サミア国
「傭兵だと?」
レイオスは眉間にしわを寄せる。
「傭兵など使い物にならんぞ。」
テレステスは続ける。
「傭兵は資金があれば雇うことができますしサミアはサミア領内の治安が悪いことは有名で傭兵の需要も高いため、傭兵も各地から集まっております。」
「俺が正規軍を率いて戦っていたことを知っておろう?」
「存じております。私も従軍と調練しておりましたので。」
「なら何故傭兵などと練度の低い軍を率いよと申すのだ?」
「仮に現段階で正規軍を作るとなると装備や軍の調練が必要です。しかしその資金、人数を集める労力を考えると現存する傭兵を扱うことがよい方法でございます。」
「傭兵をか..」
レイオスは自身の正規軍を率いて大国テルタイアと戦いをしてきた。これまで傭兵などというものをレイオスは使ってこなかったからである。
「奴らは金でしか動かんし、連中は所詮ならず者どもだ。」
「まずは足がかりとして傭兵を使うことをお許しください。」
「しかし資金はどこにあるというのだ?」
するとテレステスは懐から袋を出した。
「なんだこれは?」
「これはイオアス城から持ち出した財宝の一部です。これをサミア銀貨と交換して参ります。」
「資金はあるということか?」
レイオスは観念したように溜息をついた。
「よかろうお前の好きにするといい。」
レイオスは傭兵を集めることに承諾した。
「後のことは私にお任せください。1週間の猶予をお与えてくだされば兵馬を確保いたします。」
サミアは元々何もない土地で水源の確保が難しいため食糧自給などもできないことからわざわざ人が集まる場所ではなかった。しかしなにもないからこそエリオンとサーラスの国交の中継地点として栄えてきたのだ。さらに商業が盛んになったことからテルタイアに滅ばされた職人、イオアスに滅ぼされた工芸士が亡命先としても集結したため工芸なども産業になったため、さらに巨大市場として商業の盛んになった。そのため、商人たちを狙った野盗なども往行しており、商人たちもまたその対策のため傭兵を雇い貿易を行い傭兵らも各地から集結していた。人口は約15万人の都市であり活気に溢れていた主に使用されていた通貨はサミア銀貨と呼ばれる代物でサミア周辺には銀山が豊富であったため貿易の際に使用されたのであった。通常砦は1か所であるがサミアは貿易をしやすいように4か所の入り口があり商人が往来しやすい作りとなっていた。
「レイオス様こちらです。」
テレステスとレイオスは1週間後サミア砦の外に出て傭兵らの住まいである野営の集落へと歩いて行った。傭兵は市民権がないため寝泊りは砦外で寝泊りすると取り決めとなっているためである。それぞれ傭兵団はテントや木造家屋を作り独自の集落を作りあげていた。
「まるで村のようだな」
レイオスは傭兵団の村を見渡す。傭兵たちは自らの装備の点検や調練を行っており、中には女子供などの姿もあった。レイオスらは傭兵団の集落の入り口にたどり着いた。
「なんのようだ?」
傭兵団の入り口を守る男が尋ねる。
「私はテレステスと申します。ローレン殿にお会いしに参りました。」
「...入れ。」
レイオスらは入り口を通過し直線距離にして300M先にある木造家屋へ歩いていく。
あたりにはテントや木造家屋で構成されているようだ。
「レイオス様ここはローレン傭兵団といい。テルタイアやイオアスに滅ぼされた者たちで結成された傭兵団でございます。レイオス様の名は偽られたほうが賢明でございます。」
テレステスは小声で耳打ちをする。
レイオスは無言で頷く。
2人は作られたばかりと思われる木造家屋へ入ると女を両隣にかかえた男がいた。周りには部下と思われる。屈強な男たちが30人ほどいた。
「だれだ?」
だるそうに男は答える。身長は185CM黒髪ミディアムのパーマが軽くかかっているような男で服装は鎖帷子に両腕に籠手を装備していた。
