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天上人 傀儡の王と獣の王  作者: 黒豆ぶち助
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逃亡

 森の中とは生物の競争によって生み出されている。木が生み出す葉や実を食む生物とそれを食らう生物。そして死骸を吸収する植物で森になる。そのため、かよわい人間が何の準備もなしに森に入れば森の一部になってしまうだろう。そのため森に入るときは、その森を熟知した人間か、何らかの力を持つ人間のみが森に入る資格を有するのだ。しかしそんな人間でも資格を奪われる時間がある。それは夜である。人間は視覚によってほとんどの外部情報を判断する。そのため暗闇とは情報を判断できなくなるのだ。判断できない進むことも退くこともできなくある。森を熟知している人間でも夜の森に入ることはない。しかし、イオアス国南部に広がる夜の森に馬に乗った人間の姿が2つあった。

「この俺を殺すだとふざけた奴らだ。いずれ必ずやつらを八つ裂きにしてやる」

赤いトーガを着た。金髪碧眼の偉丈夫の若者が怒りを露わにして馬を走らせている。

若者は名はレイオス・オクティア、イオアス王国第二王子である。

「それは無理です。我々を追っているのは王国親衛隊です。数、装備、統率力あらゆる点で我々には不利です。今はこの場を逃げ切ることが先決です。」

疲労しながらに進言をする白いトーガを着た線の細い若者もまた馬を走らせている。

この男はテレステス・ドミウスといい、レイオスの従者である。

「父上が死んだとたんに、第二王子の俺に弓を引くとは許せん。」

「そ、それは兄君と大臣の判断でしょう、レイオス様の性格では兄君のダオス様の下につくとは思えませんし、さらに議会では、レイオス様の味方はほとんどいないといってもいいでしょう。これまでは国王陛下が擁護していたため議会は手を出すことが出来なかったと思われます。」

 「許せん。誰のおかげでイオアス国は領土拡大できたとおもっているのだ。父の勅命で西の要塞から城へ戻ってくれば、反逆罪として処断などとぬかしおって。」

「この森を抜ければ国境を超えます。あえて森を選んで正解でしたね。おそらく森の奥までは追ってはこないでしょう。兄君の目的は王権を奪取することが目的ですし、ここまで追ってくる必要はないでしょう。」

 テレステスは若干安堵したで様子である。

この二人は南下をし、イオアス国の南部に存在するサミアと呼ばれる国へ逃亡を図っていた。

イオアスとサミアの国境間には巨大な森があり、イオアスとサミアには商人の行き来がないため道がなかった、見通しが悪いため道は険しいが逃走経路には適していた。


テレステスとレイオスは馬を走られせていたが馬を休ませるため川沿いで休憩することにした。

「サミアまであとどれくらいだ?」

レイオスは苛立ちを隠せず、テレステスに尋ねる

「我々がサミア城からでて8日経過し、馬を常に走らせていることを考えれば、あと3、4日で到着するはずです。」

テレステスは疲弊した様子で川の水を飲みはじめた。彼は3日間何も食べていなかったため水で飢えをごまかすためガブガブと水を飲みこんでいた。

「あと数日でテルタイア東北要塞は陥落するはずであったはずだ!父が死んだため前線から城へ呼び戻したと思えば、この俺を包囲し処断すると勅命を出しおって、やはり早いうちに貴族どもの地位を降格..いや処断すべきであった。」

「レイオス様は以前から古参からの貴族を冷遇し、自らの臣下を厚遇しすぎたのです。私は以前から注意したではありませぬか。」

レイオスはため息をついた

「たしかにお前の言うとおりだ。しかし、やつらは何もせず、優秀な兵を臣下を戦地へ送り大勢の部下を無駄に戦死させたのだぞ、自国民を殺したことと変わりはせぬ。そんな者を貴族や仲間だと思えるか!」

声を荒げ、レイオスは剣を抜き、辺りの木々を切りまくる。レイオス自身もこの行為が無駄だということだとわかっているが自らのこれまでの貴族の行為、反旗を翻した貴族、兄への怒りをどこへぶつけたらよいかわからなかったのだ。

