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結末は・・・(前編)

長くなりましたので、前後編に分けました。

 ベルリアとのお茶会の後、しばらくして王妃の誕生パーティーが開催されることになった。


 ゲームの確定イベントでは、”国王の誕生パーティー”があった。ゲームでは、社交界デビューしてから半年後に発生して、この時にヒロインが恋人を決定するのだ。

 恋人が王子のどちらかなら、このパーティーで婚約が発表される。


 今回も時期がずれているし、”王妃”の誕生パーティーだ。ゲームとは違うイベントなのかもしれない。

 だが、このパーティーは必ずマリアもベルリアも出席する。私は緊張しながらパーティーに挑んだ。

 



 王妃の誕生パーティーだから、当日は結構な客が集って、王宮はずいぶん賑わっている。

 大広間のドアはすべて開け放たれ、国王夫妻はまだだが、王子二人は王族の席についていた。ハインリヒは見当たらなかったが、二人のそばにはマリアがいた。

 園遊会以来、あまり噂を聞かなかったが、着実に好感度を上げているのだろう、マリアは何やら楽しそうに王子達と話している。


 「マリア嬢は、王子様方にべったりね。」

 「お美しい方ですものね。」

 「でも彼女、最近グスタフ様の研究室にも入り浸っているって噂よ?」


 貴婦人たちの噂話を小耳はさみながら、私はベルリアを探してあたりを見渡した。

 さすがに今日はベルリアも出席せざるを得ないから、どこかに必ずいるはずだ。


 大広間と続きの間になっている小広間には、大きなバルコニーがいくつもあり、その一つのカーテンの陰に隠れるようにしているベルリアに気がついた。そばには誰もおらず、ベルリア一人だ。

 私は彼女に近づいていった。


 「ベル・・・!」

 声をかけようとしたとき、誰かにいきなり腕をつかまれて、ベルリアと対面にあるカーテンの陰に引っ張り込まれた。


 「!アルブレヒト様・・・」


 アルブレヒトが壁ドンして私を腕の中に囲い込んでいる。熱く感じるアルブレヒトの目を見て、頬が染まる。

 

 「誰を探していたんだ?俺が大広間にいたこと、気づいていただろう?」


 顔を近づけ、耳元で囁くように言われ、また私の体がぞくぞくとしてくる。しかも、今まで以上に甘ったるく聞こえる声は、私の脳髄を刺激してたまらない。

 真っ赤になって、厚い胸板を押し返そうとするが、力が入っていないことは自分でもわかった。


 「アルブレヒト様、困ります。」

 「俺の声が好きなんだろう?近くで聞かせてやりたいんだ。」


 そういって、身体を密着させ、耳を甘噛みする。


 そんなことされたら、感じてしまう!!


 そう思った瞬間、思いかけず声が漏れてしまった。

「ん・・・ふ、・・・あぁん。」


 自分でも驚くほど甘い声だったので、混乱してしまう。何とか離れようともがいていると、彼の肩越しに、目を丸くしてこっちを見ているベルリアと目が合った。

 わたわたと身振り手振りで困っていると伝えたかったが、そうする前にベルリアに近づいてきた人がいる。


 「・・・ハインリヒ様・・・」


 ハインリヒがカーテンの陰にいたベルリアに話しかけていた。

 

 「お前が探していたのは、ハインリヒか?」


 アルブレヒトは私の視線に気づくと、後ろを振り返り、ハインリヒがベルリアをバルコニーへと誘うのを見て低い声で言う。


 「え?」


 聞いたことがないくらい冷たい声。なぜかアルブレヒトは怖い顔をしている。


 「お前は、ハインリヒが好きなのか?」

 「・・・!あ・・・ぁ・・ん。」

 

 言いながら、耳元をくすぐるように唇を近づけるので、また声が漏れる。

 

 「あいつはモルディラント公爵令嬢が好きなんだ。見ただろう?あいつは今夜、モルディラント公爵令嬢に告白するんだぞ。」

 「ええ?」


 私が驚いて唖然としていたら、ゆっくり彼の顔が近づいてきた。柔らかく唇が重なる。


 え?