「私はテレステスと申します。サミアとサーラス間の輸送の護衛をお願いしたい。」
「その話をしに来たなら、商人組合の連中に受けないと断ったはずだぜ?」
「サミアは物資輸送が深刻になるほどの問題が発生している。この仕事は報酬も高く。悪い話ではないだろう?」
「サーラス方面の野盗の出没は知ってるよ。しかし他の傭兵団が何人もやられたと聞いている。第一エリオン方面ならまだ輸送ができているじゃねぇか。」
「現在はエリオンからの輸送は確かに問題ない。しかし今後エリオンが他国と交戦すれば輸送は困難になります。」
「そんなことしらねぇな。俺たちは福祉事業でやってる訳じゃねぇからな。エリオン、イオアス、テルタイアが戦ってるのは前からのことだろ?」
「もしエリオンへ、テルタイアが侵攻すればエリオンは恐らく陥落します。」
「なんでそういえる?」
「以前であればただの領土侵攻で済む話でした。しかし今回のテルタイアの戦の理由は洪水における農作物の不作にあります。イオアスとテルタイアの休戦から矛先はテルタイアはエリオンに全戦力をエリオンに向けるはずです。」
「テルタイアに兵糧がないならエリオンへの遠征はできないだろ?」
「おそらく長期間での遠征はできないことから短期間での戦いを挑んでくるはずです。そうなればエリオンが落ちる可能性があります。もし遠征していたテルタイア主力軍ガルダ・スルギウスが戻ってくればわかりません。」
「・・・」
「お願いします。今後のためにもサーラスとサミア間の輸送に力をかしてくれないでしょうか。」
テレステスは頭を下げる。
「..サミア商人組合の回し者が、俺たちのなにがわかるってんだ。」
「?」
鬼の形相になり、ローレン立ち上がり怒号をあげる。
「俺たちは元々イオアスやテルタイアに追われた身だ。元々はこんな仕事をしてた訳じゃねえんだ。貴様らは俺たちを簡単に使うが俺達傭兵にも家族がいる!もし身内が戦死したらそいつの家族は誰が守ってやるんだ?だったら俺たちは砦の護衛をしているほうがマシなんだよ!」
テレステスは一瞬気圧されるが話を続ける。
「私には策もあり、私の隣にいる男の武勇もまた優れております。」
「ふん!ひょろひょろの青二才が!お前、年はいくつになる?」
「私は28になります。こちらの男は22になります。」
「俺は34になる。わかるか経験がものをいうんだよ。とにかく俺たちはこの仕事は受けねぇ!」
テレステスは冷静にもう一つの提案をした。
「かしこまりました。では我々に兵を貸していただきたいのです。」
「なに?」
「ローレン殿は責任のないものには依頼人と思わぬとおっしゃった。ではこの若者が責任をもって貴殿の代わりに戦います。ぜひ貴殿の傭兵をお貸ししていただけないでしょうか?」
「もうよいテレステス。所詮は傭兵だ。臆病者ゆえ戦うことはできぬらしい。」
レイオスは頭を掻きながらテレステスの肩に手を置いた。
「なんだと?図体がでかいだけのガキが。」
「臆病者でないなら俺と戦え。それで、でかいだけかわかるだろう。」
レイオスは腰の刀剣を引き抜く構えをみせる。
「俺たちのかしらをやるつもりか!」
「調子にのりやがって!」
ローレンの部下たちもまた剣を抜く。
「いいだろう。俺に勝てたら俺の仲間を貸してやる。だがもし俺に負けたらここにいる全員で貴様らを袋叩きにしてやる。」
ローレンの部下たちはしぶしぶ剣を収めた。
ローレンは自らの刀剣を引き抜いた。全長90CM。形状はレイオスの刀剣に比べ細身である。
レイオスもまた刀剣を引き抜いた。
ローレンはレイオスの刀剣のサイズを凝視した。
なんだ、この長さは、さらに剣の幅もだ約7CMという厚さ、長さは120CMという長さだ。
リーチでは勝てんか..ローレンは騎馬を扱うため剣は細身の軽量な剣を扱う必要があったためである。
間合いを取って剣を振らせたあと、やつの間合いに入るしかないな..
