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FreeMusic  作者: 坂下真言
14/15

太田の退院

 翌月、太田は退院した。大体の事は自分1人で出来る様になったみたいだ。退院の日には病院に駆けつけて祝い酒の大吟醸を渡した。

 太田はしばらく実家で療養するらしい。話し合いの結果、ネット電話で連絡を取り合い打ち合わせをする事にした。

 その方がお互い負担も軽いし移動しなくていいから楽という結果になった。まぁ2人で会うというのは少なくなってしまうが。

 静岡が故郷の太田なので頑張れば行けるという判断だった。

 静岡に帰っていく太田を駅のホームで見送る。お互い涙は見せなかった。固い握手を交わして見送る。

 俺は独り部屋に戻りパソコンを立ち上げる。『HappyBirthday』は無事アップロード出来た。反響も上々。

 太田の回復祝いも兼ねて数日でついに200ダウンロードを超えた。太田を祝福するコメントもついていた。ありがたい。

 数時間後、太田から電話がかかってくる。ネット回線云々で無事出来る様になったからID教えくれとの事だった。俺はIDを教えてフレンド登録する。

 早速通話する。マイク越しのせいか声が微妙に変わって聞こえる。それはお互い様だろう。その変わった声にお互い突っ込む。そして笑い合う。

 ひとしきり笑い合った後、次の曲について考える。曲調をどうするだのタイトルをどうするだのと。

 今度の曲はバレンタイン目指して『Sweet』というラブソングにする事にした。これもインストで作ろうという話で落ち着いた。

 お互いが曲を作り、それぞれのいいところをすりあわせて行く手法で作る。ジャンルとしてはジャズかR&Bというところになるだろう。そういう話で曲作りに入る。

初挑戦で困惑を隠しきれないジャンルだが、ムードを盛り上げる手法を学ぶのにはうってつけの機会だと思っている。

 話術ではクライマックス法と逆クライマックス法の2つがあり、それを習ってクライマックス法で作ろうという感じになった。

 序盤は緩めのテンポで後半に盛り上がるという王道の曲作りだ。とりあえずサックスのソロから入りピアノを加えていく。

 そうして骨組みを作り上げていく。2人の合作なので時間はギリギリバレンタインに間に合う様にしたいものだ。

 とりあえず太田の方針を聞くためにコールをしてみる。なるべく齟齬は少なめにしてすりあわせの作業を少なくしたい目的もある。

「お、栄太か。どうした?」

「今回の曲だけどどういう方針で行くつもりでいるん?」

「テーマがラブソングでジャズかR&Bなら、トロントロンに溶けたゆったりとしたリズムを刻みたいかな」

「なるほどな。俺も最初はローテンポで行くから後半少し上げてくれると助かる」

「あいよ。もう曲作りでは栄太の方が実績はあるからな。もう俺を追い越していった感じだな」

「まだまだだって。確かにリリースしたのは俺のが多いけど太田は事故で意識無かったんだからノーカンだろ」

「そういうもんかねぇ……」

「そういうもんだ」

「まぁ了解した。後半に盛り上げていけばいいんだな?」

「そうそう、分かってるじゃん」

「まぁ一応相方だし?」

「じゃあよろしく頼むぜ、相方」

 そこから少し雑談をして過ごす。やはり太田と喋っていると楽しい。こいつが相方でよかったとしみじみ感じる。

 やはり誰かと一緒に物作りはいいものだ。

 そんな事を考えつつ更に組み上げる。そうやって時間を使い、その後寝る。割と充実感のある疲労感を味わいながら。

 翌日、バイトに行きつつ曲の後半を考える。頭をひねって奇をてらうか、王道で行くか。この2択で迷っている。

 今までは王道のコード進行ばかりだったから何らかの奇をてらってみるか。果たして上手くいくのかどうなのか。そこが疑問であるが。

 バイトも終わり部屋に戻る。結局どう奇をてらうのかが分からない。最後のフレーズだけ曲調を変えてみるとか?

 もしくは裏打ちをしてそれと交代させてみるとか……。

 後者で行くか。サビのところだけリズムの裏打ちを始める。そして最後にフェードインフェードアウトで裏打ちと交代させる。これでリズムのテンポが変わりまた違った味わいを出せただろうか。

 太田の方はどうなのか昨日に引き続きコールする。

「おう、どうした?」

「一応曲は出来たんだけどさ」

「マジか? 早すぎるぞ」

「いや、俺って組み上げるまでは早いかもしれないが完成は遅い方だと思ってるぞ。だから太田の意見が聞きたくてな」

「なるほど。とりあえずそっちの音源を転送してくれ」

 曲を転送する。そして太田が聴き始める。

「ふむふむ。悪くはないと思うが最後がちょっと気になったな」

「最後はちょっと奇をてらって裏打ちと交代させてみたんだ」

「なるほど。いいと思うぞ。これインストだよな?」

「そうだな」

「うん、よく出来てる。このままリリースでもいいレベルだ」

「それじゃ俺のソロ曲になっちゃうだろー。太田の分も入れなきゃ」

「じゃあ俺の成分としてはもうちょっと音を詰めてみてくれ」

「そうか。普段音詰め込みすぎる傾向があるから抜き気味にしたんだが」

「そこの加減の難しさよ。とりあえず栄太はもうちょっと音を詰めてそれを俺成分としてリリースしてくれ」

「了解した。じゃあ出来次第リリースするからな」

「あいよ」

 それで通話は終わる。音を詰める……か。やってみよう。

 数日かけてちょうどいい感じになった。太田にもokを貰ってリリースする。なんとかバレンタインには間に合った。

 彼女が欲しいなぁなんて思いながら横になる。ポジティブに考えていこうとふと思いつきながら明日には忘れるんだろうなぁと感じながら意識を手放す。

 トプンと水に石が落ちて見えなくなる様に俺の意識はかき消えていった。


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