第2話
第1話あげてさっそくお気に入り4件!本当にありがとうございます!
「今日の1時間目の授業ってなんだっけ?」
金髪を短く刈りあげた人懐っこい顔の少年ベルナルドは親友のスフィアードに話しかける。
「今日は確か午前中は対人模擬戦闘じゃなかったっけ?」
「おお!腕が鳴るねえ!確か後輩たちも見学に来るんだっけか?」
この学院ではよく後輩に高学年の授業風景を見学させる。高学年ともなれば個人の技術もかなりのものとなり、学院内クエストも7年生から受けることができるようになる。そのため今回の対人模擬戦闘の授業などは相当高レベルなものとなり下級生にとっては格好の教材であるのだ。
「今日も一緒に組もうぜ」
ベルナルドはニヤッと笑ってスフィアードを見る。スフィアードもニヤッと笑い返して答える。
「ああ、楽しみだな!」
「じゃあ、これから対人模擬戦闘の授業を始める」
茶髪を短く刈りあげたボード先生が10年生の生徒をぐるっと見渡す。
「今日は後輩たちも見に来てるからなー。先輩らしいところを見せろよー」
その言葉に10年生たちにも心なしか気合いが増したようだった。
生徒たちはグラウンドに集まっている。この学校のグラウンドは大きく3つの部分に分かれている。まず土でできている「平地」。ここが基本的には最も動きやすいとされている場所だ。次に「岩場」。ここは割と大きめの岩がその辺にゴロゴロと転がっている。岩の上は足場が悪く滑りやすい上にケガにつながりやすいため、苦手にしている者が多い。最後に「森」である。これは町の外の本物の森林と違ってモンスターと遭遇するようなことはないが、将来最も戦闘を行うことの多い地形であるため重要視されている。
今回使うのは「平地」だ。最も特徴がなく戦いやすいと言われている地形ではあるが、それは相手も同じ条件であるし、また小細工が効きにくいため正攻法しか使えないというデメリットもある。
さらに、グラウンドでは特殊で大掛かりな結界がはられており、それによって肉体的なダメージはかなり軽減される。基本的に一撃で命の危険がある、などということはない。
「じゃあさっそく始めるぞ。試合しているやつ以外は端のほうでアップしておけよ」
各々が戦闘に向け、各自の武器をチェックしている。この武器というものは学院に登録してさえいればどのようなものでもいい。力自慢の者は斧や大剣をなど、逆に早さを求めるものは短剣や双剣を、はたまたあるものは魔法主体で戦うために「媒体」「依り代」などと呼ばれる道具を用いたりするなど、千差万別である。
ベルナルドの使う武器は槍だ。入学当時から槍を使うことに決めていたというほど、彼の槍に対する思いは強い。
それに対し、スフィアードの得物はかなり変わっていて、何と体の半分ほども覆えるほどの大盾とガントレットである。盾を登録している者はそう少なくないが、ガントレットを武器として登録しているのは彼くらいである。実は彼がガントレットを武器として登録するとき、ガントレットは武器ではなく防具ではないのか、という問題が取り沙汰されたのだが、それはまた別の話である。
ベルナルドたちの番が回ってきた。ベルナルドとスフィアードの声が呼ばれるとアップをしていた生徒たちも手を止め2人に注目する。
「よっしゃ、全力で行くからな?」
両頬を軽く両手でパン、と叩くとベルナルドは試合の舞台へと足を進める。それに続いてスフィアードも表情を引き締め言葉を返す。
「OK。僕もどこまで体が動いてくれるかな?」
「よく言うぜ、この種目に負けたことないくせに」
2人は軽く笑い合うと、試合場の中央で握手を交わす。始まるときと終わるときの握手はこの種目の礼儀作法の1つである。
手を離し、2人はゆっくりとたがいに背を向け歩きだす。そしてその距離が5mほどになったところで再び向き合う。両者は互いに動きを止め、戦闘開始の合図を待つ。
「では、始め!」
勝負の時が、来る。
まず最初に仕掛けたのはベルナルドだった。この種目でスフィアードに先手を取られるということは、すなわち負けに等しい。そのことをベルナルドは何度も身をもって体感していた。
一気に間合いを詰め、3mほどの距離で止まる。彼の持つ槍の最も得意とする距離。まず彼は素早く小さい突きを放つ。
ギンっ、という大きな音を立ててスフィアードの大盾がそれを防ぐ。しかしベルナルドも防がれることは予想済みである。今度は少し大きめにスフィアードの足元を狙う。盾の弱点は足元、セオリー道理である。
しかしスフィアードはそれも鮮やかなバックステップでかわす。
――――相当重量のある大盾を持っているのに、相変わらずずいぶん軽い動きじゃねえか・・・!
