辞表 前編
その頃木原と神津は大橋の職場にいた。二人は警察であることを受付に伝えた。会議室に案内されて今に到る。
それから三分後一人の女性が会議室に現れた。
「刑事さんですか」
「はい。警視庁の木原です」
「同じく神津です」
彼女は名刺を渡した。
「広田由美です。大橋の上司でした。殺人事件の件でしょうか。それなら彼は犯人ではありません。彼は人殺しが出来る人間ではありません」
「広田さん。二つだけ気になることがあります。あなたはなぜ上司だったというような過去形で答えたのか。それとなぜ彼が殺人をしたような発言をしたのか」
広田は封筒を机の上に置いた。
「疑問点は二つあるけれど答えは一つ。全てこの辞表に書いてあったから。読んでも構いません。捜査に役立つのであればいつでも提出します」
神津は辞表を読んだ。
「辞表。私にはこの仕事をする資格はない。なぜなら十六年前小松原正一を殺したからである。彼を殺害した一部始終を思い出したくはない。思い出せば頭が真っ白になるような感覚に陥る。悪夢にうなされる。こんどは小松原が私を殺す夢だ。やはり罪は償うべきだった。悪夢から解放されるのであれば私はこの仕事を辞めて自首をする。最後に浅野さんに手紙を渡して欲しい。その手紙は私のロッカーに入っている。同封した鍵で開けて欲しい」