栄太の特訓
更に2ヶ月が過ぎ12月になった。サイトにアップロードしている曲も30曲を超え、いろいろなところで使われているようだ。
太田の意識はまだ戻らず。すっかり手足が細くなってしまっている。栄養剤の点滴だけで、もともとやせ形だったのが更にやせてガリガリになっている。
世間はクリスマスムードに包まれている。街の街路樹にはイルミネーションがきらびやかに輝いている。バイトに向かう時の吐息が白くなる。まぁもちろん寒さのせいだが。あと時々タバコ。ギターの腕も上達してきて『Block』は弾けるようになった。これはクリスマスにでも太田に弾き語りで聴かせたい。
太田の意識が戻るのはいつになるのかと思っているが、一方でこのままずっと戻らないのでは……、と考えてしまう。マイナス思考の自分が嫌になってくる。
今でも夏のあの日の事は悔やんでも悔やみきれない。俺が太田の家に行っていればこんなことにはならなかったのでは、と思う。
代われるのなら俺が代わりたかった。一種、自己犠牲願望まで芽生えてきた。ただこれは仕方のないこと。未来は誰にも予想できない。人生一寸先は闇とはよく言ったものだ。ただ不幸な事には変わりないが。
タバコの吸い殻の山を作りつつ曲を作る。今回作るのは季節もののクリスマスソングだ。いろいろな曲を聴いて勉強する。
夜、タバコが切れたのでコンビニへと買いに行く。流石に休日までバイト先のコンビニまで行く気はしないので一番近いコンビニに行く。空気が冷たい。ただこの澄み切った空気は嫌いじゃない。冬が一番好きだ。
食事をしてない事に腹の鳴る音で気付く。コンビニでタバコとパンと飲み物を買って出る。徒歩圏内なので徒歩で戻る。最近は歩きタバコ云々がうるさいが誰も居ないので普通に吸ってしまう。ボーッと考え事をしながら吸うタバコは時々閃きを与えてくれる。しかし天啓は振ってこなかった。
「あー寒い!」
俺は部屋に戻りまたクリスマスの曲をネットの広大な海で探す。そうやって拾い集めて着想を得て構築していく。小さなことからコツコツと。これが大事だと今までの経験から分かっている。大変だが古今東西いろいろな曲に触れられるというのも曲作りの醍醐味だ。特にデスクトップミュージックは。
そういえば今月は太田の誕生日だった。確か15日だ。あと1週間足らずで何が出来るだろう。やはり弾き語りだろうか。そう考えながらギターを手に取る。そして弦の張り替えなんかの手入れをする。
そんな事をしていたら先ほどから比べて遅れてだが天啓が降りた。『Block』のクリスマスバージョンとかにアレンジしたらどうだろう。これはいい案だと自分で思う。
早速アレンジに取りかかる。この曲を聴くのもしばらくぶりだ。特別な曲ではあるが、同時に寂しさを覚える。太田と歌った最初で最後の曲にならないように念じる。
「クリスマスアレンジだったらベルの音必要だよなぁ……」
独りで呟く。音源を買い足さないと無いかもしれない。一応手持ちの音源を総ざらいしてみる。
結果、クリスマスのサンタが乗るソリについてるようなベルの音は無かった。新たに買い足さないと。バイトの給料は生活費と音楽に使っている。あと貯金。部屋も防音加工された部屋に引っ越したいからだ。そうすればボーカル曲も気軽に作れる。果たしてボーカル曲が望まれているかは別問題だが。
タバコを吸いつつ曲を構築していく。この徐々に出来上がっていく行程が楽しい。ただ熱を入れて音を詰め込みすぎないようにしないといけない。そこの加減が難しい。
『Block』はボーカル曲だったがアレンジはインストでいいだろう。ただ、太田に聴かせる時だけは弾き語りで今の感情を伝えようと思う。太田限定のプレミアムバージョンだ。
やる気が出てきたがあくまで冷静に。そこを徹底する。アレンジを進めつつ歌詞も考える。今、俺がどんな気持ちでこの曲をアレンジしているか、太田に早く回復して欲しいという願い、『FreeMusic』名義でいろいろやってる事の報告。伝えたい事は山ほどある。
ただ……返事が欲しい。意識が戻ってまた2人で馬鹿やって曲作ってサイトにアップロードして……。欲張りなのかなと自分でも思う。でも願わずにはいられない。
そんな事を考えながら横になる。今日は特に冷える。毛布に身をくるめて寝る事にする。




