殲滅
「策を弄するというがどうするというのだ?」
レイオスはテレステスは尋ねる。
「今回は私の指示でローレン殿とグラン様には動いていただきます。」
「俺はグランに傭兵を貸したのでお前に貸した訳ではないぞ。」
ローレンは不服そうな口調で言った。
「次の戦い以降は眠りを妨げられることはないですから安心して下さい。」
「この男の力は俺が保証する。」
そういってレイオスはローレンを諫める。
「それなら文句はねぇけどよ。」
ローレンは疑いながらもテレステスに指揮権を与えることに承諾した。
早朝彼らは輸送を開始したが傭兵たちは眠そうな顔で行軍をしていた。
傭兵たちは野盗の夜襲によって体力が全快ではなく集中力が落ちていることは明確だった。
「テレステス殿、この輸送が成功するか不安になってきました。」
ディクスは傭兵の行軍を見た後、心配そうに尋ねた。
「問題ありません。ディクス殿は到着した後の商いについて考えて頂ければよいのです。」
「そうですか。テレステス殿頼みます。」
ディクスは安心した顔になった。
「敵襲だー!」
やはり睡眠不足のせいか傭兵たちの反応が遅れたようだった。攻撃は輸送団の右側面の林からから攻撃が来た。距離は200M。数は約100人
”よし、グランは昨日のように側面から攻撃するだろう..”
ローレンはそう思い歩兵達に隊列を整えるように命じた。
「歩兵は応戦するぞ!輸送物資を守れ!」
テレステスはローレン率いる歩兵隊に命じた。ローレンたちは野盗と交戦を開始した。
しかし数度剣を交えるときだった。
「全軍!輸送物資を放棄しろ!全軍撤退だ!」
テレステスが号令した。
「なんだと?」
ローレンは耳を疑ったが、全軍は撤退を始めたためローレンもそれに従い撤退した。
輸送物資を置き去りにして傭兵らは退いていくため野盗たちは物資を物色し始めていた。
「どういうことですか?テレステス殿!?」
ディクスはテレステスに泣きながら尋ねる。
「私は父上に任された仕事だったのに..もう父上に顔向けはできない..」
「このままでは傭兵らも限界ですし放棄させていただきました。」
「それでは意味がねぇだろ。輸送はどうなるんだ?第一傭兵の兵糧も奪われたんだぞ。」
ローレンは頭を掻いた。
「このまま物資を輸送しながら戦うことは不可能です。ですから野盗の拠点をたたきます。」
「それがわかれば苦労しねぇよ。サーラスの面積がどんぐらいあると思ってんだ。」
実際サーラスの面積は約65万k㎡で大半は森に覆われており雨などもサミアに比べて降水量は高く巨大な湖が2つあり6万k㎡の湖と3万k㎡の湖がありサミアよりも低い標高であった。
「実はサミアの傭兵出立は5日前と4日前に手配したのです。」
「俺たちは確か5日前に出発したよな?4日前には誰が出発したんだ?」
「4日前には私の推挙した傭兵たちを使いました。彼らには少数の者たちで輸送させました。」
「それで輸送はどうだったんだ。」
「失敗しました。しかし少数で偵察隊が後を追い野盗どもの拠点を2日後に見つけました。」
「ならなんで最初から拠点を攻撃しなかったんだ?」
「複数の野盗の組織がいる可能性があったためです。しかし今回の襲撃ですべて同じ場所から攻撃していることから1つの組織だと確認しました。昼夜問わず攻撃されれば、その輸送は難しいですが、拠点の出入りが頻繁になった結果、拠点の位置を特定することは容易です。」
「素晴らしいぞ。テレステス。」
レイオスはニヤリとした。
「それでは輸送が失敗したという訳ではないのですね!」
ディクスは泣いて喜んだ。
「あとはローレン殿とグラン様の力の見せ所ですぞ。傭兵の休息とった後夜襲をかけます。」
夕方頃まで傭兵たちは休息をとり昨晩からの疲れを癒した。
「テレステス殿。」
夕方の傭兵たちが休んでいる頃ローレンはテントの中にいた。テレステスに声をかけた。
「どうされたんですか?」
「テレステス殿、貴殿のことを侮っていた。今までの無礼を許してほしい。」
「いえ、これまで傭兵団を率いてきたという自信からのことでしょう、我々のような若造にとやかく言われればよく思わないこともわかっておりました。」
「世の中は広いな俺はこれまでエリオン、テルタイア、サミアに傭兵として戦ってきて死線をくぐってきたが、お前たちのような男たちと共に戦うのは初めてだよ。」
「いえ我々の力などまだまだですよ。ローレン殿の力も頼りにしております。」
「...そうか!戦では俺に任せろ!」
そういってローレンはテントから立ち去っていった。
夜中テレステスは兵を集めた。
「聞け!奴らは我々の物資を奪い逃げおおせた。しかし奴らの拠点が見つかった!奴らの拠点にはこれまでの盗品などがあり、そこでなら食糧もある!やつらの拠点を襲撃をかけ、輸送で奪われたもの以外の野盗の蓄えていたものは自分のものにしてもよいぞ!」
「ほんとかよ!」
「よっしゃあ!俺が先陣をきってやる!」
傭兵の士気はあがらないはずもなく傭兵たちは気合いが入り襲撃の準備を始めた。
野盗たちは分捕り物を得て意気揚々としていた酒盛りをしていた。
「なかなかのものを手に入れたな。」
「いつものようにこれを高値でサーラスで売りさばくぞ」
この野盗たちは商人たちを襲って商品を奪っては商人に紛れて高騰したものと同価値で売りさばいていた。サーラスとサミアに野盗が紛れおり大量の物資を運ぶ輸送団を見つけては野盗砦に連絡することで事前に先回りをして昼夜問わず攻撃することで輸送団を襲っていた。
