容疑者
そう話していた時一人の刑事が報告をしに来た。
「合田警部。高尾山付近をある男が徘徊していたことが分かりました。その人物は井伊晴彦」
「井伊晴彦。彼は十六年前の失踪事件の被害者遺族だ。つまり彼にも動機がある」
大野の言葉で神津はピノキオの暗号を見つけた経緯を思い出す。あの時封は開いていなかった。暗号文の書かれた封書を開けることに立ち会ったのは遠藤昴と浅野房栄。あの時浅野公安調査庁長官は暗号文をカメラで撮影した。
「容疑者は公安調査庁長官浅野房栄と秘書の遠藤昴。大橋の上司広田由美。彼女が容疑者だという理由は動機があるから」
大野は右手を挙げた。
「広田花さんの婚約者がこの事件に関与している可能性はありませんか。それに浅野公安調査庁長官がカメラで暗号文を撮影したならその写真を誰かに見せた可能性もあります。そうすると容疑者は浅野公安調査庁長官の知り合いということになります。だから彼女をマークした方がいいでしょう」
合田は大野の推理も考慮に入れて指示を出した。
「大野と神津は広田花の婚約者が誰なのかを調べろ。俺は浅野公安調査庁長官の知り合いの中で十六年前の失踪事件に関わった人間がいるのかどうかを調べる」