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第1章12話:魔導解放

 階段を下りて校舎を出て向かったのは彩り豊かな花が咲き乱れる美しい中庭だ。

 辺りは穏やかな陽の光に照らされてぽかぽかと心地よい春の陽気に包まれている。

 ユリは放課後によくここで昼寝をしたり、昼休みではぼーっとしていると紹介した。


「静かな場所だな。確かにここならゆっくり休憩できる」


 俺は辺りを見渡して呟いた。

 俺達以外に先客はいないようで、まるで時が止まったような静寂さが辺りを包み、時折草花が風で擦れる音が静かに流れる。


「いい場所ですよね。静かで落ち着いていて、私こういうところが好きなんですよ」

「なるほどのんびりしてそうなあんたらしいな。教室ではそうもいかないのか?」

「教室や授業中はどうしても声がしていて、落ち着かないんですよ」

「なるほど。でも授業中、ずっと寝ていたよな。今日もバルカの授業以外は全部気持ちよさそうに爆睡していたな」

「もう。そういうこと言わないでください!」


 俺が軽く冗談を言うとユリは本気にしていたのか、ちょっと強い口調で怒ってきた。


「いいですよ! そんなことならプレゼントなんて、あげませんよ」

「プレゼントだと? 何のことだ?」

「あわわ、え、え、えっとその」


 俺が首をかしげて聞き返すと、ユリははっとした顔をした後両手を振って慌てている。

 そしてユリが何か思いついたのか俺の背中を両手で押して近くのベンチに座らせようとするので、俺はなされるがままそのベンチに腰を落とした。

 ベンチはちょうど木の下になっており、上からの木漏れ日の温かさも心地よく、休憩するならうってつけといったところだ。


「いいですか。そこでじっとしていてください。それと、今は昼寝をしてくれていいですよ。目を開けてはいけません」

「了解、了解」


 俺は特に何も聞かずベンチにもたれかかり、視線を上にして風に微かに揺れる無数の木の葉をじっと見つめていた。

 しばらくして俺は目元を腕で覆ってそのまま眠りに落ちる態勢を取る。

 授業中座りっぱなしで窮屈さに疲れたのか、それともカナエとの口論に体力を消耗したのか、わからないがぐっすり眠られそうだった。




 どれくらいの時間が経ったかわからないが、前方で何か騒がしい音がするのでそれで目が覚めた。

 疲れはほとんどとれていないことを考えると、あまり寝ていないのだろう。


「……っと、……から……あの時……」


 耳を澄ますと、きつい口調でまくしたてている女の声が聞こえる。


「……なさい……つもりは……本当に……」


 一方で必死に謝罪している気弱そうな女の声もした。

 両方とも聞き覚えのある声なので、事情を確認しようと俺はベンチから立ち上がり声のする方向へ向かう。


 中庭の中央にある特に花が咲き誇っている場所で、ユリとカナエが立っていた。

 カナエは目つきを鋭くして、ユリに対して非難するようなジェスチャーを取りながら何やら強い口調で話している。


 一方のユリはとても申し訳なさそうに、そして怯えているように立ちすくみ、カナエの言葉にひたすら頷きと謝罪を繰り返していた。

 その大きな目には少し涙が浮かんでいるように見える。


「だからね、あんた。なんで、あの時あいつらに加担したんのよ。どう考えてもルナに怪我をさせたのは、あいつらなの。なぜならあたし見たのよ。ルナがあいつらを連れて学校を紹介している姿を」

「ごめんなさい。そんなつもりはなかったんです。ただ、ダイゴさんやリンペイさんがちょっとかわいそうで」


「はぁ!? あんな新入りのしかも魔物のことがかわいそうだからって、ルナの怪我のことをもみ消そうとしたの?」

「で、でも、あの人達は悪い人じゃないんです。とてもいい人達で優しくて、とてもそんなことをするなんて、お、思えなかったんです」


「どこにそんな証拠あるのよ。特にあのデカぶつはオークなのよ。魔物の中でも野蛮で凶暴、人間とわかりあうのが最も難しいって言われてるのよ。だから人々も害悪な魔物として認定されているのに。どうして、そんなことが言えるのよ」