 何が起こったか、頭がついてきていない。

 私が呆けたままでアルブレヒトを見つめていると、彼は照れたような顔をして、再び唇を寄せてくる。


 「!・・・ま、待って。待って。」


 手を突っ張り、顔を背けてキスされるのを防ぐ。


 「なぜ?どうして私にキスするの?・・・私はマリアじゃないのよ?」

 「なぜここでハインリヒの従妹の名前が出る?」


 アルブレヒトがきょとんとして、首を傾げる。


 「あの女に何か言われたのか?」


 え?と思ったとき、誰かがアルブレヒトの腕を引っ張った。


 「アルブレヒト様ぁ。探しましたよー。」


 甘えるような声でそういうのはマリアだった。

 腕を引かれ、体の向きが変わると、アルブレヒトとカーテンの陰に隠れていた私の姿もさらされる。


 「あなた!!ここで何しているのよ!!」


 マリアの金切り声に、その場にいた人たちの目が集まる。一瞬しんとしたが、アルブレヒトの目くばせで、人々はまた歓談し始めた。が、耳はこちらを注目していることはよく分かった。


 「アルブレヒト様、そんな人はほっといて、私と大広間へ戻りましょう。もうすぐパーティーも始まりますわ。」


 マリアが取り繕うような笑顔で、再びアルブレヒトの腕を引っ張った。だが、アルブレヒトはやんわり彼女の腕をはずすと、私の肩を抱いた。


 「なぜ、俺がお前と共に行かねばならない?」

 「え?・・・だって・・・。」


 マリアは当たり前なのに、何を言っているのかというような顔をする。


 「だれか、グスタフを呼んで来い。・・・それに、ハインリヒ!」


 アルブレヒトが言うと、近くにいた小姓がすぐに動いた。そして、いつの間に中に入っていたのか、ハインリヒが近くに立っている。その後ろに、ベルリアが控えるようにそばにいるのに気付き、マリアの鋭い声が響いた。


 「なんであなたがお兄様と一緒にいるのよ!」

 「マリア、失礼だぞ!」

 ハインリヒがマリアに近づいて注意する。


 「マリア・ヒンデル嬢。お前は、騎士の娘なのにモルディラント公爵令嬢やカストラル伯爵令嬢に対して、ずいぶんな口の利き方だな?」


 静かにいうアルブレヒトの言葉の意味を、マリアは理解していない。彼女は、ありえない言葉を放った。


 「当たり前です!その人たちは悪役令嬢で脇役なのに、ヒロインである私を差し置いて、アルブレヒトやハインリヒと仲良くしているなんて!」


 マリア、あなた・・・ここでなんてこと言うの!?


 私は、血の気が引いた。ベルリアも同様に青い顔をしている。

 周りもしんとして、全員がこちらを注視している。嘲笑や憐憫のまなざしを向ける者もいる。

 当たり前だろう、”悪役令嬢”だの”脇役”だの”ヒロイン”だの、彼らには意味がわからないことだ。

 隣でアルブレヒトが大きなため息をつく。


 「ハインリヒ。聞いてはいたが、すさまじいな・・・。」

 「誠にお恥ずかしい限りです。」


 ハインリヒが恐縮するように頭を下げる。そこへ小姓に呼ばれたグスタフがやってきた。騒ぎを聞きつけたのか、リチャードの姿もある。


 「さあ、マリア。無礼をお詫びして、今日は帰ろう。」


 ハインリヒがマリアの肩を抱いて促した。


 「お兄様?どうして?私は帰りません。今日こそはアルブレヒト様と踊って、イベントを起こさなくては・・・。」

 「マリア!妄想もたいがいにしなさい。」


 ハインリヒの声に、マリアがびくりとした。


 「グスタフ。マリア嬢は病気のようだ。ベーゼル侯爵家縁のものゆえ、医局で面倒を見てくれるか?」


 アルブレヒトが言うと、グスタフが黙って礼をする。

  

 「グスタフ!」

 マリアが彼に気づいて傍に駆け寄った。

 

 「ねえ、あなたにもらったアイテムを飲ませたのに、どういうこと?ちっとも効いてないじゃない!」


 惚れ薬アイテム飲ませたのー?でも、そんなこと、ここで言っちゃあだめじゃない!!


