スイーツセット
私、鈴木 華子は今混乱している。
今日は学校帰りにアルバイトの面接をしに、ここ[Bouquet di rose]に来たのだが、予想外の展開だどうしよう。
「あのー」
密かにお気に入りのお店、特に紅茶や珈琲と月替りのスイーツセットが大好きで、先月の濃厚ショコラテリーヌとヨーロピアンのカフェラテは最高だった…
「えっと、聞いてます?もしもし?」
洋酒漂うカカオ度数高めのテリーヌと、深め苦目なのが特徴のヨーロピアンにサッパリめのミルクで仕上げたカフェラテがが相性抜群で…
「…聞いてないな、というよりも…」
そんなお気に入りの店で働けたらと求人の張り紙を店で見て、思い切って門を叩いたのに。
面接日で体調を崩すなんて、私のバカん!
「えっとですね、鈴木華子さん?」
「ふぁい!じゃなくてハイ!た、大変失礼いたしました。」
「いえいえ、 視点が合わず《・・・・・》びっくりしましたよ。」
「ほ、本当に申し訳ございません!」
視点が合わなかったのは、貴方のその頭にべったり張り付いている紅いトカゲに目線を合わせてました、とは言えない。
と、いうよりも何故トカゲ?え、此処ってペットオーケーだっけ?
頭がぐるぐるな中面接は進んでいく。
「では鈴木さんはキッチンスタッフの方を希望という訳ですね?」
「は、はい!将来は調理系の仕事に着きたいと考えておりますので!」
「この店を選びました切っ掛けは?」
「私は此処のお店のファンでして、好きなお店で働けたらと…」
面接内容は至って普通。(頭にトカゲさえなければ。)そして…
「はい、これで面接は終了とさせていただきます。結果は一週間後にてお電話させていただきます。」
「あ、りがとうございました!」
無事面接終了!よかった!結果はわからずだけど、精神的には第一関門突破だせ!
と、思った瞬間。
「ああ、鈴木さん。ちなみに私の頭の上のトカゲに気づいてましたよね?この子、他の人には見えない子ですから。」
「ふえ?」
「ふふふ、又逢える日を楽しみにしてます。」
面接官を勤めた彦志郎は楽しげに華子を見て帰りのドアを開けていた。
彦志郎の言った意味が飲み込めないまま、華子はドアをくぐり抜け、少々虚ろな気持ちのまま帰路に歩いて行った。
その後ろ姿を月花が厳しい目で見られていることも知らずに。
「なかなか可愛らしい”種”なのでは?」
彦志郎は紅いトカゲ… 火吹き竜 の眉間辺りを撫でながら尋ねた。
「よく見る常連客のお一人です。よくセットデサートや、アフタヌーンティーセットなどをご注文頂きますよ。時折食器や小物にも敏感なお方です。」
「……」
「しかし、考えすぎでは?確かに近年で店の中にある”媒体達”が反応したのは彼女だけではありますが、今の”目”も近くにこの子が刺激したからなのでは?」
「…どちらにしても、彼女は合格。まずは皿や道具洗いから。後に仕込みとハーブの手入れまで。」
「…了解です。」
どちらでもいい、私にとってはこの店の小さな歯車として、回るのか回らないのかでしかなく、媒体で有ろうがなかろうが決めるのは私ではない。だが…
「銀時計が動き出した。」
秒針は時を刻む。彼女は何を運ぶのか?
「オーナーシェフ、新作のフレーバーティーの試飲をよろしくお願いします。」
彦志郎が持ってきたウェッジウッドのティーカップを受け取る。漂う香りにサラマンダーがうっとりと深呼吸をした。
当店オリジナルレディグレイはセイロンをベースにし、自家製の柑橘系フレーバーを着けている。
前はマンダリンの香りが濃すぎた。その前はレモンが効いてい無いのにも関わらず、酸味を感じる大失態。さて次は?