起きた
初投稿です。よろしくお願いします。
重たい瞼をゆっくりと開く。
目に入ってきた空はいつも通り、赤黒い色を吸った雲でおおわれている。汚染された大気に地上の火が映っているのだと聞いたことがある。
視線を下に動かして地面を見てみると、やはりいつもどおりタールと泥水の混じった七色の水たまり。植物は一切なく、ところどころ草のように風に揺れているのは不燃性のカーボン繊維の布である。
鉄筋造りの建物はどれもが半壊、もしくは全壊していて、人が営んでいる様子はない。
「――ここは…」
まだ少し頭が朦朧としている。一度、頭の中を整理してみる。
自分は誰だ。
名前はキズナ。性別は男。年齢は15…これくらいは分かる。周りからは東洋系の整った顔をしていると言われたことがある気がする。
ではなぜ自分は屋外に出ていて、汚れた地面に横たわっているのか。
分からない。記憶にない。
直前の記憶にあるのは窓のない部屋。血しぶき。切断された腕。振り下ろされる短剣。少女の絶叫。
そこがどこだったのか。誰の血か。腕か。剣か。絶叫か。
そのどれもが分からない。
だが、どれも蝋燭の灯る屋内の映像だ。少なくとも防毒マスクも無しに外に出たという記憶は微塵も、ない。
違和感。
自分は今防毒マスク無しに猛毒の瘴気と腐臭漂う荒野に寝そべっている。視界には空が、大地が広がっているのだ。間違いはない。
ならばなぜ。背に湿気の感覚はないのか。
ならばなぜ。嗅覚は不快を訴えないのか。
ならばなぜ。毒気に当てられ死亡していないのか。
なぜ、なぜ、なぜ、なぜ。
「そうか」
全ての疑問に対する解答が、少年の頭に浮かんだ。
そこでようやく上体を起こした。答え合わせをするために。
黒い水たまりに映る顔は見知った顔だ。使い古した雑巾のような半袖のシャツからは、雑事に鍛えられた右腕。左腕は肘から先が欠損していて、それを補うかのように30cmほどの片刃の剣が埋め込まれている。
戦闘人形。
死後の人間を素体として人形師が改造を加えて作り出す人形。感覚がなく、汚染された大気中でも自由に活動ができる。そこに注目した軍部が人形師に依頼をしたのだ。
――戦うための人形を作って欲しい、と。
以来、国と国の戦争は人形同士の代理戦争に変わった。人形が無感情に、設定された破壊対象に攻撃する。
自分は、死んで、人形にされてしまったのだ。
「…あれ、じゃあ何で――」
そこまで思考したところで、それの耳が人間の悲鳴をとらえた。
考えていても答えなんかきっと出ない。
仕方ない、お節介を焼きにいきますか、と。それは人間の形状を残した右腕を杖に立ち上がり、悲鳴が聞こえた方へ走り出した。
初心者なので、アドバイスなどあればぜひ、よろしくお願いします。