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令嬢の肖像画

作者: 南清璽

 ブラームスの間奏曲。この曲こそ、今回の依頼の製作にあたり、我がアトリエのBGMにふさわしい楽曲でした。それというのも、意想として哀愁を込めたいと考えたからです。その依頼とは、令嬢の肖像画を描いて欲しいというものでした。ただ、普通、晴着あるいはドレスをお召し願うのですが、それでは物足らなくありました。何故か当世風におさめてはならないというインスピレーションを得たのです。現にその話しぶりも人に甘えたところがなく、とてもしっかりしたものでした。聴くと大学では自治会の役員あるいは学園祭の実行委員をされていらしたとか。その一方でどことなく翳りがあると感じました。それが艷やかで、モチーフに加えなければと考えました。

 だから令嬢にはスーツをまとってもらいました。そして、安楽椅子に腰掛け、頬づえついてもらうポーズを願いました。ただ、表情は伏し目にし、憂げな雰囲気を漂わせたのです。私の作品は点描の手法によるスーパーレアリズムの絵画です。だけど、完成した作品に対し、失望されたみたいです。令嬢いわく、もっと病的な要素を醸し出して欲しいと。私も画家の端くれとして、丹精を込めた作品のしかも、その芸術性に触れられるのはいい気はしません。ただ、依頼を受けての肖像画に関しては、職人に徹することにしていましたから、その意思を尊重することにし、一週間後にお渡しする約束で描き直しました。思案の上、細身にし、目の下にありえないほどのくっきりとしたくまを入れたのです。

 驚きました。何と、完成作を見に来られた令嬢が、細くなり、くっきりとしたくまが目の下にできていたのです。だけども、今度も、同様に気に入ってはもらえませんでした。もっと恐怖心をあおる鬼気迫るものが欲しいと。ただ、空想で描いたに過ぎない肖像がこれほどまでに似ているというのに、驚きもせず平然としているのには正直腹立たしくありました。ホント、ブチ切れそうになりました。でも、ここはこらえ、また一週間後にという約束にしました。

 しかし、冷静になった途端、まさかとは思うのですが、私の描く絵に人の運命を変える力があるのではと考える様になったのです。ふと、恐ろしい考えが浮かんでしまいました。顔中を包帯でぐるぐる巻に覆うてはどうかという考えです。私は、空想でそう描き、その約束の期日が到来しました。

 しかし、今度ばかりは、かなりの動揺を覚え、狼狽しました。そうなのです。顔中包帯で覆われていました。しかも、左目の部分が空いているところまで同じなのです。令嬢は、暴漢に襲われ、顔が、そいつのかけた劇薬でただれたというのです。しかも、今から、包帯をとるかからそのとおりに描いて欲しいと。そして、令嬢が、その手を包帯にかけたときです。心臓の動悸が激しくなりました。持病の発作です。みるみる意識が遠のきました。ただ、かすかにサイレンの音だけは、記憶していました。

 その後、意識を取り戻したのは病院の一室でした。医師の話によれば、令嬢が機転を利かし、すぐにAEDを施してくれたから、一命をとりとめたとのことでした。病院を退院し、アトリエに戻ると、くだんの絵は、そこにはありませんでした。その令嬢が持って行ったのでしょうか。もちろん、代金は頂戴してはいなかったのですが、命の恩人なので、別段請求しようと思いませんでした。

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