テレステスも、溜息をついた。この溜息は疲弊からのため息であり特に意味はなかった。

突然レイオスは森の奥の小さい明かりに注目した。

「テレステスはそのあたりで横になっているといい。」

この森の中に明かりが灯っているということは人間が夜の森に進入しているということだ。商人であるなら物を輸送しやすい道路を使用するはずだ。レイオスは状況を把握するため明かりの方角へ低い体勢で近づくすることにした。レイオスの巨体では隠密には不向きだが、辺りの木々はレイオスの体を隠すのには十分すぎるほどに生い茂っていた。レイオスは松明をテレステスに渡し、レイオスは小さい明かりへ向かい始めた。

テレステスには自らの体を動かす体力がなかったため川の近くにあった岩場の影に隠れることにした。

レイオスはジリジリ近づき30Mの距離にまで近づいた。

兵たちの装備は鎖帷子に刀剣という組み合わせであり一般的な正規軍の装備であった。

「マオスの部下どもか、10人なら簡単だな。」ぼそりとレイオスは呟いた。レイオスは弓を明かりに向けた。


小隊は森の中を長時間行軍していたため様々な意見が飛んでいた。

「隊長これ以上進んでも無駄ですよ」

「ならん、マオス様の命令だ。レイオスを討てば報酬を得られるのだぞ」

「しかしこれ以上先に進めばサミアに入りますぞ」

「レイオスは豪勇と称される男ですぞ、我々だけでは歯がたちませぬ」

「馬鹿野郎、他の部隊も探しているはずだ。我々が帰ったとなれば他の部隊の笑いものだ。」

「先のテルタイア東北砦の攻略やイオアス東北に位置する大国ヴァラーナからの防衛戦の戦でも数々の猛将を討ち取ったとか、一度拠点へ戻り明日にでも」

「黙れ、所詮は一人だ。仮に全てが事実でも、それは兵がいてこそだ。今は恐れる必要はない。第一明日ではレイオスは逃げおおせてしまうわ」

「10人でかかれば問題はありますまい。」

次の瞬間、小隊の会話は止まった、なぜなら隊の中にいた男の頭、正確には左耳から右耳にかけて矢が突き刺さっていたからである。矢が突き刺さった男は呻き声をあげることも倒れた。

「敵襲だー!どこからだ?」

「分かりませぬ、明かりも見当たりません。うう」

次の男は首元へ矢が突き刺さっている。

「明かりを投げろー!明かりに向けて矢を撃ってきているぞ!」

兵たちは明かりを投げた。辺りは暗黒の世界に変わった。兵達は事態に対応できず、恐れていた。

「うわああ」

一人は後方へ走り去っていった。

「ぬうう、逃げるな戦うのだ!レイオスは目の前だぞ!出てこいレイオスこの私を恐れているのか!」

隊長は大声を出す。部下も自らを鼓舞するために大声を出す。

「レイオス!貴様は臆病者だ恥を知れ!」

兵士たちは大声をあげてレイオスを挑発を続けると茂みから人影が現れた。

「よかろう相手をしてやる。」

先ほど兵達が捨てた松明が四方に広がったことからレイオスの足元から全身を確認することができた。

しかし隊長は自らの頭一個分は大きい体格の偉丈夫が現れたため思わず後ろに一歩下がった。身長は205cm金髪碧眼の端整な顔立ちの男で赤いトーガを身にまとっていた。

その男が持っていた刀剣は肉厚幅広の両刃であることは自分たちの持っている刀剣と同じであったが、全長が自分たちの刀剣の2倍の長さの120CMの長さであった。

”この剣を振るのか。この剣で斬られるのか。”

