最初の便り
巫女が亡くなったことはこの国にとって最大の打撃となった。
巫女は、この国の命であり、王よりも偉大な存在だ。
巫女の祈りがいるから、この国の穀物は豊かで、身分の差はあれど人々に飢えなどない。 この土地に生まれる人の中には、“霊力”が強い者が血筋だけではなく不特定多数存在している。 “霊力”を持つ者が祈りさえすれば、自然が変化し、豊かにさせ、安定させることができる。 その“霊力”の少し持つ者でも人々の暮らしを豊かにする存在として重宝されるが、その中でも国を支えられるぐらい“霊力”を持つ者は巫女となる。
巫女の大抵は少女であり、 巫女になりうると分かった時点で、村や家から離れてこの白い神殿に奉仕することになる。
その巫女の存在は、隣国にも伝わり戦争の種になっている。 実際、この前まで巫女を狙う隣の軍事国との防衛戦の戦場にいた。
巫女の死は、国の中枢の一部のみに知られるようになった。
巫女の存在が戦争の種でもあると同時に、この国の防衛でもあった。
隣国に比べては軍力が少ないこの国でも、巫女の祈りで防衛戦は上手くいくことが常だった。 しかし、巫女がいないと敵国に知れたら、一気に攻めいれられて支配され、霊力を持たない者は奴隷、霊力を持つ者は敵国の糧となるだろう。
そんな状況下だから、周りの騎士達や官司達は混乱状態だった。
それをエレンの花びらが咲き誇る庭にある遠くの東屋から横目に見ている俺がいた。
最低限の報告をした後は、何もやる気が起きなく、東屋でずっと佇んでいる。
虚ろな目で花びらの舞う空の月を眺めた。
「ルイシェ・・・。」
俺は大切にとっておいた手紙を見る。
“親愛なるウィルへ
お元気ですか?貴方はまた懲りずに戦場に行ってしまったのね。そのようなことをしてはほしくないのですが・・仕方ないですよね。私のためだと知っているので、貴方に謝ることしかできないことに不甲斐なさを感じるの。 だから、手紙を書き続けることにしました。短くても一言でも書き続けます。 戦場にいる貴方の心の支えになりたいから。少しは恩返しができるかしら。だから、どうか無事に帰って来て。
心配性の巫女のルイシェより”
これから毎日のように手紙が届き、それは彼女の思惑の通り俺の心の支えになっていた。
遠くにいても彼女の優しさが感じる。なのに・・・。
「もう・・、君に会えないのか・・・。」
悲しみを白く輝く月が照らしていた。