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第1章2話:女騎士との最悪な出会い

 俺は立ち上がってその様子を確認しに行く。

 仲間のオークの呻き声が聞こえ、岩壁に叩きつけられて気絶している姿が散見していた。


 遠くに灯りが揺らめいており、砂利を踏む足音を立てながらこちらに何かが向かってきている。

 目を凝らしてじっと見ると、炎がその正体を明らかにした。


 人間だ、しかも若い女性。

 背丈は高く凛々しい顔つきにはどこかしら幼さが残っており、年齢で言えば成人する前であろう。

 頑丈そうな鎧を着こみ、小さい盾と剣を装備し警戒を怠っていない。

 暗い洞窟を真剣な眼差しで注意しながら散策している。

 ポニーテイルで結った金髪がゆらゆらと動いていた。


「女のお客さんは呼んだ覚えはないんだけどな。こんな臭いところに何用なんだ。大体察しはつくがな」

「オークか!? それになぜ私達の言葉を話す。魔物の分際で」

「魔物の分際で悪かったな。ところであんたが俺の仲間を攻撃したのか」

「気味が悪いが答えてやる。ああ、私が攻撃した。村から通報があった。略奪があったとな。だから私はその使命を果たしに来た」


 女は俺に向かって剣先を向けて言い放つ。


「あちゃー。あいつらまた俺の目を盗んで、そんなことを……やっぱり管理しきれねえ」


 俺は手で目を覆って上を見上げる。

 ちょっと俺が目を離すとこうなるから、乱暴者のオークの世話と言うのは大変だ。


「すまない。悪いのはこっちだ。ここは俺に免じて許してほしい。俺からはきつく言っておく」

「だめだ。人に害する魔物はこの手で葬らなければならん。それに貴様がこのオークの親玉と見た。貴様の首を持ち帰れば村人も一安心だろう」

「こっちは話し合いを希望しているんだが。どうしてもだめか?」


 俺が再三聞いて交渉するも、女は語尾を荒げて俺に向かって剣を振りかざした。


「くどいぞ! 魔物め。そのような言葉に誰が耳を傾けるものか! その首をよこせ」


 女の剣を俺は寸前のところで身を屈んで交わす。


「あんたところで名前は?」

「魔物に名乗る名前などない。私の力にひれ伏せ」


 俺は深くため息をついて残念がった。


「はぁ……どうなっても知らねーぞ。あんたの名前を知ってさえいれば、もし気絶しても送り返せたんだが」

「……っ! 貴様、倒されるのはそっちの方だ! 魔物め」


 次に襲い掛かる斬撃を俺は片手で受け止める。

 女の顔は驚いておりその手から剣を引っこ抜こうと力を入れるが、俺も負けじと離さないように力を籠める。


「くっ! 貴様、離せ! 汚らわしいぞ!」


 俺は丸太のように太い足をしならせて蹴り上げると、女の顔を掠って頬から血が滴る。


「これが最終警告だ。わかったなら、大人しく帰れ。力の差がわかったはずだ。俺だって無暗に人間を殴りたくない」

「貴様……さっきから魔物の分際で、舐めた口を!」


 俺は剣を離して警告するも、女は聞く耳を持たず頭に血が上っているのか剣で切りつけてくる。


「どうやら目を覚ますには、これしかねえみてえだな。だったらしっかりとその盾で防いでくれ。じゃないとあんた、死ぬぞ」


 斬撃を交わして腰をしっかりとひねり右腕に力を込めた。

 毛が逆立ち筋肉が隆々と脈打ち始める。


「『万象破砕(ギャラクティカインパクト)……』」


 俺の足元から強い震動が巻き起こり、衝撃波となって砂利を吹き飛ばしていく。

 女は直感的に盾で防御していた。

 恐怖に怯えた顔をしており逃げることはできず、かといって立ち向かうこともできないように感じられる。


「痛ぇぞ……しっかり歯を食いしばれええ!!」


 渾身の拳を防御している盾に向かって放つ。

 かつて俺がよく遊んでいたゲームのキャラクターの技をそのまま真似る。

 ただ肉体までオークとなればそれはごっこ遊びでも何でもなく、これまで岩をも砕いてきた剛拳となった。

 十分にしなった態勢から丸太のような腕が勢よく放たれ、拳が鋼鉄と化す。

 盾が凹む感触を拳に受け、鈍い音とともに洞窟中に響いた。


「ぐっ、きゃああああああああ!!」