 私はますます青ざめる。


 マリアに詰め寄られ、ローブを引っ張られると、グスタフの水色の髪と困った表情が現れた。


 「マリア、前にも言ったが、君の言う薬は作れないんだよ。」

 「どういうことよ!あなた、国一番のお医者様でしょう?作れない薬があるわけないじゃない!」

 「・・・媚薬とか、性的興奮剤なら作れるが、惚れ薬なんて、人の心を左右するような薬は、空想の世界にしか存在しないんだよ。」

 「なんですって?じゃあ、あなたが私に渡した薬って何なのよ!?」

 「・・・ビタミン剤だよ。誰に飲ませても、さほど影響のないもの・・・。」


 グスタフの言葉に、マリアがあっけにとられたように口をあける。


 ”惚れ薬”は空想の世界のもの————。そりゃそうか、現存したらやばいわよね。


 「マリア嬢。あなたが言うように、グスタフは国一番の医者だ。国王陛下を診察するほどのね。そんな男が、ひそかに怪しげな薬を作ったり、譲渡したりできると思うのか?君は気づいてなかったかもしれないが、グスタフには常に護衛兼監視がついているのだよ。」

 優しく諭すように、リチャードが声をかけた。


 「リチャード・・・?・・・え?」


 マリアはわけがわからないというような表情をした。


 「ハインリヒから、報告は受けていたが、これほどひどい妄想癖があるとは・・・。」

 リチャードは、あきれたような眼で彼女を見る。


 ”妄想癖”と聞いて、周りも彼女の言動のおかしさに納得したようだ。ますます憐れむような眼で見られ、マリアは顔を赤くしていく。


 「マリア・ヒンデル嬢。今まではベーゼル侯爵の姪で、忠臣ハインリヒの従妹だから、君の空想つくりばなしも、ときどき無礼に思える態度も多めに見てきたが、他の貴族令嬢にも迷惑をかけるようなら、話は別だ。王宮の医局へ入院してもらおう。グスタフ。お前は優秀な医者だ。彼女の治療に専念してくれるか?」

 「かしこまりました。」


 リチャードの言葉に、グスタフが深々と礼をするが、マリアは青ざめる。


 「ちょっと、どういうこと?医局へ入院って・・・!そんな・・・!」


 わめき、暴れるマリアを、グスタフとハインリヒは両脇から支え、引きずるように彼女を広間から連れ出していく。


 私とベルリアは黙って彼女を見送るしかない。


 マリア達の姿が見えなくなると、招待客たちは元通り歓談を始める。————今の騒ぎがなかったように。


 「ベルリア様・・・!」


 アルブレヒトから離れ、ベルリアの傍へ行くと、彼女はほっとしたように私を見つめ、小さな声で言った。


 「リリアーナ様のおっしゃったとおりでしたわね・・・。」


 「ええ。マリア嬢には気の毒だけど、これでよかったんですわ。」


 マリアは、最後までここは「王宮恋物語~真実の恋を求めて~」の世界で、自分ヒロインの望む通りに人生が進んでいくと思いこんでいたのだろう。


 年齢制限守って、プレイしていたんでしょう?


 そう思うとどこか悲しい。ここまで幼稚な考え方していると気づいていれば、あの園遊会の時、もっと強く注意できたのに・・・。


 ゲームには、バッドエンドがあったでしょう!と。


 そう、これはグスタフのバッドエンド。マリアは医局に入院したまま、ずっとグスタフと一緒にいることになるだろう。


 「何の話だ?モルディラント公爵令嬢も、マリアに何か言われていたのか?」


 いきなりアルブレヒトが後ろから私を抱きしめてきて、話に割り込んだ。


 し、心臓に悪いー!!


 私の顔は真っ赤になり、ベルリアはびっくりしている。


 「マリアの妄想癖は、彼女のデビュー前からハインリヒに聞いていて知っていたんだが、夢見がちな女の子のたわごとと思って聞き流していたのが悪かった。」


 私の後ろから、アルブレヒトが言うと、リチャードもそばに近寄ってきた。


 「私たちの対処が遅くなって、君たちに迷惑をかけて申し訳ないことをした。許して欲しい。」


 そういって、リチャードはベルリアの手を取って、彼女を見つめる。


 ”君たち”と言っているが、リチャードは全く私を見ていない。


 ん???


 と思っていると、アルブレヒトがそっとその場を離れていこうとする。


 「あの、・・・アルブレヒト様・・・?」

 「しい。静かに。いいから。お前は、ちょっとこっちにこい。」


 見つめあっているリチャードとベルリアに気づかれないように、アルブレヒトは私の肩を抱きながら、二人から離れたバルコニーへと連れて行った。



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