幼馴染の便り
この国の騎士は主に3つに分けられる。国全体を守る一般部隊、王家を守る近衛部隊、そして“巫女”を守る巫女部隊。 近衛部隊と巫女部隊は、一般部隊に入った後に厳しい試験と訓練の成果から 選抜される、いわばエリートだ。
俺とルイシェとは巫女になる前から知り合いだった。同郷で幼馴染だった。
彼女が巫女として奉仕するとき、心寂しいだろうから村から一人だけ一般部隊に入ろうと決まった。俺はすぐに立候補した。ルイシェは安堵と申し訳なさそうにしていたっけ。
それから、俺は巫女部隊に選抜されるために猛特訓した。食べて寝る以外の他の時間なんかなかった。その努力が実り、俺は巫女部隊に上がった。任命式にはルイシェは何回も飛び跳ねるぐらい喜んでいた。あの姿を見て、俺 は数年間の努力の苦しみ全てが綺麗に心から流れて無くなったんだ。俺も嬉しくなって一緒に跳ねてしまい、任命式なのに上官に怒られたな。
それからは、巫女とそれを守る騎士の下っ端として、なかなか本音で話ができなかった。
手紙だけがルイシェとの本当の接点だった。その繋がりは皮肉にも、戦場任務に行っている時しか出来ない。
“親愛なるウィルへ
お元気ですか?昨日、昔の夢を見たの。故郷の夢。
のどかな風景に家からする料理の匂い。よくウィルと過ごした湖のほとりにいたわ。
懐かしい。もし私の巫女の任務が終わったら、ウィルも騎士の任務をやめて、いつかまた故郷に行きましょうね。 それが楽しみなの。絶対に、約束よ!
幼馴染の巫女のルイシェより”
この手紙が来た時、俺の心が踊ったんだ。
・・・けど、なぜ心が高鳴ったんだろう?
・・そもそも、なんで“巫女”になるルイシェについて来たんだ・・?
身を守るため? なら、周りの騎士でも十分だ。
何故、辛い訓練にも耐えて巫女専属の騎士になったんだ・・。
最初は寂しそうな彼女を支えるために、同郷の俺が頑張らなければと思っていた。
それなら、他の同郷の奴でも良かったんじゃないか。
なぜ、俺が・・・・。
・・・・・ああ、そうか 。
・・今更この想いに気付いても遅いが・・・。
「・・・・・・・好きだ、ルイシェ・・。」
ずっとそばにいた・・・かったんだっ・・・。
俺はもう届かない想いを滲んだ月に呟いた。