最後の便り
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“親愛なる ウィルへ
そちらはまだ雪解けの時期でしょうか。こちらはもうエレンの花が咲き始めました。
貴方は相変わらずお元気かしら?たぶん風邪も一切ひかないでその自慢の金髪をなびかせて動き回っているのでしょうね。 ・・少しは禿げろ。・・・嘘よ。驚いたかしら?
こちらは平穏な日々を過ごしています。貴方がいないから、静かに暮らしているわ。
貴方は嫌いかもしれないけど、昨日またあの剣士さんが来てくれたの。彼との会話は楽しい。ずっとこうしていたいぐらい。そこには貴方も一緒よ。だから、早く戦場から帰って来てね。
この薄暗い神殿からご無事を祈っています。
女神様のような巫女のルイシェより”
心にある不安を胸に抱きながら、俺は銀色の鎧の重さをものともせずに愛馬で荒原を駆けていた。
“エレン”のピンク色の花ふぶきの中、彼女がいる白く聳える神殿が見えてきた。
神殿の長い階段の麓で馬を降り、息切れとともに階段を駆け上がった。
たどり着いた階段上の神殿の入り口に男が一人こちらを待つように立っていた。
姿勢の良さと細い体を持った、目にかかるまで前髪を伸ばした黒髪の剣士だ。黒色のフードを着ていて、金色の民族的な模様が綺麗に縫い付けられている。
この剣士は手紙に書いてあったルイシェと親しい友人だ。 2人が話しているところは、思わず嫉妬してしまうぐらいにお似合いだった。
・・その剣士が血が滴る剣を握っている。
俺は嫌な予感がして身震いがした。
「はぁ・は・・ルイシェは、・・ルイシェは、どう、した?」
「・・・・・・・・・。」
剣士は俺の問いに答えない代わりに、光のない暗い目をしている。
嫌な予感が一層増した俺は、剣士を素通りし、白い神殿の中に足早に入っていった。
静寂に包まれた仄暗い神殿の奥にある広い空間にたどり着いた。
その空間の中央に天井から輝く光の筋に照らされ、穏やかな顔をして寝ている彼女がいた。
茶髪のまだ幼さを残した、見慣れた愛しい人の寝顔。
・・・しかし、白い衣がその胸部から赤く染められていた。
「・・・ルイ・・シェ・・・。」
俺は目の前の信じがたい光景を見て、崩れて膝立になった。
経験から、刃物によって一突きで刺された跡だとわかった。
震える手で触った彼女の頬は・・・もう冷たかった。
けして、もう目を開けることも、起きることもない。それは戦場で何度も見ているもの《・・》だった。
「・・・・・ウィリアム。」
俺の後ろにあの剣士が立った気配がし、俺を呼びかける静かな声が聞こえた。
「・・・・・そう、か。お、まえ、が・・・」
俺は剣士に振り返り際に剣を抜いてそのまま斬りかかった。
剣士の右脇腹から胸下まで切り裂いた。
剣士は咄嗟に後ろに引いたため致命傷を避けたものの、自身の剣で牽制することはなかった。
剣士は血が吹き出したまま、震えた手で懐から紙らしきものを出してこちらに向ける。
「・・・・彼女からの、手紙だ。私はどうなってもいい・・。どうかこの・・」
「・・・お前、が、殺した、の、かーーーーっ!!!」
頭に血が上っている今、何も聞こえない。
また剣士に斬りかかったが、その途端に何か《・・》に邪魔をされて意識が急に遠のいた。
・・目が覚めた時には、その剣士の行方はしれなかった。