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天上人 傀儡の王と獣の王  作者: 黒豆ぶち助
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追撃

ケイオスらはサーラス国のそばに設営されていた。傭兵の拠点へとむかった。しかし設営は残されていたが、中はもぬけのからになっていた。

「逃げおったか!ディクスを呼べ!」

ケイオスは怒り狂った。ディクスは兵士たちに引きずられるように市場から連れてこられた。

「ど、どうされましたか?」

「傭兵どもはどこへいった?」

「私は分かりません。何も知りません。」

ディクスは怯えながら伝えた。

「我々は奴らを捕縛せねばならん。なにかしっていることがあれば言え!」

「なぜです?かれらが何をしたというのです?サーラスの魔物を追い払った彼らをなぜ責めるのですか?」

「なんだと?この俺に反抗するのか?貴様を拷問してもよいのだぞ?」

「わ、わたしはサミアから来た商人です。このような仕打ちをすればサミアから来る商人は減りますぞ。」

”それもそうだな。こいつはサミアの商人組合の者でもあるしな”

ケイオスは仕方なくディクスを離した。

「まだ遠くへは行っていないはずだ。」

「奴らはまだ遠くへはいっていないはずだ。奴らを追うぞ!」

ケイオスは騎兵3000を連れてレイオスらを追った。


「どこまで走るんだ?」

ローレンはテレステスに尋ねた。

「サーラス領内を突破しなければ。サミア領内に入れば問題はありません。」

「でもよ、歩兵は400いるんだぜ。早く進むのに限界があるぜ。」

歩兵たちは息を切らして走ってはいたが、どうしてもそこまで素早くは走れなかった。

さらに10月の雨季のため地面はぬかるんでいたため、行軍速度をあげるにも限界だった。

「残り12日間も強行軍では動けんぞ。やはり迎撃をするしかあるまい。」

レイオスはテレステスに提案した。

「しかしサーラス軍は疲弊しているとはいえこちらの被害も甚大になります。」

「ちくしょうなんで人助けしたのに襲われなきゃならねぇんだ。」

ローレンは頭を抱えた。

「魔物の脅威は去ったが、新たな脅威として見られるのも仕方あるまい。」

「グランはなんで落ち着いていられるんだ?」

ローレンはレイオスに尋ねた。

「ふん、所詮は雑魚だ。この俺の敵ではないな。」

レイオスは不敵に笑った。

「お前の強さはわかってるが、正規軍相手に勝てる訳ないだろ!ふざけんな!話が違うじゃねぇか!こんなことのために傭兵の力を貸したんじゃねえぞ!」

ローレンは嘆いた。

そのときだった。後方から騎馬隊が追ってきた。

「やはり無理だったか。仕方ない相手をするか。」

レイオスは先頭を走っていたが、傭兵たちの列の後方にいった。

「ちくしょう。追ってきやがった。やるしかないのか。」

ローレンは仕方なく長剣を抜いた。

「まずは私が話をして参ります。」

テレステスもレイオスにつづいた。


そして両軍は公道で対面した。距離は500M。ケイオスが前へと出てきた。

「どこにいかれるのかな?」

”魔物どもを追い出すほどの戦力だ。まずは出方を伺うか”

ケイオスは口では自信満々だったが、魔物を撃退したテレステスらを恐れていた。

すぐに攻撃をされると思っていたがテレステスも交渉するため前へ出た。

「今我々は軍事演習中でして、ケイオス殿も軍事演習かな?」

テレステスは嘘をついた。

”この嘘つきめ、我々の追撃に気づいていたとはな...これほどの切れ者がいるのなら小規模な兵力のうちに始末しなければ...”

「単刀直入に言おう、貴殿らを始末しにきた。」

”兵力差は歴然だが、全体の士気を下げたうえで始末しよう”

ケイオスは傭兵たちにも聞こえるように大声で言った。

「なんでだ?おれたちが?」

「相手は正規軍だぞ。降伏したほうがいいんじゃ?」

一部の傭兵たちは相談し始めた。

「なぜですか?我々がなにをしたと?」

”兵が動揺しているな、兵の士気を下げるのが狙いか”

「貴殿らは魔物どもを撃退したが、その程度の軍勢で倒したとは思えなくてな..」

ケイオスは徐々に近づいてきた。

「なにが言いたいのです?」

「虚偽の申告をしてサーラス王の信頼とサーラスの兵糧を狙っている場合もあるのでな、いま我々が貴殿らを攻撃してみて、その力が本当ならここを去ろうではないか。」

「そんな理由では我らを攻撃するつもりですか?あまりにも理不尽ではありませんか!」

”やつは我々の力を警戒しているのだ。ジャイグ人をサーラスから追い出した方法が武力によるものだと思い込んでいるのだ。傭兵たちと正規軍が戦えば全滅するが...”