「そ、それは……」

「ほら、言えないじゃない。結局、いつも一人ぼっちのあんたが仲間ができたと思って、加担しただけじゃない」

「ち、違います!」


 ユリが叫んだ。

 だがそれでもカナエは余裕の表情を浮かべており、ユリの次の言葉を待っていた。


 これ以上は聞いていられない。

 俺は大股でその二人の元へさらに近づく。


「おい、その辺にしておけよ。こいつ泣きそうじゃねえか」

「あ、あんた、いたの」

「さっきまでいたし、ちょっと聞かせてもらった」


 さっきまで前のめり気味にユリは言い負かしていていたカナエがたじろいだ。


「さっきも教室でも言ったと思うが、俺とリンペイが二人よってたかって暴力なんて加えてねえ。だが一つだけ間違いがある」


 ここで俺は一瞬迷った。

 本当のことを言おうか、それとも誤魔化そうかと。

 真実を言えば俺の立場はますます危ういことになるし、場合によってはルナの名誉を傷つけかねないからだ。


 だがこのまま嘘を貫き通すのはどうしても俺は我慢ならなかった。

 現にそのせいでユリが辛い目にあっているのだ。


「これは絶対に口外するなよ。俺がルナを殴った。ただ、ルナから戦いを申し込まれた形だがな。だが俺もやりすぎたところがある。すまん」

「ほら、やっぱりね」


 俺は頭を下げて詫びた。

 カナエの視線がさらにきついものとなり、俺の胸に突き刺さる。


「だがこれを周りに話すのはおすすめしない。俺の立場と言うよりはルナの立場が危うくなる。こんな魔物にやられたことになってはあいつ本人も許さないだろう」

「わかっているわよ。そんなこと……口にするわけないでしょ。あいつのことはあたしがよく知っているの!」


 カナエが怒鳴った。


「あんたなりに気を遣っているのはわかったわ。でもね、どうしても納得できないわ」

「納得できない?」

「ルナがあんたに負けたってことよ。ルナの実力や強さはあたしも知っているのに、それなのに負けたなんてありえない。ルナは優秀な次世代の騎士の候補なのよ。どうせ卑怯な手を使ったに決まっているわ」

