第二話-5
「東条さん、こっちよ!」
とうとう今日はオフ会当日!
良く晴れた日曜日。駅に続くイチョウ並木は黄色にそまってとても綺麗。
サクサクと落ち葉を踏みながら歩いて、岬さんと待ち合わせの駅前の時計下へと歩く。
待ち合わせ場所に着くと、岬さんは黒のパンツにスモーキーピンクのオーバーブラウス。首元にグレー系のスカーフをゆるく巻いた、綺麗系なカジュアル姿でこちらにむかって軽く手をふってくれる。
耳元の少し大ぶりなイヤリングが、華やかな岬さんに良くにあっていた。
そうそう、オフ会初参加の私は、当日に何を着ていくか、いちおう前もって岬さんに相談していた。一人だけ浮くのは避けたいしね。
そしたら、
「ランチだし、ふつうのカジュアルでいいよ。おしゃれしすぎて会うような凝ったメンツじゃないし、内容は……ネット小説談義だからねぇ。二次創作系だったらコスプレもありだろうけれど、今回みんなオリジナル創作だし。」
と、笑って答えてくれた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫!」という一言を添えて。
それで、私もカジュアルを意識してみた。
今日の私は、ひざ下丈のレンガ色のふんわりしたスカートにオフホワイトのタートルネックシャツに濃いベージュのオーバーカーディガン……「読書の秋」を意識して、茶系でそろえている。
おしゃれしてます!という感じで出向くのもなぁ……とも思って、全体的にナチュラル系で。
ちょっと若づくりじゃないかなぁと心配していたのだけど、岬さんがすぐに、「あら東条さん、可愛いわ。秋色で素敵」と声をかけてくれてホッとした。通勤時の私服はいちおう、私だって綺麗系目指してるつもりだったから、ひさびさのナチュラル系に緊張していた心がほぐれた。
そんな気がきく岬さんに、
「いつも妻がお世話になっています。今日もよろしくお願いします」
と、私の隣で挨拶しているのは……数巳だ。
英会話のレッスンへ行く前に、ひとこと挨拶していくと譲らず、なんと待ち合わせ場所までついてきたのだった。
すました顔で岬さんに挨拶している数巳。
だけど、なんと出発前には、結婚指輪のチェック、タートルネックの下の鎖骨のキスマークもちゃんと残ってることをチェック。
ちょっとちょっと、最近の数巳は「穏やかな紳士キャラ」から「ちょっぴりイジワル系」に変わりつつあるような……??……藪蛇になりそうなので、黙ってるけど、ちょっとチェック中の数巳の目は真剣すぎてこわかった。
「こちらこそ、いつも東条さんの真面目な仕事ぶりには何度も助けられていますわ。今日は、貴重な休日に奥様をおかりすることになってすみません」
岬さんは、綺麗なほほ笑みを数巳に向けた。
「じゃ、じゃあ数巳、行ってきます」
私が数巳に言うと、数巳は軽くうなづいて、
「……うん、理紗、気をつけてね。……楽しんでおいで。」
と、穏やかに笑いかけてくれた。
そのほほ笑みに私はなんだか安心して、「うん」と返事をする。
「では、僕も失礼します」
と、数巳は岬さんに再度会釈してから、去って行った。
私はその背中に小さく手を振った。
その姿が人ごみの中に消えて見えなくなると……。
隣から、
「あなた、大事にされてるわねぇ」
という岬さんの声がかかった。
「なんだか、旦那さんに悪いことしちゃったかしらね?」
とぶつぶつ言葉を続けている。
「いえいえ、最近の数巳はちょっと過保護なんです。今日もここまで一緒に来るほどのことないと思ったんですけど……」
「少しでも傍にいたかったんじゃない?あんな寂しそうな瞳を一瞬でも見せられちゃうとねぇ」
え?
「……数巳、寂しそうでした?」
「気付いてない?あなたが『行ってきます』と言った時、ほんとうに切ない瞳だったわよぉ。キュンキュンするわね!」
「は、はあ……」
「それに連れ出す私にイライラする目をむけるんじゃなくって、『道をはずさないよう、お願いします』って純真に頼む瞳で……。愛情たっぷりうけてるわねぇ。」
……み、みさきさん、「道をはずさないよう……」ってひとことが、私すごく気になるんですけど!
「まぁ、小説の感想大会と思えば、別に変な集まりでもないし、心配するもんじゃないんだけどね。マイナーではあるけど」
「……はい」
あぁ、なんかまたドキドキしてきた。
もう少ししたら、ネットの海で出会ってきた作品を「生みだした」人たちに会えるんだ。
そして、それを私みたいに大切に読んできた人とも……。
画面の向こうに広がっている世界が、自分のすぐ隣にある……不思議な気分で。
これから会う人達と、素敵な時間が過ごせるかな。
……私、大丈夫かな。
私の緊張をよみとったのか、岬さんが、
「いいわね?これから私はサイト『Lovery!』の夕月わかな。あなたは「向日葵」さん、だからね?」
「は、はい!え、えっと『わかな』さん!!」
私のうわずった返事に、にっこり笑顔を返してくれた岬さんは、
「前に話した通り、もし連絡先の交換があったら、それは基本的にフリーメールのアドレスを使うようにね?パソコンのフリーメールのアドレスは取得してきた?」
「はい、これがいちおう作った名刺です」
私は「向日葵」の名前とフリーメールのメアドを書いた手作り名刺を見せた。
「OK。じゃ、行きましょ!ひまわりさん……ひまちゃん」
「ひ、ひまちゃん!?」
「え、だって『ひまわり』って呼ぶより、ひまちゃんの方が可愛いし?」
「は、はい……」
テンポの良い岬さんにのまれつつ、私と岬さんはオフ会の会場と向かったのだった。
オフ会で集まる書き手さんや創作サイト、すべて私の想像の人物たちです。実際のネットの海に存在する同名サイトや同名の書き手さんとは何ら関係ありませんので、どうぞご注意くださいませ。