「所詮は傭兵だ。信用しろというのも難しいだろう?」

「では一つ提案があります。」

「なにかな?」

「兵の代表が戦ってみてはいかがかな?」

「なに?」

「所詮は模擬戦のようなものですし、いたずらに兵を失う行為も愚かかと..」

「なんだと?それはだめだな。」

「なるほど、将軍は臆病者と見える!兵の代表なのにも関わらず自らは戦わないとは!」

テレステスは大声で言った。

「なんだと!ふざけるな!傭兵風情が!ケイオス様のお力を見せて下さい!」

サーラス軍の将兵らが騒ぎ出した。

「貴様...いいだろう相手をしてやる。」

”こいつ私の軍を挑発したのか、後悔させてやるぞ....”

「グラン様お願い致します!」

そういってテレステスは傭兵の中に紛れていった。

その後、傭兵の中から赤いトーガを着た男が馬に乗って現れた。

”なるほど、体格はいいようだが武器は剣か、リーチでは私のほうが上だな。さらにトーガだと?戦場では自殺行為だな。”

ケイオスはほくそ笑んだ。

ケイオスのもつ長槍は全長170CM、レイオスの刀剣は全長120CMであることからケイオスの武器のほうが圧倒的に有利だった。

レイオスとケイオスは距離は3Mの距離になった。

「はぁ!」

レイオスが上段から刀剣を振るおろした。

「くっ」

ケイオスも長槍で防御した。

”なんだ、この怪力は?まるでイオアス国のドメティウス軍将軍のレオ・ドメティウスのようだ・”

ケイオスはレイオスの怪力に驚愕した。

ケイオスは防御したため頭を割られずに済んだが、じりじりと刀剣が体に近づいていく。

ついに板金鎧の継ぎ目に刀剣が入った。

「ぐわあああ」

ケイオスは悲鳴を上げた。

刀剣が徐々にケイオスの体へ食い込んでいく。鎧の継ぎ目からは血があふれ始めた。

「もう限界だ!やめてくれ!」

ケイオスは降伏したがレイオスは力を緩めない。

「我々を攻撃したことを後悔させてやる...」

「悪かった!貴殿らの力には敬服した!だれか止めてくれ!」

傭兵たちの中からテレステスが馬に乗って走ってきた。

「グラン様もう十分です!もうおやめください。」

レイオスはテレステスの声を聞くと力を緩めた。

「ケイオス将軍、命拾いしたな。テレステスに感謝するといい、次は必ず殺す。」

「...はい」

ケイオス将軍は自信を失っているようで茫然としていた。

「ケイオス将軍、我々は危害を加えるつもりはありません。我々はサミアへと戻りますゆえ」

テレステスは一礼し傭兵の列へ合流し、テレステスが戻ったことを確認するとレイオスも後につづき傭兵たちはサミア方面へと行軍した。


「将軍!お体は?」

サーラスの兵士一名がやってきた。

「...大丈夫だ。」

「やつらを追わないのですか?」

「撤退するぞ..奴らを追ったところで被害が増すだけだ。」

「たかだか500の傭兵ですぞ、騎兵3000で追撃すれば傭兵どもは総崩れです!」

「だめだ、あんな男が率いた軍だ。よほど鍛錬された軍なのだろう...とにかくサーラス城へ撤退する。」

そういってケイオスはサーラス城方面へと引き返すことを命令しサーラス城へ兵士たちは引き返した。


「テレステス大丈夫なのか?」

ローレンは長剣を鞘にもどして尋ねた。

「なにがです?」

「また追ってくるかもしれないぞ?」

「それはないです。おそらく今の戦いでケイオス将軍の疑惑は確信に変わりました。」

「なに?」

「彼は我々がジャイグ人を撃退した方法が武力によるものだと思っていたため最初から全軍で攻撃しなかったのです。しかしグラン様の力を見せつけられ、この軍が強いものだと錯覚したのです。」

