第二話-7
こ、これはナンの拷問ですか……。
目の前には鼻血でそうな、銀縁眼鏡のガイル。
……寝言にまででて、数巳を不安にさせた姿がここに!
そして、その隣には、10年も昔の元カレである高校時代の先輩。
元カレといったって。
本当に高校時代の小さな思い出で。触れるだけのキスをした綺麗な青春の一ページ。
しかも数巳にもちゃんと話してるわけで。
……本来、なんにも後ろめたいこと、ないはずなんだけど。
で、でも、今は…。わたしの名前が……。
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「あ、じゃあ、そろったね!新山さん、お連れさんを紹介してよ~」
岬さんが声かけて。
きゃあきゃあとYUKIさんとミオさんに囲まれていた銀縁眼鏡のガイルじゃなかった新山斎さんと、その隣の元カレの先輩が、こちらを向きかけた。
き、きづかれるーーーっっっ
必死に目を泳がすけれど、もちろん、かくれるところもない。
私は覚悟して対面した。
新山さんの隣の先輩は、私に目をむけた瞬間……かすかに目を見開いた。
やっぱり、気付く、よね…。
一瞬目を見開いた先輩は、すぐにふっと伏せた。
その態度にホッとしたような、懐かしい様な気がした。
ここで、「あ~先輩!」「お~後輩!」と自然に振る舞えるような明るいキャラだったら、苦労しない。
私も、そしておそらく先輩も言い淀むタイプだ。
こういうピンチ状況に、果敢に挑んで古傷をオープンにできるようなタイプじゃない。
たぶん、そういう強さがあったら、遠距離恋愛のときももっと続いていた気がする。
かわらぬ真面目な彼の態度に、胸がちょっときゅっとなった。
知らないふり、していていいのかな。いいんだよね。
状況に応じて、変化する。これ、重要!……だよね?
ということで、私もそしらぬふりして視線を先輩からずらした。
私と先輩の一瞬の視線の交錯に気付いたかどうかはわからないけれど、ガイル……違った、新山さんがさっと口を開いた。
「遅れて、すまない。オレは新山斎、こいつはオレの友人で読み手でもある『セージ』」
またしても、私はビクっとした。
……『セージ』
……先輩の本名は…前島誠司だから。
私はつきあいはじめたとき「先輩」と呼んでいたけど、いつしか「前島さん」になり、そして彼から名前を読んでほしいとねだられて。
……「せいじさん」と呼んでいた。
そして、遠距離恋愛になって親の目を盗んでする電話ごし。「せいじ」の呼び方がいつしか……「せーじさん」と伸ばす感じになって。
――『もしもし、せーじさん?』
――『こんばんは。今、電話は大丈夫なの?』
――『うん、両親とも買い物に出かけてる。電話料金の明細でバレちゃうから、あんまり長くしゃべれないけど』
――『……うん。すこしでも、声、聞けてうれしいよ』
……そんな昔のこと、いろいろ思い出す頭に、だんだんクラクラしてくる。動揺しちゃだめ、と自分に言い聞かせる中、自己紹介はすすんでいく。
「「はじめまして、セージさん!YUKIとミオで~す」」
「はじめまして、カイトです。遠いところからよく来てくださいました。ひさしぶりね、新山さん。このひとは夫のジョージ」
「『Lovery!』の夕月わかなです。今日はよろしくね」
次々に挨拶していく。
最後に私になった。
新山さんとセージさんに向かって。
「……夕月わかなさんに連れてきてもらいました……。な、まえは……」
ちょっと、いいよどんでしまう。
私は、重ねた手の左の薬指…数巳がはめた結婚指輪をキュッとさすった。
「あ、の……『ひまわり』です……」
目の前の…『セージ』さんの目が、微かに揺れた気がした。