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FreeMusic  作者: 坂下真言
8/15

落下生

 今日もバイトだ……。太田の事が気がかりで上の空。店長に太田の状態を話したらショックを受けていた。太田はこのコンビニのムードメーカーみたいなものだったから。

 なんとか気力で乗り切る。部屋に帰ってから『8bit Memory』の仮録音をする。本当はツインボーカルだったはずがソロ曲になってしまった。ミックス作業をする。あまり集中出来なかった。

 一応のミックスを仕上げて音楽登録サイトに登録する。その際に音楽の相方が事故ってしまって今回はソロボーカルだという事を書いてみた。

 次の曲の構想を練る。現在の気持ちを表現する鬱曲にしようと思った。

 ピアノを中心にしたバラードにする。タイトルは『落下生』落花生にしようと思ったけどそれじゃ豆だよなぁと思って敢えて誤字を使った。生が落下。つまり死。実際太田は死んでいないけれど俺の気分はもう鬱屈してそんな感じだった。

 ピアノの低音を使いクラシカルに行こう。バイオリンとかチェロとかもいいかもしれない。現実逃避とは分かっているのだけれど、それでも何かしていないと俺自身が押しつぶされそうになる。

 その分、曲の打ち込みに熱中していた。明日は休みだから太田の見舞いに行かないと。

 黙々と曲を打ち込む。外は相変わらず空が泣いている。明日の天気はどうなのだろうか。ネットで調べる。なんとか回復するらしい。太田の意識も回復してくれればいいのだが。それを願いながら横になる。そうすれば『落下生』なんて鬱曲作らなくて済むのに。

 翌日、天気は回復していた。しかし気分は不安だらけだった。自転車で中央病院に向かう。

 病室をノックするが返事がない。恐る恐る開けてみると太田しかいなかった。しかし太田の意識はまだ戻っていないようだ。

 そのタイミングで看護師の方がやってくる。

「太田さんのお見舞いですか?」

「はい」

「ご両親も今日は付き添われていないので意識が戻ったらナースコールを押してくださいね」

「あの、どうやったら意識が早く戻るようになりますか?」

「そうですねぇ。刺激を与えるのが一番なんですけども物理的な刺激ではなく、たくさん話しかけて脳を刺激してください。きっと太田さんも喜びますよ」

「分かりました。ありがとうございます」

「では失礼しますね」

 看護師の方はドアを開けて去って行った。

 それからは太田に話しかけ続けた。コンビニの店長が心配している事、『8bit Memory』を登録した事、雑談なんかを1人で延々と喋り続けていた。

 面会時間も終わりになり仕方なく部屋に戻る。こんな気分じゃ歌えない。いっその事インストにするかと思った。暗い気分で歌っても誰も楽しくないと思ったからだ。鬱曲がコンセプトなら暗い音を流してそれに浸っているのがいいと思った。

 ため息をつきながら曲に自分の辛さを盛り込んでいく。詰め込めるだけ詰め込む。そうやって徐々に組み上がっていく曲。

 ふと思い立って『8bit Memory』のダウンロード件数を見に行く。そこには太田を心配するコメントが1件だけついていた。

 ありがたい。思わず目頭が熱くなる。俺以外にも太田の、知らない他人の心配をしてくれる優しい人がいるとは……。ありがとうと言いたい。

 ダウンロード件数自体はまだ5だったが太田にも報告しないと。少し救われた気がした。

 太田の意識が戻るまではソロ活動でいかないと。でも名義は『FreeMusic』でいく。太田は意識がなくても応援してくれてると信じてるから。『落下生』の最後を変更していく。ハッピーエンド風に。そうじゃないと救いがない。 

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