第二話-13
つないだ指さきを、数巳はぐっと絡めてきた。
秋もふかまる涼しい夜のはずが、私と数巳の間には、まるで熱帯夜のような湿り気と熱気がある。
私も数巳の手をつなぎ返した。
軽めの夕食をとった私と数巳は、リビングソファで新山さんの持たせてくれたお菓子と食後のコーヒーを楽しみながら、今日の一日の話をした。
――……な、なぜか、ソファで手をつなぎながら。
私の話に、にこやかな笑顔を見せるときもあれば、ちょっと黙ったり、笑ってるんだけど目が冷えてます…という一瞬もあった(気もする)数巳なんだけど。
でも、ずっと何かあたたかな空気が二人の間にあって、私も嬉しくなる。
ただ……。
数巳が、英会話レッスンのメンバーと食事した――と話してくれている中で、そのお食事相手を、数巳は「面白い人」「田中さん」「俺に趣味がないって、はっきり言っちゃう人」としか説明しなくって、それが男性なのか女性なのか、どんな年齢なのかが、無性に気になった。
そして、そういうことを気にする自分に出会って初めて、「あ、数巳も、オフ会のメンバーを私に確認したのって…こんな気持ちだったんだ」ってわかった。
お互いに仕事をしている数巳と私は、仕事関係で異性と接する機会は普通にある。
当たり前のことだから、話題にでても何も感じてこなかった。
だけど、プライベートだと……。
なにか、心にチクリと刺すものがあって……。
や、やきもちなのかな?
結局、数巳の話しの途中、ずっと気になって気になって、でも、口もはさめなくって。
最後の最後で、もう、こらえきれずに小さな声で聞いてしまった。
「あ…の…」
「ん?」
「そ、その…た、田中さんって……じょ、じょせい?」
「……」
私の質問に、数巳はちょっとこちらを見つめてニヤっと笑った。
「な、なに?」
――……な、なんでここで笑うの?
「男だよ。孫もいるんだって」
「え、えぇ?……あ、そうなんだ」
「そうなんだって」
私は、あからさまに安心した顔をしてしまった気がして、取り繕うようにコーヒーを飲みほした。空いたカップをローテーブルに置くと、それを見計らったかのように、数巳がつないでいた手をぎゅっと引いた。
「きゃっ!」
軽い悲鳴をあげて、私は数巳の方に倒れこむ。
そのまま抱きこまれてしまった。
「も、数巳、なにする…んっっ」
抱きこまれた私は、数巳が首元にうずめてくるのを止められない。
耳をなめられ、そのまま息を吹き込むようにしてささやかれた。
「いま…やきもちやいた?」
「っ!」
「…ね?どう?」
数巳の大きい手で髪を梳かれる。
さわさわした感触が気持ちよくてうっとりするのに、あいまに耳元でささやかれると、ゾクっとする艶かしい感覚も体を突き抜ける。
「嘘は、いわないで」
数巳に先手をうたれて、困る。
「…ちょっと、気になった。や…やきもち、なのかな?」
私がおずおずと答えると、数巳は耳を軽くかんだ。
「んぁっ、や、…っ」
数巳の指先もさわさわと体に触れ出して、もっと身のおきどころがなくなってゆく。
リビングのソファで数巳の腕の中で、ぴくぴくと体を揺らすしかない私。
「小さなやきもちは…媚薬になるよ…ね?」
「……も、何。そっっん、れっ」
素肌に触れられていく。
数巳の唇は首元から徐々に下りてゆく。
「所有印、残ってる」
「あっっ」
昨晩、鎖骨あたりにつけられていたキスマークの上を、さらにまた吸われる。
「んっっ」
数巳の優しかったり、強かったりする口づけに翻弄されながら、私の体は潤んでいく。
――……すごく、恥ずかしい。
でも、私の心も体も、求めてくる数巳の手や唇を、喜んでいる。
数巳の体と心とぴったり合わせたいって、私も思っている。
私の中にも、やきもちやいたり、一緒にいたかったり、つながったりしたい気持ちがいっぱいあるんだって、数巳の口づけから自覚させられて。
どんどん欲望がたかまっていく。
「か…ず、み…」
「うん?」
「もっと…」
「ん?」
私は、目尻がほのかに赤くなった数巳の瞳…欲望のともった茶色の瞳を…見上げた。
「数巳でいっぱいになりたい」
私が言うと、数巳は目を見開いた。
その茶色の瞳に、一瞬にしてもっと濃く欲の色が流れ込んだ。
そして数巳は、ささやく。
「……願いは叶えてあげる…後悔しちゃダメだよ…俺の…」
また首を吸われて。
「……俺だけの奥さん」
と、いう数巳の言葉につつまれて、強く抱きしめられたのだった。