「うわああああ」

状況を把握した兵2名は逃げだした。と同時に

「うおおお怯むな行けぇぇ」

隊長は部下に命令した。その命令に反射的に反応した兵5名はレイオスに向かった。

「ふん!」

レイオスは刀剣を振り下ろしたため先頭にいた兵は頭部を守るため上部に構えながら突撃した。

剣と剣が当たると同時に兵の剣はレイオスの力に負け、地面へと刀剣が叩きおちたと同時にその兵の頭がトマトがつぶれたように変形し体は地面へ崩れた。

後方からもう一名突撃してきたためレイオスは刀剣を突き兵達に囲まれぬように後方へ下がった。

兵士たちはすくみあがり先ほどのような大声をあげられなかった。

レイオスはたたみかけるために前に進んだがレイオスは自らの刀剣には先ほどより刀剣が重く感じたため刀剣の方へ目を向けると何かがぶら下がっていた。

兵士達は固まってしまった。そのぶら下がっていたものは自分たちの仲間だったからである。

「つっかえてしまったか。」

そういってレイオスは刀剣に突き刺さっている兵の体に脚をおき、無理やり兵の体に突き刺さっていた刀剣を引き抜いた。すると勢いよく刀剣を引き抜いた結果おびただしい量の血が流れ落ちた。

「ひいいい」

「引けー!引けー!」

そういうと兵達は陣形も考えず兵達は元来た道へと逃げ帰った。

レイオスは死んだ兵の体を漁り戦闘糧食を奪いテレステスのいる1000M先の川へと歩いていった。


茂みがガサガサと揺れた。

「レイオス様?」

テレステスが起き上がる。そこにはレイオスが立っていた。

「これを食うといい。」

レイオスは袋に入った戦闘糧食をテレステスに投げた。テレステスは、すかさず袋から出し口に頬張った。

「すぐに出発するぞ」

そういって馬に乗る。

「なぜですか?」

テレステスは口に頬張りながら尋ねる。

「数名逃した。追手がくる可能性がある。」

「レイオス様が逃すなど珍しい。」

テレステスもまた急いで馬に乗る。

「俺も疲れたようだ。早く森を突破しサミアに入るぞ。

「はい、私も野宿は嫌ですから。」

そういって二人はまた馬を走らせた。現在は10月6日であり、6月から9月のスコール性の激しい雨が降ることもないため道のぬかるみが少ないことから無事に森を抜けることができた。


それから2日が経過し森を抜け、見通しの良い公道を馬を並足で歩かせていた。

この公道はサーラスとサミア間の商人の行き来に使用されていたため馬での移動もしやすかった。

サミアは乾季もだったため草木も低木が多く、見通しもよかった。

テレステスは元々体があまり強い者ではなかったため疲弊していた。しかしレイオスはこの男を非常に評価していた。この男は冷静さと知略と謀略を兼ね備えていたからである。しかし今では見る影もない。

「もう限界です。」

テレステスは悲鳴をあげる。

「戦闘糧食を食べたであろう。」

「あれしきでは足りませぬ。」

実際戦闘糧食は麦のみで一口分だけであった。

現在の気温23℃で非常に過ごしやすい気温ではあったが空腹のため寒気や震えという症状がテレステスを襲っていた。

テレステスは身長は169CMとレイオスよりは小柄で脆弱な体は限界だった。この数十日間で彼の長く美しい長い髪は汚れ、外はねしており、彼の丸く大きな茶色の目は不眠と飢えで半開きで濁っていた。彼は白いトーガを身にまとっていたが、それも薄汚れていた。

しかしその時テレステスは元気な声を上げた。

「レイオス様。旅人?商人?どちらでも構いません。馬車が見えます。」

確かに前方の開けた道に馬車が見える。直線にして距離は800Mだろうか。

「レイオス様何か食糧を持っていないか確認してまいります!」

そういってテレステスは大急ぎで馬を並足から速歩に変え馬車に近づいていき、馬から降りて馬車を操っている男を尋ねた。

「私は旅の者でございます。何か食べ物をもっていませんでしょうか。」

すると馬車操っている大柄な男が最初は驚きはしたものの馬車を止め、優しく答えた。

「申し訳ないですが私は今食べ物を持っていないのです。」

「そうですか。」

テレステスは落胆した。

大柄な男は続けて話す。

「私の家はここから少しです。そこでなら羊の肉などを振舞えますよ」

「本当ですか?」

テレステスは元気に尋ねる。

しかし一つ疑問に感じたことがあった。この男はなにをしていたのか。冷静に見ると商人や旅人といった風貌ではない。後ろの荷物は布で覆われており、何か把握することはできなかった。さらにサミアは確かに商人などを中心とした国だがそれを狙った盗賊が多いと噂だった。そのためサミアから離れた場所で暮らす者は盗賊に襲われるためサミア領内ではなくサミア砦内に住むと言われていた。それをテレステスは思い出した。

