動機を忘れた殺人犯
それから木原と神津は取調室で大橋の事情聴取をした。
「なぜ殺人を犯したのですか」
「忘れました。十六年も前の話ですから。確かに私は殺人をした。凶器もあるし死体は庭に埋めた」
神津は十六年前という言葉に驚いた。
「十六年前の事件は既に時効ですよ。我々はあなたを逮捕することはできません」
大橋はパスポートを見せた。
「私は十五年前から十年前までアメリカに移住していた。時効は五年後になるはずだぜ」
パスポートには大橋の供述通りの記録が書いてあった。
「ではどのようにして殺しましたか」
「睡眠薬入りの飲み物を飲ませ動きを封じ刺殺しました」
「被害者とはどのようにして知り合いましたか」
「だから被害者には小松原という名前があります。いつ知り合ったのかは忘れました」
その様子をマジックミラー越しに合田と月影は見ていた。
「奇妙だな。動機は忘れた。しかし人を殺したことは覚えている。被害者と大橋の関係も不明」
「それは矛盾です。覚えているのは小松原という国会議員を殺したことと殺害方法。死体遺棄をしたということ。覚えていないのは被害者との関係と動機です」
「俺が犯人だったらどこに死体を遺棄したのかも忘れる。そうすれば逮捕されることはないだろう」
その時大橋の家にいる大野から連絡が来た。