 女は俺の拳の衝撃に耐え切れず、凄まじい勢いで壁に叩きつけられ気絶する。

 その叩きつけられた反動で岩が崩れて、女の前で降り注ごうとしていた。


「ちっ! あぶねえ!」


 俺がそれに気づいて駆け寄ろうとした時既に間に合いそうになかった。

 やってしまったと後悔の念とともに目を瞑る。


「おやおや。相変わらず君は力の加減を知らないんだね。こんな女の子をぶん殴るなんてさ。そんなことではこれから思いやられるよ」


 その声の主はリンペイだった。

 どうやらじっと隠れて俺達の様子を見ていたリンペイが危ないとみるや女を抱きかかえて、素早く助けてくれたようだ。


「また、借りができてしまった。すまない。リンペイ」

「いいんだよ。どうせこうなるだろうことは予想済みさ。それよりもその女性を早く帰してあげなよ。こんなところに匿ってちゃいけない。何が起きるかわからないからね」

「ああ、そうだな」


 すると後方から他のオークが駆けつけてきた。

 皆がその女の無力に倒れて抱えられている姿を見て喜んでいる。

 どうやら野蛮なあのシチュエーションを想像しているらしい。

 俺はそれがどうしても嫌いであり、いくらオークとは言え嫌悪していることであった。


「バカ野郎!! この女に手を出すな。こいつが気を失ったのは俺のせいだ。後悔している」


 そして俺は周りの下卑た笑みを浮かべるオークを一体ずつ睨みつけていく。


「俺に恥をかかせるな。こいつは被害者だ。礼をもって丁重に帰す。もし、何か手を出して見ろ。その時は同胞なんて関係ねえ、殺すぞ」


 オーク達に一喝すると委縮してすごすごと去っていく。


「ったく。バカどもが。わかんねえなりに大人しくしろっていうんだ」

「それで彼女をどうするんだい。村へ渡したらきっと兵士達が大挙してここに押し寄せてくるよ。そんなのをいちいち相手にしたらきりがないんじゃないか」

「確かに、リンペイの言う通りだ。だから外の少し人の気ないところで寝かせておく。リンペイの縄張りでいいか。俺のところだと何をしでかすかわからないからな」

「ゴブリンも何をするかわからないけどね。まぁ、君達よりはまだ分別があるってのはわかるよ。それに僕達が君の逆鱗に触れて、バカ力を受けたら多分跡形もなく消えるだろうしね」


 リンペイがくすくすと笑い承諾する。

 そうして俺は女を抱きかかえたまま外へ出て、森の中の大きな木の下で寝かして別れを告げる。


「じゃあな。もう二度と会うことはないだろうが、これに懲りたら手を出さないことだ。友好の手は俺達から伸ばさせてもらう。その時はこんな喧嘩はなし、だ」


 それから俺達はその人間たちの学校へ行くための準備を始める。


 その学校は男子禁制の女性ばかりであるが、魔物のように性別無しは男子ではないと扱われるため、入学はできるという屁理屈だ。

 常識では通用しないのは重々理解している。

 だがリンペイの力を借りて筆記試験をトップクラスの成績でパスして、知能を見せつければあちらも渋々同意を得た。


 正装して面会した時の教師たちの顔はひどくひきつっていたのを覚えている。

 入学式の日、俺の留守中は仲間も無茶できないということを痛感していたようだ。


 だから俺が出ていくといった時、懇願するように情けない声を上げていて、俺は肩を竦めながら一体ずつ励ましていった。

 その時のあるオークの言葉に俺はきつく注意をした。


「グゥゥゥ、先代、力、ウォォォオ。女、タクサン、ウゥゥゥウウウウ」

「それが先代の失敗だ。力に溺れて女にうつつを抜かしたら、闇討ちで死んだ。だから俺はそんな情けないことはしない。欲を圧して生を得る。生き残るためには我慢も必要だ。今はその時だわかってくれ」


 俺は支給された制服を着こみしっかり体を清めてから、同胞に別れを告げた。

 定期的には様子を見に戻ることを決意する。

 親分である俺がいるとあいつらは安心してまたやらかすだろうから。

 俺は俺の為すべきことを為すために、そしてあいつらに道徳がしっかり根付いていることを信じて、街の学校へ向けて歩を進めるのであった。

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