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はまってワンだふる。〜夫婦二人の過ごし方〜  作者: 朝野とき
第一話 私がネット小説にはまったら。
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第一話-4



 玄関ドアの音がなり廊下にでてみると、旦那の数巳がちょうど玄関から上がってきたところだった。


「おかえり」

「ただいま」


 数巳と私の声が重なった。


 ほんのりピンク色にそまって微かなアルコールの香りをまとわせながら、数巳は微笑んで再度「ただいま」といった。

 穏やかな茶色の目が、お酒のせいか、少しうるんでいる。


 あんまり強くないのに、けっこう飲んだのかな?


 足元はしっかりしているようだけど…と思いつつ、リビングまで歩きながら数巳からスーツのジャケットを受け取りハンガーにかけ、風通しの良いところに一時かける。

 スーツに煙草の匂いが混ざってる。数巳は吸わないから、ヘビースモーカーが隣に座ったりしたんだろう。

 私がスーツに軽くブラシでもかけようかと思い、クローゼットへブラシを取りに振り向くと、数巳はまだぼんやりとリビングの部屋のまん中に立ったまま私を見つめていた。


「ど、どうしたの?飲みすぎた?」


 いつも飲み会から返ってくると、アルコールや煙草の匂いを落そうとシャワーに直行する数巳だったので、ぼんやり立ってることに驚く。

 ネクタイをはずし、Yシャツの上のボタンを二つほどはずした砕けた状態の数巳。

 私は、そばによって彼の顔をのぞきこんだ。


「ほんとにどうしたの?お水もってこようか?」

「…いらない」


 そう答えると、数巳は両腕を伸ばして私の肩にまわしてきて、そのままよりかかるように、私の右肩に顔を伏せてしまった。

 立ったまま抱きつかれているような感じ。

 しかも電気の煌々とついたリビングの真ん中で…。


「ほ、ほんとうにどうしたの?酔ってるの?」


 結婚して2年半。結婚前につきあっていたのが2年少しだから、出会ってもう5年くらいになる数巳だけど、こんなぼんやりとらえどころのない姿を見るのは初めてだった。

 穏やかで、でも頭の回転がけっこう早くて、冷静な人…それが旦那、数巳の主な姿だと私は思ってた。

 それが、こんな途方もない風情で私によりかかられてしまって、私はあわてる。


「な、なに?まさかお仕事ほされちゃったとか?もしかして、今日は中途採用者の歓迎会というのは嘘で、あなたの追い出し会だっとか!?」


 私が数巳の背中に手を回しながらあたふた言うと、クスっと肩口で数巳が笑った。


「違うよ…。今日は、予定どおり歓迎会だったよ。居酒屋で飲んで、もう一軒移動したから遅くなったんだけど。」


 数巳がしゃべると、ふんわりとアルコールの香りがただよう。臭くはなくって、なんか甘~い香り。


「良かったお仕事あって。お酒の匂い…甘いよ。」

私が言うと、

「ん…黒糖梅酒のロックおいしかったんだ」

と言った。

 そして、また私の肩口に顔を伏せる。


 どうしたんだ。

 本当に、数巳どうしたんだ!?

 

 いつもはビールで乾杯、他の人につきあう程度にしか飲まないだろう!

 それなのに梅酒ロックって、わざわざ注文したのかな。

 そういう気分?

 いやいや…なんか…よくわかんないけど…変。ぜったい、変。


「なんなの。どうしたの。やっぱる酔ってるんじゃない?梅酒ロック、あなたにはきつかった?」

「ん~~~」


 私が数巳をひきはがそうとすると、数巳はますます腕に力をこめてきた。

 肩口に伏せてる顔をすこしあげて、ふぅっ、と私の首に息を当てる。


「ひぃっ」

 

 私はあたふたと悲鳴をあげると、またクスっと笑い、今度はぺろっと舐めた。


 ……舐めたぁ!!


 絶対、絶対、絶対、変。こんなの、いつもなら絶対しない。

 しかも電気ついたリビングの真ん中ってのも、絶対、おかしい。

 数巳の顔かぶったオオカミじゃないの?


 私が硬直していると、機嫌をよくしたように、数巳はますますぺろぺろと首を舐めてくる。


「んんんっ」


 ぞわぞわとして私がひるんでいると、次は唇をそっと押しあてて来た。

 

 お~い、なんか不穏な空気になってるんですけど!

 やっぱり酔っ払いじゃないか!

 こんなの初めてだけど、数巳もこういう一面もあったということでっ!

 とにかくとにかく、ちょっと頭ひやしてくれっっ!


「もう数巳、なにじゃれついてんの!シャワーはやくあびておいでっ!」


 私は照れもあって、ちょっと冷たい声をだし、両腕に力をこめた。そしてしがみついてる(?)数巳をひきはがしにかかる。

 少し抵抗するように、首に顔をうずめてくる数巳。

 そのやわらかな唇の感触に、私も体がざわめいてくるようで。

 それが恥ずかしくて、消し去りたくて、


「もう何なのよ。酔っ払いに抱きつかれても困るわよっっ」


と、力をぎゅっとこめてはねのけた。


「んーーー」


 数巳は今度は素直に離れてくれた。

 というより、私、ちょっときつく追っ払いすぎた?

 酔っ払いとはいえ、さすがに旦那に対して厳しくあしらいすぎたかなぁと反省して、おずおずと数巳の顔をのぞきこむ。

 ……今まで肩に伏せられてたから表情みえなかったし。


 その時。

 数巳の顔に…瞳に…びくっとした。

 てっきり、笑ってるか酔ってるほにゃ顔なのかと思ってた。(そんなんも見たことないけどさ)


 ……違った。


 私がのぞいた数巳の表情は。

 いつもの穏やかさがごっそり抜け落ちた…暗く…真剣で……。

 冷たいともとれるような。

 瞳の色だった。




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