「おいおい、そんな……」

「言い逃れしても無駄。ちょっと知恵の回るオークならどんな残虐で卑怯なことをするかわからないもの」


 カナエはそう言って手提げカバンを置いて、自分の太ももに巻き付いているベルトから短剣のような物を取り外す。

 短剣のような物を手に取りその場で軽く振ると、刃が伸びて一般的な細身の剣へと姿を変えた。

 剣は突くことをメインとしていそうだが、刃が光に反射しその切れ味もまた察することもできる。

 そしてカナエは俺に剣先を向けて言い放つ。


「これはルナの名誉のためよ。あんたがどんな卑怯な手をしたかを証明してやるの。それにあたしの力を見せつけるいい機会になるわ」


 俺は軽く一息を吐いて、窮屈なシャツをブレザーごと脱ぎ草花の上に放り投げた。

 軽く腕を回して首を鳴らし、こちらに剣を向けているカナエに視線を据える。


「戦いなんて、やめてください。どうしてそうやってダイゴさんを目の敵にするんですか。同じ班員同士ですよ。もっと話し合えばきっと……」


 振り返ると後方ではユリが両手を胸の前で組んで、心配そうな顔をしてこちらを見ている。


「ちんちくりんが出る幕はないわ。引っ込んでなさい。これはあたしとこいつの話なの」


 カナエが叫んで戦いを止めようとするユリを黙らせる。


「で、でも……」

「こうなったらこいつは聞かねえ。どうして人間ってのはどいつもこいつもここまで強情なんだ」


 俺はユリを後方で控えさせるよう片腕をユリの前で広げる。

 そして口元を少し緩めてカナエの方を向きなおして穏やかに話した。


「それに安心しろ。こいつに怪我をさせるようなことはさせねえ。それがお前との約束だろ」

「信じていいんですね?」


 俺はユリの言葉にこっくりと深く頷いた。

 だが殴る以外で戦いの解決をさせるとなると、こいつの戦意を失わせるしかない。


「あんたから挑んだ勝負だ。恨みっこなしだ。負けたら、ユリに謝ってもらうぞ」

「言ってくれるわね。でも残念だけど怪我をするのはあんたの方よ。あまりあたしを、舐めない方がいいわ!」


 カナエは軽く後ろに跳躍した後、剣を突き出して俺に向かって、地面の草花を蹴散らしながら勢いよく駆けていく。


「やあぁぁっ!」


 すぐに剣先はすぐに俺の元まで届くが、鍛えられた俺の動体視力の前にはその剣の軌道がわかってしまう。

 突きは俺の顔に向けて放たれており、俺は首をひょいと傾けて交わした。


「いきなり顔面を狙うなんてあぶねえな。大怪我したらどうするつもりなんだ」

「このっ!」


 カナエはすぐに突き出した剣を振り下ろして斬りかかる。

 俺は一歩下がりその剣先を寸前のところで回避し、続けざまに繰り出されるカナエの流れるような剣技に対応した。


「当たりなさいよっ! このっ! やあぁ!」


 剣を振り終わった後は隙だらけであり、さっきから反撃を加える機会は幾度となくあったが、俺は敢えて防戦一方を演じ続けた。


「悪いが、あんたの攻撃じゃ俺には届かねえ。仮に届いてもこの体に掠り傷を負わせることすらできないはずだ。悪いことは言わん。おとなしく降参しろ。そして謝罪しろ」


 俺は涼しげな顔でカナエに注意勧告を出す。

 一方のカナエは息を切らして、流れてくる無数の汗を袖で拭って俺の目を見ている。

 どうやらまだ闘志はまだ尽きていないようだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……うるさいわね! だったらこれならどうよ!」


 剣を持っている右手ではなく左手の掌を俺にかざして叫ぶ。

 するとカナエの掌の前方に複雑な幾何学模様のような紋章が浮き上がり、その中からちょうど拳サイズの炎の弾が俺に向かって放たれた。


「これが、あんたの言う魔導ってやつか。俺が見ていたやつとそっくりだ」

「ダイゴさん! 危ない! 避けてください」


 ユリが悲鳴に近い叫び声を上げた。

 炎の弾は決して遅くない速度で一直線に俺の方向へ飛んでいき、このままであれば直撃は避けられず炎上は必至だ。


 俺はその炎の弾の単調な軌道を読み、そのど真ん中に俺の熊のように大きな掌をかざして受け止める。


「え!? そ、そんな」


 カナエは口を手で抑えて驚きの声を上げる。


「ここじゃせっかくの植物に燃えたりしたら大変だ。その辺にしておけ」


 炎の弾を握り潰すと掌の肉が焦げる匂いがするが、鍛えられた厚い肉に覆われた掌ではあまり熱を感じなかった。

 熱を逃がすようにさっと手を振り払い、小さな火種を完全に消し去った。


「さぁ、これでわかっただろ。俺の力がどれほどのものかってな」


 俺に戦うつもりはない。

 これ以上戦闘を続行するようであれば、黙らすためには多少強硬手段をとる必要がある。

 だから俺はここでカナエが素直に剣を置いて降参をしてほしかった。


「……何言ってんのよ。これくらいでへこたれるあたしじゃないわよ。あまり使いたくなかったけど……」


 俺の期待とは裏腹にカナエは再び剣を構える。

 また同じ攻撃かと思ったがどうやら様子が違う。


「少し、本気を出してあげる。魔導解放!」


 カナエが叫ぶと、晴天だった空が曇りはじめて次第に辺りが暗くなっていく。

 剣をカナエの胸元から空に向けて真っすぐに持ち、目を瞑って集中しながら何かを呟いていた。

 不真面目そうな見た目と騒々しい性格からかけ離れた、清楚で穏やかな一面を見せる。

 足元からさっきの火球を出すときのような幾何学模様が浮き出て次第にそれが広がっていく。


「我の呼びかけに応えよ。極寒の奥底に眠る者よ、先見えぬ吹雪から出づる者よ、氷河の上を闊歩する者よ、我が剣を凍てつきの大剣へとせしめよ! 汝の名はグラシエル! 我に力を与え給え!」


