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~substandard~【Ⅲ】

 基本的には、亜獣には普通の攻撃も有効である。しかし、それは相手が普通の化け物であった場合だ。人の体の10倍は太い木々さえも上回る体躯。そしてなにより、そんな体を支える筋肉や骨。ここがネックだ。




 突然変異でも無い限り巨大生物が地上に現れないのは、何より自分の重さに耐えられないから、というのがある。本当に刃を通さないほどに皮膚が固いのであれば、その生物は全身に鉄板を張り付けているのと同じで、まず動けない。このように、巨大生物というのは多くの場合、身体の構造に自家撞着(じかどうちゃく)を抱えている。しかし、それらを可能にしてみせたのがSUB-standardだ。




(あのクソ蛇の場合、筋肉よりも皮膚のほうが脅威だ。あんだけ巨大な身体を動かすには、かなりの筋肉が要る。その筋肉で身体を捻って進んでいる以上、身体の体積は常に大幅な変動を繰り返しているはずだ。それに耐えられる柔軟性がある)

 さらに、と、ガルドは木から降りながら状況を整理する。

(ただ柔らかいのではなく、あの重圧下で摩擦され続けても平気という厚さと堅さ、粘着性も兼ねている。これを刃でどうにかするのは不可能だ。だが、皮膚を越えなければ攻撃は届かない)

 ならばどうするかを思索しながら、高さの折りを見たガルドは木から飛び降りる。




 腐葉土のクッションに着地して、刺さった脚を蹴り上げる。そして、さっきと同じように爆魔石を取り出した。




(こいつをやつの体内から破裂させる必要がある。そうすれば皮膚を無視して、尚且つ効率的に、全ての衝撃をダメージに出来る)

 そこまではすぐに思い付いたが、しかし、そこで思考は止まった。どうやって、爆魔石を亜獣の体内で破裂させればいいかが解らなかったからだ。




(俺ごと中に入って、俺が爆魔石に衝撃を与えるか? いや、獲物を丸呑みにしてから体内で絞め殺す蛇の咽の力は尋常じゃない。やつの咽より先へ入る頃には、俺がとっくにくたばってる)

 そこまで熟考(じゅくこう)したガルドはしかし、そこでかぶりを降って、脳内をリセットした。



(必要なのは時間稼ぎだ。倒す事じゃねぇ)

 自分のやるべきことを思い返して、爆魔石のひとつを水筒の中に入れた。亜獣を呼びつけるためだ。




 少し離れた木へと鉄筒を投げ、身を屈めて耳を塞ぐ。その行程に意味があるのかと疑いたくなるような衝撃と音がガルドの四肢と鼓膜を揺らす。10秒ほどして音の縮小を確認してから、ゆっくりと耳から手を離して立ち上がった。




 だが、今回は隠れず、かつ氷魔石の擬態も無い。つまり、見つかるために亜獣を呼んだのである。あの亜獣が、間違えても巣へ戻らないようにするために。




 ズズ




 草木を折る音。




 ズズ




 大地を滑る音。




 ズザザ




 まるで何もかもを吸い込むブラックホールが近付いてきているのでは無いか。そう思わせるほどに何もかもを巻き込みながら、蛇がこちらへ来る気配がする。既にどちらから来るかは解った。あと何秒で姿を表すかも見当がつく。




 ――3秒だ。




 ガルドは宵闇のような暗がりへ目をこらす。草木の邪魔もあり、視界は最悪。唯一の救いは、相手が白いというところだろう。




 ――2秒。




 神経を研ぎ澄ませる。蛇が迫る音のせいで、ガルドは自分が1歩後退り、小枝を踏んだ事に気付けなかった。足元の音さえも掻き消す音になるほど、大量の木々を巻き込みながら近付いている。もはや雪崩か土砂崩れだ。




 ――1秒。




 黒の中で、何かが(うごめ)くのが見えた。蛇の裸は闇さえも反射し、怪しく、妖しく、危しく光り、そして――







 0








 その瞬間に、ガルドは沈黙と瞬間的な停止を幻覚した。




 蛇は既に大口を開けており、ガルドが皿の上の魚であるかのように飛び付いている。





 予想よりも遥かに速い。今更回避行動も間に合わないし、蛇が出現の間際、豪快にへし折った木――回りの木よりも比較的細く、爆魔石で削っていたため弱っていたのだろう――が落下する音のせいで、その振動のせいで足元が覚束(おぼつか)ない。




 もちろん、へし折れた木は上層で隣接の木と絡まっているため、倒れては来ない。その心配など初めからしていない。していなかったからこそ、その光景に一瞬見とれた。





 蛇のブレスに髪が揺れる距離。そこからガルドは動き出す。




 開脚しつつ地面をえぐり、身を屈めつつ腐葉土をどかす。地面は簡単に脚が刺さるほど柔らかいのだ。穴を掘るのは容易だった。




 背中に蛇の身体の重さを感じたが、逆にそれがガルドを埋める。埋まった身体はそれ以上に潰されない。あとは、ガルドの上に乗っている亜獣が通り過ぎるまで窒息しないように気を付けるだけだ。




 目を閉じて耐えるしか出来ない時間に、状況を整理する。と言っても、新しく解った事は、巨大蛇の犬歯とガルドの体長が2:1のバランスだということか。




 ふと、背中にあった重さが消えた。蛇が通り過ぎたのではなく、軌道を変えたのだろう。また潰される前に、と、ガルドはすぐさま立ち上がり、泥にまみれて重くなった身体を転がすようにして状況から抜け出す。




 立ち上がった先に、視界を覆うほどの巨大な皮膚があり、高速で移動している。




 ガルドはひとつ深呼吸し、天を仰ぐ。




 巨大蛇との戦闘、開始だ。

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