「初対面でさすがにそれは申し訳ありませんので」

「とんでもないです。旅人さんなら旅の話をお聞かせください。」

「お金もありませんし。」

「まぁ、お代はいりませんからお話だけで結構ですから」

男は満面の笑みを浮かべている。

テレステスは逃げることも考えたが男との距離は3Mで私の今の体力では捕まってしまうだろう。とテレステスは考えた。しかしあまり刺激しないように馬の手綱を掴んだ。

「いえ私はサミアへ急がねばならぬので。」

テレステスは馬に乗ろうとした同時に馬の体に刃物が食い込んだ。

馬は悲鳴を上げ、テレステスは掴んでいた手綱思わず離してしまい、馬は全速力で走り去ってしまった。

「勘のいい奴だ。」

そういって男は馬車から降りてテレステスに近づく

「身につけているものを置いていけば命は助けてやる。」

男はテレステスの首を掴んで顔面に刃物を突き付けた。

「ぐううう」

テレステスは苦しみながら今気づいた。自らの身なりは貴族の風貌だったことに、イオアスではこれが普通だったため気づかなかった。いやむしろいつもならわかることだったが連日の不眠と飢えで混乱していたためだった。

すると遠くから矢が男の腕に刺さった。

「ぐわああ」

男は突然のことにテレステスを離した。

続けざまに男に矢が次々と刺さり6本目が刺さったとき男は動かなくなった。

「お前らしくないぞ。テレステス。」

レイオスはテレステスに近づく。

「申し訳ありませんレイオス様。」

テレステスはゆっくり立ち上がる。

レイオスは荷台の布をめくりあげると、この馬車の持ち主だったと思われる男と荷物が出てきた。

「この地帯がそういった場所だということを自覚しているのはお前のはずだ。」

「私が愚かでした。レイオス様。」

「お前は自らの状況が危ぶまれるとき冷静さを失うことが欠点だぞ。」

そういってテレステスを自分の馬に乗せサミアに向け馬を走らせた。

テレステスの体力は限界でレイオスの背中にしがみついているのも限界のようだった。

それから数時間後にサミアの砦にたどり着いた。


まずレイオスはテレステスに十分な食べ物を与えるために食事処へ向かった。

食事処は多くの人々で賑わっており、活気にあふれていた。そして二人はテーブルに腰をおろして店員に食事を注文した。

しばらくすると食事がテーブルに置かれたとわかるやテレステスは手づかみで食べ始めた。

テレステスは馬肉を焼いたものと麦を炊いたものを口いっぱいに頬張った、味わって食べると行為ではなく腹を満たすためにバクバクと食べた。

そして徐々に満腹感が満たされると一息ついた。

「どうだ落ち着いたか。」

レイオスはテレステスに尋ねた。

半開きだった瞳は元の丸い大きな瞳になっており顔色もよくなっていた。テレステスは冷静に答えた。

「はい、レイオス様。申し訳ありませんでした。」

「まず何故サミア領内に入ることを進言したのだ?南西のエリオンであれば近かっただろうに。」

「エリオンはイオアス国とテルタイア国というこの一帯では2強と呼ばれる国の猛威にさらされることから盤石な基盤を作りがたいかと。」

「それでいえばイオアスから一番離れたサーラスであれば一番安全ではないか?さらに農業が盛んで兵糧を蓄えるうえではよい環境だぞ。」

「サーラスは確かに一番離れており安全とはいえましょう。しかし商業の発展が乏しく軍を強化する上では不足しております。さらに今現在の問題は兵糧ではありませんのでサーラスは後に必要ではありますが、現段階では必要ではありませぬ。」

「なるほど、では今、我らにはなにが必要だというのだ。」

「傭兵でございます。」

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