 カナエが詠唱のように何かを呼びかける言葉を発すると、彼女の方向から強烈な冷気を伴った衝撃波を放たれ、辺りが段々と冷えていく。

 草花が凍り付き、塊となって散っていく。

 俺は足元のブレザーとシャツを拾い上げ、その冷気から身を守るように身を屈めた。


「炎の次は氷かよ……風邪でも引いちまいそうだ」

「まさか、魔導を解放するなんて……それにしても、うぅぅ、寒いです。吹き飛ばされてしまいそう……」


 ユリもまたしゃがんで寒さに震えて、必死に持ちこたえていた。


 冷たい衝撃波はしばらくすると止み、カナエの方を見ると、その両手には自分の体ほどの大きさの氷の塊で形成された大剣を握っていた。

 大剣の周りには冷気を帯びているのか白っぽい靄が浮きあがっている。


「ふふん。これはグラシエル・ソードよ。触れたものを氷結させて粉砕する氷の大剣。あんたに使うまでもないかなと思ったけど、特別にこれで相手してあげるわ」

「大層な剣だな。そんなもの使っても、自分の方が振り回されるんじゃないのか?」

「それじゃ、これを受けてもまだそんなこと言えるわけ?」


 俺の挑発を意に介さず、カナエが両手で剣を構えながら俺に向かって駆けこんでいく。

 迎え撃つ準備のためにシャツとブレザーをユリに投げ渡して、拳を構えてカナエの攻撃に備えた。


「食らいなさい!」


 カナエが勢いよく剣を振りかぶって振り下ろすが、俺は一歩ほど下がって氷の剣を交わす。

 振り下ろした衝撃で大地が抉れ、土埃とともに氷の塊と化した草花が舞い上がる。

 華奢な体からここまでの衝撃を放つということは、攻撃力が格段に向上しているのは明らかであった。

 そして続けざまに大剣を振り回すが、ほとんど当たらずせいぜい俺の頬を掠る程度である。

 頬を触ると掠った痕が凍っていた。


「だがどれだけ強烈でも、そんな大振りじゃ隙だらけだ」


 俺がカナエを強引に掴もうと前進して腕を振りかぶるが、そこにカナエはいなかった。


「ダイゴさん、上です!」

「さぁ、見てなさい。あたしはここよ」


 ユリの叫び声を聞いて見上げると、カナエが半透明の氷の塊の上に立っていた。

 先ほどの土埃に隠れて上へと飛び、空中で氷の足場を生成しそちらに移動していたのだ。

 重そうな剣を持ちながらすぐさま飛び立てるほど俊敏な動きができることに俺は舌を巻いた。


「ここまでやれるようになるとはな」

「さぁ、これなら、どう!」


 俺より高くにいるカナエが飛び上がり剣に全体重を乗せて、俺に向かって脳天に向かって襲い掛かる。


「いっけええ!」


 俺は交わすかどうか考えた。

 交わした場合は高空からの衝撃でおそらく俺は態勢を崩してしまい、すぐさまその隙を狙われてしまう。

 命まではとられないだろうが、偉そうなことを言った手前、負けるわけにはいかない。

 俺の負けず嫌いの性分が敗北を許さないのだ。

 そしてユリに謝らせるために。


「これで、あたしの勝ちよ!!」


 氷の大剣がもうすぐ俺の体に届いてしまう。

 俺は自らの危険を顧みず、カナエの氷の大剣を俺の優れた動体視力で捉えて、両手で真剣白刃取りの要領で受け止めた。


 氷の大剣は急速に手の感覚が失うほどの冷気を帯びており、着地して剣に込めるカナエの力もまるで大男が扱うそれである。

 力比べは剣で押さえつけるカナエの方に軍配が上がりそうだった。


「うぉおおおおおおおおお!!!」


