いざ、録音!
次の日から太田と話し合い、削れる部分は削ってなんとか歌詞が一応完成した。肝心なのはボーカルだ。
「ボーカルどっちがやるよ?」
俺が問う。
「んー。そうだなぁ。いっそツインボーカルでいいんじゃないか?」
確かにそれなら角も立たない。
「じゃあそうするか。録音環境は太田の部屋にあるのか?」
「おう、マイク、ミキサー、バッチリだぜ」
「お、おう?ミキサー? 分からんけどじゃあ今度のバイト休みの日に行くわ」
そしてバイトが休みの日に太田の部屋に向かう。
「いらっしゃい。暑いからなんか冷たいものでも飲むか?」
「大丈夫、コンビニで2人分の飲み物買ってきた」
「お、気が利くじゃん。サンキュー。じゃあ俺はコーヒーにするか」
俺は残ったスポーツドリンクを飲みながら太田から説明を聞いた。マイクが2本もあるから1回の録音で同時に出来てしまうらしい。恐るべしスペック。もっとも、最近のパソコンはこのくらい出来て当たり前らしいが。
「そもそも栄太の音域ってどんなもんなの? 結構広そうだけど」
「まぁカラオケで不自由しない程度には低音も高音も出ると思うけど」
カラオケは好きだが、ああいうところはマイクに補正がかかってるんじゃないかと疑ってかかる。実際は分からんけど。
「じゃあ何回か録音してみるか。その中のベストテイクを使おう」
そう言って2人で熱唱する。防音加工された角部屋というのはいいものである。
何度か歌い、カラオケとの勝手の違いと自分の録音した声に戸惑いつつもいい感じのテイクを編集する。具体的にはエフェクトをかけたり。
「流石だなぁ。俺も作曲に興味が出てきたぞ」
「お、そうか? じゃあオススメセットでも探してやろうか?」
「うーん、今度バイトの給料が入ったら頼むわ」
「りょうかーい」
そうして今日は解散。ミックスの仕上がりを楽しみにしてろと太田は言う。まぁまぁ俺も楽しみなわけだが。ヒットしたらどうしようとかいうよくある夢想をしながら意識が遠のいていくのを感じる。その感覚に身をゆだね眠りへと落ちていく。