規模は構成員800人と大規模であり、自分たちでも農耕も行っていたため小規模な集落のような場所で暮らしていた。
「外が騒がしいぞ?」
野盗らが外を見るとレイオス率いる傭兵が暴れ回っていた。
所詮野盗など訓練されているものたちではなく、不足の事態の備えや対策もなかったため500人の傭兵団が殲滅するのに時間はかからなかった。
レイオスは先頭をきり騎馬隊を引き連れ武器をとった前線の野盗を血祭りにあげ、ローレンら歩兵隊は松明を野盗の家屋に投げ入れ集落を火の海にした。
恐れをなした野盗らは逃げ惑う者や応戦するものと混乱しており、盗賊団の頭領も優秀な者でもなかったため、この態勢を立て直すことができなかった。
傭兵たちは野盗の集落の中にあったものは商人の売りさばくはずだった工芸品であり傭兵らはそれらの価値はわからなかったが、手にもてる範囲の品物を抱えていた。
野盗たちはたまらず散り散りに夜の森へと消えていった。
朝には集落だった場所には何も残らず燃えカスや野盗どもの死体が散らかっていた。
しかしテレステスはその風景を見渡しながら立ち尽くしていた。
「....」
「どうした?テレステス?」
レイオスは自らの剣についた血を布でぬぐいながら尋ねた。
「私の提案したことでしたが、いつ見ても気分がよいものではありませんね。」
「所詮は下劣な獣に劣るものたちだ。お前が気にする必要はない。」
「はい、グラン様しかし少し休ませて頂けますでしょうか?」
「..好きにするといい。しかしお前のしたことは正しいことをした」
早朝から野盗から奪った物資と元々運んでいたものと合わせ輸送を開始した。野盗討伐後は何者にも襲われることはなかった。おそらく盗賊らというものはどこにでもいるが、この数に匹敵をする数の盗賊団も少なかったため襲われることもなかった。
「グラン殿、テレステス殿はいかがされたのだ?なぜ荷台でうずくまっているのです?」
「元々奴は血と争いを好まぬのだ。久しぶりの戦場に恐らく気分を悪くしたのだろう。ディクス殿はいかがかな?」
「私も遠目で見てはおりましたが気分のよいものではありませんでした。しかしこれが強さというものだとわかりました。」
「あの程度のものたちなど、この俺に勝てるわけがあるまい。」
「おかげであと7日でサーラスへ着きます。また帰りはよろしくお願い致します。」
それから何事もなくサーラス国へと到着し商人たちは自らの持ってきた工芸品などを売りはじめた。サーラスは農業が盛んでおり豊富な水など肥沃な農地が豊富であった。
しかし工芸品などの文化が少ないため、特にサミアで作られた陶器なども人気であった。
サーラス国は3Mの高さの石塁で守られておりサーラス国内には畑や住居などがあり、多くは木造家屋であった。サーラス国内に畑はあったがサーラス国の外(石塁の外)にも畑が多く存在していたため農民はサーラス国をでて作物の収穫もおこなっていた。
テレステスは荷台から降りるとサーラス国内の市街地を見て回った。やはりサミアに比べると食糧の物価は低く設定されていた。そこへディクスがテレステスを探しまわっていた様子で声をかけてきた。
「テレステス殿具合は良くなったかな?」
ディクスはテレステスに尋ねた。
「ええだいぶ..」
「不思議な方ですな。冷血な判断をしたと思えば、ご自身の判断で気分を害されるとは。」
ディクスは高らかに笑った。
「私は戦が苦手なのです。しかし敵を倒すことは考えられるのでグラン様に実行していただくのです。」
「しかし野盗の殲滅はこの国の民を笑顔にしましたぞ、おそらく今後は商人の往来もまた増えるでしょう。」
「なんだか慰められてしまいましたね。」
「いや本当のことをいったまでです。ところでサーラス王が今回の野盗の殲滅をしたものたちに会いたいとのことです。」
「私ではなくローレン殿かグラン殿を推薦致します。」
「しかしグラン殿はテレステス殿を推薦しておりますし、ローレン殿は見あたらないし、頼む!サーラス王の願いなのだ!」
テレステスはディクスの願いでディクスと共にサーラス王に参内した。
サーラス城は外部から侵入しにくいよう高い城壁で囲まれていたため中の作りは見えなかったが城内は質素な作りになっており煌びやかな装飾物などもなかった。しかし城内には護衛兵やそれに従事するものたちがおり城として機能していることはわかった。
大広間へ着くと玉座には老人がおり、その周りに護衛兵や大臣がいることから王であることが確認ができた。
「私はテレステス・ドミウスと申します。」
「そちが野盗の殲滅の功労者か、よくやってくれたこの国の民も喜んでおろう。」
「とんでもない、私一人の力ではございませぬ」
「褒美を取らせたいのだが..なにがよいかな?」
「とんでもございませぬ、そのようなものがあるのであれば、この国の民のために使ってくだされ。」
「ますます気に入ったぞ!なにかあったときはお主らの力になることを約束しよう。」
実際、王が存在していれば正規軍が存在しているはずなのだが以前イオアスとサーラスは戦をしており、その時の戦の損害があまりにも大きかったため自らの国の治安も守れずにいた。
「実は強いおぬしらに頼みがあるのだが..」
"やはりそうか”
既に殲滅された野盗の礼をいいたいということで参内したが実際はサーラスの兵力の脆弱さから、自分たちの強さを頼ることはテレステスは見抜いていた。
「実はこの国にはもう一つの脅威があるのだ。」
「野盗は殲滅しておりますぞ。これ以上どんな脅威があると?」
「この国には魔物が住んでいるのだ。」