手に覆われており、腕を貫通せず痛みを一切感じない。
「に、二度目など、あるものか。さっきよりも強靭なクレイデーモンに、もう一度食われるがいい!」
その後ノテレクの巨大な魔導陣が展開され、巨大な泥の化け物が再び召喚され俺に向かって襲い掛かるが、俺はまるで火の粉を払いのけるように腕を振った。
巨大な化け物はバラバラになり、原型を留めず泥となって四散する。
俺の体は返り血を受けたように泥に黒色に染まっていく。
「どうしたもう終わりか?」
「ひぃぃいっ!? 全く通じないだと!? こ、こ、こ、こうなれば!」
言葉を失い呆然と俺の方向を見ているリンペイの背後にノテレクは瞬間移動する。
リンペイは反応できずに、ノテレクに片手で羽交い絞めにして、首元に鋭利なナイフのようなものを突きつけていた。
足元のボンゲはノテレクによって足で踏みつけられ抑えつけられている。
「ヒヒヒヒッ! こ、これならどうだ。仲間ならば手を出せまい! その石を渡せば、解放してやる。お前を殺せないのは残念だが、目的を果たせばもういいのだ!」
「な、なんだ!? ダイゴ! こうなったら僕ごとノテレクを倒してくれ! こいつの言いなりにだけはなるな!」
リンペイが叫んで俺に呼びかける。
片手とは言え締め付ける力が強いのか、抜け出すことが難しそうだ。
「ああ、あいつの言いなりにはならねえよ。だけどあんたの言うことも聞けねえな!」
俺は一瞬でリンペイの元まで駆け寄り、ノテレクがリンペイを刺そうとする前に、そのナイフを払い飛ばした。
「ダイゴ……どうして……」
「本当の期待に応えるっていうのは、想定を上回ることをするもんだぜ」
「やっぱり、君は最高だよ」
リンペイがノテレクの拘束から素早く脱出することを確認すると、俺はノテレクの首元を掴んで掲げた。
「さぁ、フィニッシュの時間だ。しっかり倒しきる」
ノテレクを地面に勢いよく叩きつけるとその体が浮かび上がるが、それをもう一度掴んで再び地面へと叩きつけた。
「やめろ……」
「次が新技だっけかな。天地轟け! グレイブシュート!」
その後倒れたノテレク毎地面を殴り、骨が砕ける感触が伝わり、大地が裂け強烈な地響きが発生する。
地面が隆起しその衝撃で無防備なノテレクは遥か上空へと飛んで行った。
「あ……あっ…‥バカ‥…な……」
「これで最後だ。そろそろ決めるぜ」
俺は腰をしっかり捻って、右腕に力を籠める。
足元から凄まじい衝撃波が巻き起こっていき、全身に力があふれ、筋肉の脈打ちと血液の循環を感じる。
さらに力を込めると筋肉が隆々としていき、シャツがはち切れていった。
「やめろ…‥もう……私の、負けだ!」
「止めねえよ。俺はオーク――魔物だ。あんたと同じな」
落下するノテレクが命乞いの言葉を俺は見上げて拒絶した。
こいつのやってきた悪行、そして野望はもう償いきれないところまできているのだ。
「そしてこれがあんたを叩き潰す一撃だ! 受けてみやがれ!! 万象破砕ォォォッ!!!」
無抵抗に落ちてくるノテレクに向かって渾身のパンチを繰り出す。
拳の先が空気を切り裂いていった。
拳がノテレクの腹をクリーンヒットする。
当たった刹那、一瞬の制止の後に轟音とともに爆発が巻き起こり、ノテレクが壁まですっとんでいった。
ぶつかった先の壁が砕け散り煙が巻き起こっている。
「俺の勝ちだ……」
俺は腕を振り上げて勝利宣言をする。
そして拳を俺の胸に当てて、ラルーフが昔やっていたような勝利ポーズをしたのだった。