ローレンは剣を構えてレイオスと間合いをとりながらレイオスの間合いに入らぬよう気をつける。
レイオスは剣を強く握った。こんなことに時間はかけていられん。一気に勝負を決めてしまうか。
レイオスは足を踏み込んで一気に間合いを詰め剣を振り下ろす。
なに!?思わずローレンは刀剣で防御態勢に入る。
ギイイイイイン
ローレンはかろうじてレイオスの攻撃を防いだが、あまりの衝撃に手がしびれてしまった。
なんて力だ。
しかしレイオスは間髪いれず横一文字に剣を振る。
ローレンは剣を構えるがローレンには剣を握るほどの握力は残っていなかった。
剣は弾かれローレンの長剣は左後方へと飛んた。
「・・・」
一同は静まり返ってしまった。
たった二振りで俺が負けた。この俺がまったく歯がたたなかった。ローレンは現状を信じることができなかった。
「年齢は関係なかったようだな。」
俺の一撃を一度でも受けるとはな。レイオスは剣を鞘へと戻す。
「てめぇ、よくもお頭を!」
一同が剣を引き抜きレイオスへ刃を向ける。
「まて。」
ローレンが部下たちを止める。
「てめぇ只者じゃないな。名をなのれ。」
ローレンは痺れた腕を抱えて尋ねた。
「グラン。」
レイオスは偽名を告げる。
「いいだろうグラン!ただし俺の部下を無駄死にさせたら承知しねぇぞ。てめぇには500の傭兵を貸してやる。」
レイオスはローレンを背にして木造家屋を後にした。
それから後日軍団の再編成のためローレンの軍2000人のうち500人を引き抜きレイオスは調練を行いはじめた。その間にテレステスは砦内の商人組合の館のディアの元へと向かった。
ディアはエリオン出身の茶髪のくせっ毛で肥満体であり、年齢は40になる商人で組合の代表である。
服装は緑色のトーガをきていた。
組合は農業、工芸など様々に存在するが商人たちは個人で商いをするより集合体を作ることで、集めた資金を元手にさらなる利益を作るために組合に参加しているものたちが多かった。
「おお、ローレンは引き受けたか。」
ディアはおそるおそるテレステスに尋ねる。
「いえ結局ローレンは引き受けませんでした。」
「なら我々の輸送警護はどうなる?」
ディアはテレステスを問いただす。
「われわれがローレン傭兵団の一部を率いてが警護します。」
「そうか。これでサーラスからサミアに食糧を引き入れることができる。」
ディアは安堵した。
「いえ、まだ食糧を運べると決まった訳ではありません。」
「そ、そうだったな。それぞれ商人らが個別で食糧の輸送を行っているが現在野盗の襲撃に遭い一部の食糧が届かないことからサミアの食糧価格は高騰してしまっている。この問題を解決するには大規模な食糧の輸送が必要なのだ。」
「輸送の日取りはいかがしましょう?」
「3日後にでも出発したい。できるか?」
「かしこまりました。」
その後ディアの商人組合の館から出て砦外で調練をしているレイオスと合流した。
「レイオス様、いやグラン様お待たせしました。」
「一つ聞くが何故わざわざ、商人組合どもに力を貸さねばならぬのだ?」
レイオスは不服そうな顔で尋ねる。
「このように恩をうっておくことで、いざというときに助力を得るためとグランという男の名声を集めることでさらに傭兵を増やすためでございます。」
「なるほど、良い働きだテレステス。サミア出立はいつになる?」
「3日後とのことですが2日後にサーラスへ向けて出立を考えております。」
「なにか考えがありそうだな?」
レイオスは笑いながらテレステスに尋ねる。
「私に任せてください。」
テレステスは元気に答えた。