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はまってワンだふる。〜夫婦二人の過ごし方〜  作者: 朝野とき
第二話 私がオフ会にはまったら。 
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第二話-10



 

 オフ会が5時をもってお開きとなり、みんなで店を出た。

 もう、すでに空は暗く、星が瞬いている。


 最寄駅まで、みんなで歩いた。

 駅に着くと、行き先はそれぞれ別れることになるだろう。


 プライベートを全部明かしているわけじゃない私たちは、お互いに「どの駅まで帰るのか」

 という話題はしなかった。

 その距離感が、これがインターネットの世界が縁で知り合ったんだという気にさせた。

 また会えるのか、会えないのかわからない、微妙な関係。


 だからこそ、今のあたたかくて楽しい雰囲気は、貴重で大切なものに思えた。

 たぶん、みんなそれぞれ名残惜しさをもっていたと思う。


 駅に着くと、休日の夕方で込み合っていた。

 イルミネーションも点灯され、賑やかな空間がひろがる。


「「今日は楽しかったですぅ!!」


 YUKIさんミオさんの明るいハモり、私も楽しかったなぁ。


「また、企画しましょうね。」

 カイトさんがほほ笑み、ジョージさんも頷く。


「じゃ、また!」

「さよなら!」

 YUKIさん、ミオさんカイトさんご夫妻は地下鉄を使うのだと言って、別れた。


「私も家族と夕食の待ち合わせがあるから、ここで失礼するわね」

 岬さんも、ほほ笑む。


「わかなさん、今日連れてきてくれてありがとうございました!」


 私が精いっぱいの気持ちをこめてお礼を言うと、


「うん、楽しかったわね。ひまちゃんの感想も、素敵だったし嬉しかった」


と『わかなさん』の顔で言った。

 明日から、また「岬さん」と呼ぶんだなあと思うと、ちょっと寂しくなる。


 岬さんは、新山さんとセージさんにも声をかけた。


「会えてよかったわ。」

「あぁ。」

「YUKIちゃんミオちゃんじゃないけど、たしかに貴方がたコンビって、ストーリー作りたくなる雰囲気あるわよね・・・」

「・・・やーめーろー」

「ふふふ、ごめんね。じゃぁまたね。ひまちゃん、旦那さまによろしくね!」


 最後に一言付け加えて、岬さんは手をふって、別れた。


 ……『旦那さまによろしくね!』かぁ。

 ……数巳、どうしてるかなあ。

 ……私も、帰らないと。


 顔を上げて、新山さんとセージさんを見る。


「私も…帰ります。今日はありがとうございました」


 ぺこり、とお辞儀した。

 顔をあげると、せーじさんと目があった。


 せーじさんは私にほほ笑むと、


「僕たちは…飛行機できて、今日は泊まりなんだ」


と言った。


 せーじさん……先輩は、九州の大学に進んだんだけど、今も九州の方に住んでいるのかなぁ。

 そもそもオフ会のために、飛行機に乗ってきたんだろうか?


 ……そう疑問はあるけれど、突っ込んではいけないとこだよね。


「僕の実家に…新山と泊まることになってるんだ。部屋だけはあまってる家だからね」



 その言葉に、ふっと忘れていた風景を思い出す。

 セージさんの実家…10年前から引っ越していないならば、あのよく手入れされた庭のある、日本家屋と言う感じの家。

 せーじさんが大学進学する前に、何回かたずねたことがある。進学のための引っ越しの準備も手伝いにも行った。


 ……一度、せーじさんの部屋で、そっと触れるだけのキスをしたことも、ある。


 しまいこまれていた記憶がふっと頭をよぎり、そのときの切なさと気恥ずかしさを思い出して、私はうつむいた。


 今から、数巳のもとに帰ろうというのに、変なことを思い出してしまった。


 ちょっと自分自身に戸惑っていると。


「…気をつけて、帰れよ」


 上から新山さんの声がした。


 顔をあげると、新山さんが何かを差し出していた。


「?」


「やる」


「えぇ!?」


 押しつけるように手渡され、見るとラッピングされた焼き菓子のようだった。

 さっきまでいたカフェの名前がプリントされている。

 そういえば店を出るときに、新山さんはいくつか焼き菓子を買い込んでいた。 誰かのお土産にするんだろうと思っていたけど。


 なぜ、私に?お菓子?

 セージさんも、新山さんの突然の行動がわからないといった様子で首をかしげている。


「……おまえのことだから、旦那への土産とかも考えてないだろ」


「……あ」


「もってけ。いいから、もっていけ。」


「は、はぁ」


「さっきの店のは、クッキーやフィナンシェもうまいから。甘いのが苦手な男でも食える、いい口当たりだから」


「あ、ありがとうございます??」


 まさか、旦那への土産としてお菓子をわたされるとは思わなくて、戸惑ったままの私。

 新山さんは、そのまま足元においていたボストンバッグをもちあげて、肩にかける。


「旦那と、いっしょにうまいコーヒーでも淹れて食べろよ。じゃあな」


「あ。はい……新山さんもお元気で!」


 新山さんは、「おい、セージいくぞ」と声をかけて、さっさと歩き出す。

 セージさんは、私の方に「じゃあ」と声をかけた。

 私が「さよなら」の気持ちを込めて手をふると、さっと身をひるがえして新山さんを追いかけて行った。


 ……なんだか最後まで、新山さんは面倒見のよい兄ちゃんキャラだったな…。


 人ごみに消えていく姿をみながら、


「……数巳に良いお土産できたよ、ありがと…ガイルさん」


 聞こえたらいやがるだろうけど、やっぱり、一度くらい呼んでみたくて、声にしてみた。


「それから……。さようなら、せーじさん」


 私は、今日の一日と、そして10年前の思い出を、心に丁寧にしまった。 



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