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はまってワンだふる。〜夫婦二人の過ごし方〜  作者: 朝野とき
第一話 私がネット小説にはまったら。
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第一話-5




 初めて見る冷えたような目に、私の心まで浸食されるように冷えてくる。


「か、ずみ?」

 私がきつく払いすぎたことをあやまることも忘れて、震えるように名前を呼ぶと。

 数巳は、いつになく乱暴に私の腕を握った。

 そして、今まで聞いたこともないような冷え切った声で呟いた。


「そんなに、いや?俺が触れるのも、いや?」


 数巳の言葉にすくむ。その言葉をいろどる責めるような声音が、私をえぐる。


 どうしたの、数巳?

 ……私が残業で遅くなって食事当番をきちんと守れない日があったって。

 ……まだ新婚のころ結婚3日目で、結婚指輪洗面台に流してしまってうろたえた私を前にしたって。

 ……周囲からの「赤ちゃん、まだ?」「いつまで共働き?」という声に私がイライラして八つ当たりしたって。


 数巳は穏やかにそこにいてくれた。


 もちろん、静かに諭されることもあったし、私がわがまま言いすぎてあやまることもあったけれど。

 でも、そこに冷たさはなくって。

 こんな、詰問するような、責め立てるような不穏な空気が流れることはなかった。


 ……どうしたの、数巳?


 私は冷たい態度の数巳に、完全に怯えていた。

 そうして数巳の目を見ると、自分の心も足元も冷えてくるようで怖かった。


 さっき……読んでいた小説。

 ガイルとリリアの恋のファンタジー。

 戦火の中で、ガイルがリリアの腕をつかむシーンがあったけれど。。。

 ガイルがリリアを責めるように詰問して、リリアはきちんと答える場面だったけれど。


 現実。

 自宅。いつものリビング。

 そんな平和な状況なのに。

 夫に腕を掴まれて、冷えた目を向けられると、すごくショックだった。

 ……リリアみたいに、毅然と答えられないよ。

 ……もちろん、あれは物語だけど。


 しばらく冷たい数巳の目が私をみつめていて、私と数巳の間には沈黙がおりていた。

 そのうちに、すっと私の腕をつかむ力がゆるんだ。

 同時に数巳は私から離れ、背を向ける。


「シャワー浴びてくる。…変な言い方して…俺…。…ごめん」


 ポツンと、言葉を残して…。


 私は再び、ガツンと頭を殴られたようなショックを受けた。

 それは、さきほどの数巳の初めて見た冷たいような暗いまなざしに対するショックよりも、もっと深く私の心を揺さぶるものだった。


 ……数巳は、いつもてきとうな謝り方をする人ではなかったのだ。


 簡単にはあやまらないけれど、自分がいけなかったとき、まちがった時は、きちんと目をあわせて、「ごめんなさい。自分が悪かった」とちゃんとあやまる人だった。

 私は、出会ったとき、そういう数巳の態度にひかれていったのだ。

 誠実ともいえるような。


 ……なのに、今。

 背中を向けて、軽く流すような「ごめん」という言葉…。


 ううん。

 そもそも数巳があやまる部分はなんなの?


 冷たい目線?腕をつかんだ強い力?じゃれついたこと?

 ……そんなの、どこにもあやまるほどの何かがあったと思えない。


 それよりも、私がさっきキツく追っ払う態度をとったことの方が、もっと冷ややかな態度と言えたのに。


 ……どうしたの数巳?




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