やはり一筋縄ではいけない。ベルナルドは今度は少し下がって間合いを取る。
その時、ベルナルドの顔面めがけて何かが飛んできた。
――――クソっ!しまった!
飛んできたもの、それはスフィアードの投擲したカードだった。回転しながら飛んできたカードが、ベルナルドの前で一瞬止まる。
「うおっ!あぶね!」
ベルナルドは後方に向けて回転しながら回避を行う。次の瞬間、一瞬静止していたカードから赤く透明がかった色の空間が飛び出す。三角錐を底面を中心に向けいくつもつなげたろうな空間がベルナルドをかすめる。
この攻撃こそがスフィアードの「結界魔法」である。依り代を核として様々な結界を生み出すこの魔法。今スフィアードが使ったのはその中でも「拒絶型結界」と呼ばれるもので、この場合は特定の空間への物理的な侵入の拒絶が効果だろう。簡単に言うと結界内の物をえぐり取る、という恐ろしく強力な魔法である。スフィアードが好んで攻撃に使うものの一つだ。ここでは保護結界で守られているため死ぬことはないが、喰らえば戦闘を続けるのは不可能だ。
――――体勢が立て直せない・・・!
彼のカードによる攻撃に、ベルナルドは防戦一方となる。苦しい戦闘だ。
――――でも、カードは無限にあるわけじゃない・・・!まだチャンスはある・・・!
何とかカードをかわしていく。カードはかさばらないため持てる数が多い半面、遠くへの攻撃には向いていない。
ベルナルドの意図に気づいたのか、スフィアードはカードを投擲するのをやめる。
すると今度はガントレットをはめた右手を横に向ける。実は、スフィアードのガントレットは彼の依り代の一つである。その右手から正十二面体の片側半分を引き延ばしたような形の結界が現れる。近接攻撃用の結界魔法だ。スフィアードはそれを剣のように扱う。
――――まずい・・・!完全に主導権を握られている。
スフィアードは一気に間合いを詰めると剣型結界を横に一閃する。
ガキンッ!という大きな音を立てて、何とかそれを槍でいなす。激しい切り合いが何度も続き、足元で激しく土ぼこりが舞う。
――――くっそ、こっちは近接専門職なのに防戦一方か・・・!
さらに一度大きな一閃をはじくと、スフィアードは今度はいきなりバックステップを踏む。
「!!」
――――しまった・・・!!ここまでか・・・。
スフィアードの結界魔法は彼が触れたもの全てを(・・・)依り代にすることができる。
そう、この土ぼこりでさえも(・・・・・・・・・)。
ピキンッ!という乾いた音を立ててあたりの土ぼこりが時を止める。刹那、それらから生まれた球状の結界によってベルナルドは動きを拘束されていた。
「勝者、スフィアード!」
審判の声が響き、結界を解かれて動けるようになったベルナルドはがっくりと膝をつく。激しい戦闘でベルナルドの息は完全に上がっていた。
そのベルナルドのもとにスフィアードが歩み寄り、握手をする。
「・・・くっそー!また負けたー!」
ベルナルドは悔しそうに頭を抱える。
「いい試合だったよ。ありがとう」
スフィアードは微笑む。
「いやー、まだまだだなー。手加減してもらっても(・・・・・・・・・・)これかー!」
「まあ、でも動きはすごく良くなってたよ、僕もひやひやした」
互いをたたえ合う2人に、いつの間にか周りから拍手が起こっていた。
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