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第1章18話:リンペイの作戦

 その次の日からと言うもの、俺はとても暇になった。

 なぜなら俺は学校にも行かず、灯りを消してカーテンは全て閉め、部屋に閉じこもり軽い軟禁状態となっているからだ。


 リンペイの作戦によると、俺とカナエは学校に敢えて登校せず、ノテレクの目を欺くことが目的なのだとか。

 俺とカナエは昨日の医務室に行って以来、行方不明ということにしている。

 事情を知らない生徒からすれば不穏なことになるが、一方で事情を知っているノテレクからしたらむしろ安心できることなのだろう。


 そして俺はいつの間にかブレザーの内ポケットに入っていた、謎の透明無色の石を取り出して眺めた。

 いつい入っていたのか、なぜ俺が持っているのか、そもそもこの石は何なのか、何もかもがわからない。

 光りを通すと微かに橙色が混じっていることが確認でき、まじまじと見るとその石にはいつでも見続けられるような不思議な魅力を感じた。


 石を眺め終えると、とりあえずまだ引っ越してから片付けもろくにしていないので、整理を始める。

 すぐに退去するかもしれない、という考えが過るが、そんな後ろ向きな思考はできるだけ捨て去ろうとした。


 整理を始めると案外その作業が夢中になっていた自分に気づき、窓とカーテンの隙間から差し込む光は赤く染まっている。

 現実に引き戻されると昼食を食べておらず、これからも夕食も食べられないのかと思い、腹の虫が暴れはじめた。

 作業を中断し、ベッドに寝転び気を紛らわせて空腹を押し殺そうとするが、うまくいかず次第に苛立ってくる。


 だがしばらくすると俺の部屋のドアをノックする音が響く。

 等間隔のリズムで三回ノックではなく、二回ノックした後一拍置いて再び二回ドアを叩いていた。

 リンペイの提案した関係者であることを示すノックだ。


「入ってくれ」

「お邪魔します」


 俺が扉の鍵を開けて声をかけると、姿を現したのはいつものようにいい匂いのするバスケットを持ってきたユリであった。

 ユリはそそくさと俺の部屋に入って、音がしないようにそっと扉を閉めて鍵をした後に、テーブルの前に腰を下ろす。


「わざわざすまないな。だがグッドタイミングだ。もう腹が減って死にそうなんだ。早くそれをくれ」

「ふふふっ。慌てないでくださいよ。はい、これ」


 ユリがバスケットの中から大きなパンを取り出して、笑顔で俺に手渡された。

 俺は受け取るとまさに貪るように口に入れて、すぐに腹の中へ押し込んでいく。


「それにしても、すごい食べっぷりですね」

「朝から何も食ってなかったんだ。次のもくれ」

「わかりました。こんなこともあろうかと思って、たくさん用意してきたんですから」


 バスケットを覆う布を払うと、そこにはたくさんのパンが入っており、脇には果物のジャムが入っているであろう瓶があった。


「ここまで用意してくれるとは助かった。買い出しご苦労さん」

「放課後に終わってから近くの街まで買い出しに行ったあと、カナエさんの部屋によってからだったので、少し待たせすぎたかもしれませんが」

「そんなことは些細なことだ。それよりもお前が来ないまま、食料が尽きてしまう方が問題になってくる。感謝する」


 ユリは俺とカナエの買い出しと、学校で起きた出来事の報告を行う役割をしている。

 リンペイが言うには、ノテレクが狙うのはルナか自分自身のどちらかだと断言していた。


 行方不明になった俺とカナエにそれぞれ親交が深い人物のため、俺達を探す過程でノテレク自身の正体を知る可能性が高いため狙われるのだろう、ということだ。

 一方でユリはマークが薄いと考えると、比較的動きやすいため、俺達の食糧調達や情報共有に動くとのことらしい。


「まぁ、それで今回の学校ではどうだったんだ。ノテレクの方に何か動きはあったのか?」

「えーとですね。まずはやはりと言いますか、欠席しているダイゴさんとカナエさんについては聞いてきました。リンペイさんはいろいろ探したが見つからない、今後も探していくと悲しそうな顔を浮かべながら言っていました。それからは特に何も起きず、普段通りでした」

「何か怪しいことは?」

「特に何もありませんでした。遠目で見てもあの小屋に接近していはいませんでした。怪しいとも思える行動もなかったはずです。でも安心してください。何かあれば、これで連絡できますので」


 ユリはそう言ってブレザーのポケットからそれぞれ赤黄青の三枚のカードを取り出した。

 何か異常があればメンバー全員が持っているカードが用途に応じて発光し、それぞれに連絡する仕組みとなっている。


 青は正常に作業を完了したという報告。

 黄色はメンバーの誰かがノテレクと接触をしているという連絡。

 そして赤色が緊急招集、つまり対ノテレク準備だ。

 学園の食堂で使っている、料理が出来上がったことを知らせる紙を応用した形だ。

 ルナが言うには、紙に触れて魔力を注入するだけで発光し、それがそれぞれのカードに伝達するとのことらしい。


 この使い方を提案したリンペイには頭が上がらない。

 これがあるだけ各メンバーの状況把握を実現し、危険への対処が格段と早くなる。


「わかった。何かあったら連絡してくれ。あいつは手強い。一人で戦うよりも、俺達が駆けつけて数で勝負した方がはるかに勝率が高いからな」

「わかりました」


 真剣な表情でユリが頷き、ブレザーのカードを入れている部分をギュッと握った。

 俺はユリが置いたバスケットの中のパンを手に取って、腹を満たすべくどんどん胃袋へ詰め込んでいく。

 そしてしばらく他愛のない会話をしたり、授業について話をする、と言ってもユリは寝ていたためか苦笑いで誤魔化そうとする。


「それじゃ、ダイゴさん。しばらく窮屈かもしれませんが、我慢してください」

「ああ。来てくれてありがとう、暇で仕方なかった上に腹がずっとなり続けて困っていたんだ。また頼む」


 ユリはにっこりと微笑み、俺の部屋から出ていく。

 しばらくすると青いカードが淡く光りだすした。

 おそらくユリが本日の情報共有と買出しのミッションを終えた報告なのだろう。


 それから数日は同じような日々が繰り返される。

 朝早く目覚めて、特に何もすることなく時間を潰す。

 カードの報告を待ち、謎の石を眺めたり、リンペイ達のことを考えたり、たまには勉強。


 リンペイはうまくやれているのだろうか、久しぶりに見なくなるとなぜか恋しくなる。

 カナエは暇とか言い出して、計画を壊して外出したりしないだろうか、あの生意気な顔が浮かび上がり情景が容易に想像できた。

 そしてルナには借りを作ったままだ、どこかで返さなければと、腹から背中にわたり巻かれた包帯をさすりながら考える。


 夕方にユリが訪れて一日の報告を聞いて、雑談をするというローテーションだった。

 報告の内容もあまり変化が見られないが、ノテレクが積極的に生徒に話しかけているという行為が目立つようになったという。


 コミュニケーションというよりは情報収集だろう。

 自分が有利になるように、自分の身を安全にするために排除を行うための。

 有力な情報を持っていると推測したのか、それとも単にリンペイやルナをけん制してくるのか、時折黄色のカードが光るため、こまめに連携して依然として予断を許さない状況だ。


 そして待機している俺は、赤色のカードが輝く決戦の時を、今か今かと待ち続けた。

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