 俺は気合いのこもった咆哮を轟かせて、全身の筋肉をはち切れんばかりに駆使し、俺の脳天を切り裂く寸前のところで剣を止めた。

 そして剣を受け止めた後は勢いよく剣ごと振り払い、剣を持ったままのカナエは小さく吹き飛ぶ。


「う、嘘よ。そ、そんなことって……」

「ふぅ。あぶねえ。あと少しで死んでいた」

「な、なんなのよ、あんた……」


 俺は受け止めた剣を放して両手を擦らせることで熱を与えて、手の感覚を取り戻させようとする。

 一方で渾身の攻撃が空振りへと終わったカナエは、その後に剣を構えようともせず、呆然とへたり込んで俺に向かって呟く。


 氷の大剣は精霊の力を失いつつあるのか、次第に溶けていきベースとなっている細身の剣へと戻っていった。

 さっきまでの寒さはどこかへ消え去り、太陽が顔を出し陽光が辺りを照らし始め、段々と温かくなる。


「でも、面白いじゃない、あんた。本当に面白いわ。どんだけ無茶すれば気が済むのよ」


 カナエが俺を褒めているのかどうかわからないような曖昧な言葉を口にする。

 そして観念したかのように爽やかな顔をして、俺に微笑む。


「これだったら、ルナが負けたのもわかるわ。こんなめちゃくちゃなことができるんだもの。まぁ、今回はあたしの負けよ。あんたのことちょっとは認めてあげるわ」

「思ったよりあっさりなんだな。もっと駄々をこねると思っていたんだが」


 俺の言葉でカナエがむっとしたのかしかめ面をする。


「ダイゴさん、カナエさん! 大丈夫ですか。怪我とかありませんか」


 戦闘が収まりユリがこちらに駆け寄ってくる。

 俺は首を横に振って、シャツを受け取って着なおしていき、ボタンを一つずつ丁寧に止めていく。


「言っとくけど、今回はってだけよ。次は絶対に勝つわ。だけどもうへとへとよ。あんたみたいな化け物相手に、戦う気力なんてもう沸かないわ」

「それは俺もだ。今すぐに休みたいところだ。とんでもねえバカ力で攻撃しやがって。まぁ、あとでいいから、ユリに謝っておけよ」


 カナエは俺の弱音を聞くや否やゆっくりした動作で立ち上がる。


「だったら今がチャンスね」

「あ、カナエさん、よしてください」


 ユリの止める声を聞き入れずカナエはおぼつかない足取りで、俺に向かってもはや歩きに見紛うほどの遅さで俺に近づき、元に戻った短剣で勢いのない突きを放つ。

 もはや突きとも言えない攻撃を俺は楽々と交わして、カナエの額に軽くデコピンをした。

 あわれカナエは全然痛くもないであろうデコピンを受けて、草花の上に大の字で倒れる。


「ぐぅぅ、全然へとへとじゃないじゃない。ずるいわ。あんた、やっぱり嘘つきじゃない。さっきの認めるって言葉撤回するわ」

「俺はオークであんたは人間。こちとら体力には自信があるんだ。最低限度の余力くらいは残ってる。それにこんなので倒れるか、普通」


 言い終わる頃にはカナエは気持ちよさそうに眠っていた。

 体力の限界がきていたにしてもあまりにも無防備である。

 このまま放置するといろいろまずいので担ごうとして近づくと、


「襲ったら殺すわ」


 カナエが俺に向けて言ったのか、それとも寝言が判別しかねることを言った。


「そんなつもりはないっつの……」


 俺は自分の種族に抱かれているイメージを思い出し、無意識にため息が漏れた。

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