卒業
今日は2月20日だ。『Sweet』のリリースから1週間強が過ぎた。反響は上々。ついにテレビの1シーンにフリー素材として使われた!
まぁ評判も上々。このまま作曲活動を続けられたらなぁと思う。『FreeMusic』は2人の共同名義だから太田にも期待がかかる。
太田にはプレッシャーかもしれないが頑張って欲しいと思っている。ただあまりプレッシャーを与え続けるのもあれなので小出しにしていく。
サイトの運営自体は俺がやっているから秘密にしておいて後でネタばらしみたいな事は出来る。
とかやってる時にメールが届いた。
「初めまして。FreeMusicのファンです。今回は曲のリクエストをしたくて思い切ってメールしました。リクエストは和風な曲です。暇があったら作ってやってください。それでは短めですが失礼します」
珍しいものも来るものだ。リクエストとは意外だった。早速太田にチャットで今のメールをコピペして送っておく。とりあえずその後和風な音源を探す。
一言で和風と言ってもどんな感じなんだろう。雅楽とかの系統に入るのか純粋に和楽器を使ったロック調の曲になるのか。そこを返信しておく。
そして手持ちの音源を見てみる。和楽器だけならなんとか曲になるかなぁと思っていると太田からチャットで音源あるかどうか聞かれた。
とりあえず和楽器と重さを持たせるベースやギター、ドラムだけならなんとか。専門的な音源はないと返事しておく。
まぁギターならある程度弾けるからオリジナルでフレーズを録音する事も出来るが。
今日もバイトだ。バイトに向かいつつ和風の曲とは、と考える。リクエストされた曲の真意を知らなければまだ組み上げる事もできない。
とりあえずバイトを普通にこなしてメールの返信を待とう。
夕方のバイトも終わり部屋に戻る。早速メールを確認してみる。返信が来ていた。
「リクエストの件ですが、和風にロックテイストを混ぜた感じのインストでお願いします」
雅楽などのかしこまったもののリクエストではないらしい。一安心だ。とりあえずネットの海で参考になりそうなものを検索する。
何件かみつけて聞いてイメージをつかむ。
「なるほど。こういうジャンルもあるのか……」
参考になりそうなのでアドレスをチャットで太田に送る。太田も驚いていた。そしてチャットで一言。
「格好いいな」
全く同感である。和洋折衷とはこうも格好いいのかと。
太田からの突然のコール。
「よう」
「おう、どうした」
「和楽器って奥が深いんだなってさ」
「そうだなぁ。格好いいよな」
「あとコレは完全に勝手に決めちゃったんだけどさ」
「ん? どうした」
「この曲で俺引退するわ……」
「え!? なんでよ?」
「もう完全に栄太ソロの方がいいだろう」
「そんな事ないって! なんでなんだよ」
「いやさ、俺が足引っ張ってる感がすごいのよ」
「だからそんな事ないって!」
「いや、勝手だけどもう決めたんだ」
「そんな……」
「引退というか半引退かな。俺が俺の満足いく曲を作る事が出来たらまた2人でやろう」
「信じていいんだな?」
「おう。栄太に嘘はつかないぞ」
「じゃあ、この曲を思い切り格好良く仕上げよう! そして俺はずっと待ってるからな!」
「おう! 時間はかかるかもしれないけどいつか満足いく曲が出来たら栄太に真っ先に聴かせるからな!」
とりあえずリクエストの曲に応えない事には始まらない。和楽器使ったロックか……。完全オリジナル曲のインストだからなぁ。
ベースと三味線を同じ音程でリードさせてみるか?
ドラムのリズムはどうなるんだろう。和楽器のドラムと言ったら太鼓だけどなぁ。バスドラムが似た表現できるだろうか?
敢えて不協和音チックにするのも斬新かなぁ。斬新なアイデアとは意外なところに転がっているものだ。タバコを吸いながら天啓を待つ。
ふと思った。ピアノはどうだろうか。琴とマッチするのでは?
実際軽く組んでみる。案外いい感じだった。これは採用しよう。静かな雰囲気になってしまうかもしれないがロックテイストは忘れずに。
もうすぐ3月。卒業シーズンだ。卒業をテーマにしてもいいかもしれない。太田が引退する事に合わせてみるのも悪くない。万感の思いを曲に詰め込む。
これもメインメロディーにボーカル乗せたバージョンも作ろう。万感の思いを叫ぶんだ。そう決めた。
翌日は休みなので作曲に集中する。とりあえずメロディーを組み上げていく。骨組みを作り肉付けをしていく。若干詰め込みすぎかなぁと思いつつも止まらない。
『FreeMusic』の最後のリリースになるんだ。思い切り熱を入れても悪い事はない。
タイトルは『卒業』にする。
最後のリリース後、太田は半引退になった。一方俺は未だにポツポツ作曲を続けている。太田はいなくなってしまったけれどサイトも名義も『FreeMusic』で行こうと決めた。
完




