勇気を出して
どうも、2作目になります。
爽やか青春モノを書いてみたくなって書いてみました。
しばらくお付き合いお願いします。
それはある暑い日の出来事、茶飯事の様なそうでないような。
「なぁ栄太、バンドやらない?」
太田は突然俺に向かってそんな言葉を投げかけた。それは本当に突然で何の脈絡もなかった。
「はぁ? 本気で言ってるの?」
「マジマジ! 2人で曲作ったりとかさ。やってみたくない?」
音楽は好きだが作ってみようと思った事はなかった。それに音楽の知識なんて学校で覚えたレベルで、そんな事が可能なのか?俺の心は大きく揺らいだ。学生時代が終わり、就職もせずにフラフラとフリーター生活をしていて、将来という言葉は今の自分の心をチクチクと刺激している。小学生の頃の夢はなんだったか。今は遠い昔の事の様で思い出そうとしても霞がかかった様に思い出せない。
そんな現状を打ち破る様な、唐突な誘いだった。
「でも俺、楽器とか出来ないぜ?」
俺は太田に言う。学校で習ったのはリコーダーとかピアニカなんて物だった。まぁ彼等も立派な楽器ではあるが。しかし使いこなせないし楽譜だって読めない。五線譜を見ていると頭が痛くなる。
「大丈夫だろ。音は俺が用意するからお前は歌詞を作ってくれよ」
太田は事も無げに言った。太田は楽器……例えばギターとかベースとかドラムなんて高尚な物を扱えるのだろうか。
同じバイト先の同僚でウマが合った太田はそんな特技も持っていたのかと感心した。
「何が弾けるのさ? ギター? ベース?」
「いやいや、今はパソコンあれば曲が作れるんだぞ?デスクトップミュージックって奴だけどな」
「なんだそれ。実際に楽器は扱わないで曲が作れるって事か?」
「そうだよ。簡単に言えば楽譜に音を直接打ち込んでいくって感じかな。多分そっちの方が頭に浮かぶだろ?」
確かに。しかし俺に歌詞を書けと太田は言ってのけたのだ。
「まぁ曲は作れるとして、だ。俺に歌詞を書けだって? 俺そんな難しい事出来ないぞ。大学のレポートでヒィヒィ言ってたぞ?文才あればそんな事ないだろ?」
「いや、それは別問題だろ。つーか、その例えはどうなのよ?歌詞はフィーリングでいいよ。それなら文才あんまり関係無さそうに聞こえるだろ?」
また確かに。太田は話が上手いのか? こいつが歌詞も書いてくれればいいと思ったが流石にそれは怠慢だろうと口から出かけた一言を飲み込んだ。
しかし上手くいくのだろうか? 俺の心は揺れていた。試しに作ってみてボロボロだったら悲惨で立ち直れそうもない。何より太田とギクシャクしてしまうかもしれない。それは嫌だ。俺の中の弱気な部分が囁く。
「どうせボロボロになって傷つくだけだよ。太田とも上手くいかないかもしれない。それならやめた方がいいんじゃない?動かなければ無駄に傷を作る事もないでしょ?」
弱気な自分に辟易する。この性格のせいで将来の夢という言葉が見えないのかもしれない。
ただ、この弱気な性格は時に優しく俺を慰めて、危ない事から逃げる事を許容してくれている。だから今の俺がある。
改めて自分の状況を確認する。フリーター生活で未だに目標という物も見えない。いつか行動を起こさないと、と考えていた。ただそれは弱気な俺によって先に先にとズレていった。もしかしたらこのまま先に先にとしていたら……どんな将来が待っているか分からないが、それは決して楽しいって事は無いだろう。
なら……行動を起こすなら……。
「上手くいかないかもしれないぞ? 俺はそのせいで太田とギクシャクしちゃうのは嫌なんだ。折角今はウマが合ってるのに、とか考えてる。弱気なのは分かってるんだよ。でも行動を起こさないと、折角誘ってくれた太田に申し訳ないと思うんだ。だから……」
太田は真剣な眼差しでこちらを見ている。
「だから?」
「やってみよう。上手くいくかなんてやってみなきゃ分からないしな」
太田の顔が綻んだ。きっと太田も俺に断られるんじゃ、と不安だった……と思いたい。一方的に弱気だったんじゃ格好が悪い、と心の中で苦笑する。
「そうこないとな! 流石俺が見込んだだけあるぜ」
太田は笑う。本当は不安だったんだよな、と勝手に決めつける事にした。
「でも2人ならバンドじゃなくてユニットじゃないか?」
「あ、そうだな。名前も決めないとなぁ。栄太なんかいい名前ある?」
「ないな。とりあえず作ってからそれっぽい名前付ければいいんじゃないか?」
そうして、東京の片隅、日暮里の小さなバイト先の休憩室の更に片隅にある喫煙室で1つのユニットが結成された。
今回はここまでです。
書き上がったらすぐに投稿していけたらいいなと思っております。
また近い日にお目にかかれるのを楽しみにしております。