「じゃあもし..」

「もし最初からサーラス軍が攻撃してきていたら我々は敗北しておりました。運がよかったといえますね。」

「どうなるかと思えばお前ら...最高だな!」

ローレンは安堵した顔になりレイオスとテレステスの肩を叩いた。

「本当にうるさいやつだなお前は。」

レイオスはローレンに微笑んだ。

「あとはサミアとサーラスの国境で合流すれば..」

テレステスは呟いた。


6日間傭兵たちは行軍を続けるとジャイグ人はサミアとサーラス間に野営していた。

ジャイグ人たちはテントを設営しており家畜である羊などが多くいた。

「テレステス殿お待ちしておりました。」

ジャイグ人の長のセスが歩いてきた。

「これからは我々といれば安全です。逃げ回る生活をせずともよいのです。」

「信用してもいいんだな?」

セスは不安そうな表情で尋ねた。

「え、どういうことだ?」

ローレンは尋ねた。

「これからはジャイグ人の彼らが仲間になるのです。」

「本当かよ!...最高じゃねぇか!」

「よい働きを期待しているぞ。」

レイオスも微笑んだ。

セスは安心した様子でこう答えた。

「我々は2000人の遊牧民で戦闘員は500人だ。あとは女子供や老人だ。どうか我々がしばらく定住できる場所の提供を頼む。」

「ええ我々と共にいれば問題ありません。あとのことは心配いりません。」

「こいつら馬がいないぞ?」

ローレンが不思議そうな表情で尋ねる。

「我々に馬は必要ありません...競争されます?」

そういってセスは走り出した。

「いいぜ!」

ローレンは馬を走らせた。

ローレンは本気で馬を走らせているが一定の距離を保ったままだった。

「こいつはすげーな!とんでもないやつらだ!」

ローレンは嬉々として馬を走らせた。

レイオスはテレステスのそばに近づき小声で耳打ちした。

「イオアス国を出て34日が経過したがイオアスはどうなっているだろうか。」

「おそらく内部統制がとれずに兄君やイオアスの貴族は混乱していることでしょう。」

「だといいがな。リグアラやエギア、アウルスを残してきてしまった。」

「テルタイアとの戦線にはリグアラ殿は必要不可欠な男でした。ただ戦線に残してきたことが心残りです。」

「せめてリグアラの軍と合流できれば...」

「仮に第二軍団がいたとしても、あの軍団を維持することは難しいです。少なくとも兵糧が必要でございます。」

「兵糧か...」

レイオスは落胆した。

「ないものを考えても仕方ありません。今できることをするのです。」

テレステスはレイオスを勇気づけた。

「お前にはいつも助けられるな。テレステス」

「グラン様には命を助けられましたゆえ..今後も微力ではありながら尽力させていただきます。」


ここから約1400KM先のイオアス城ではある男の今後の処遇について議論されていた。

「リグアラはかつてレイオスの配下だった男だ!さっさと始末するべきだ!」

リグアラ・べリウスという男はレイオスが前線で活躍していたころからの忠臣。レイオス軍第二軍団長で身長190CMで茶髪で切れ長の目をした勇猛な武人である。

「そういう訳にもいくまいテルタイアとの前線にいる男を粛清してみろ。テルタイア軍が東へと攻め寄せてくるぞ。」

「ではドメティウス家のレオ様を赴任をされてはいかがかな?」

「この1カ月の間にレイオスの忠臣だったものたちの多くは処刑されたのだ。処刑されることわかっているのに現在の拠点を放棄するとは思えん。」

「もし我々が第二軍団解体の命令を下されたらリグアラは反旗を翻しテルタイア国と共謀してイオアス城へ攻めてくる可能性がありますぞ!」

「そもそもレイオスは死んだのか?奴の死体を見るまでは安心できん!」

「それは今すべき話ではない!リグアラの処遇についてだ!」

議論は停滞しており様々な意見が飛び交っていた。

そこへマオス侯爵があらわれた。

マオス・アウルスはイオアス国の3大貴族の有力貴族であり、風貌は長く尖った顎と小柄な体格が特徴的である。身長は158CM。

「マオス様!お待ちしておりました!」

「君たちは長い間議論をしているようだが結論はでたのかね?」

貴族たちはマオスの登場に静まり返った。

「...いえ。申し訳ございません。」

「そうか。では私にも案があるのだが..いいかね?」

「どのような案でございましょうか?」

マオスは笑みを浮かべた。

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