第二話-2
「……オフ会?」
数巳の表情がかたまった。
今は、夕食後のくつろいだ時間。
リビングのソファで、まったりと二人でジャスミンティを飲んでいた。
今日は私も数巳も仕事が早く終わり、めずらしくゆったりとささやかでも手作りの夕食をとることができた。
二人で食器洗いもすませ、あたたかなお茶を入れてリラックスムードの「この時こそっ!」と思って、数巳の穏やかな顔をうかがいながら、昼間、岬さんに誘われた「オフ会」のことを切り出してみたんだけど……。
かたまっていた数巳は、
「ネット小説の書き手があつまるの…?」
と、まず聞きなおしてきた。
「うん」
と答えつつ、岬さんがネット小説の書き手であることは、数巳に話してOKと岬さんから了解を得ていたので、誘われた経緯を話す。
「……行きたいんだ?」
数巳はちょっと小首をかしげて私の方を見る。
「う、うん。……正直いうと、すごく」
私が気持ちを隠し通せなくて、素直に言うと、数巳はくすっと笑った。
「仕方ないね。そんな顔されて頼まれちゃうと、行ってほしくないとは、言いづらい」
「行ってほしくないの?」
数巳は、ふだん私の行動をあまり制限したりしない。
だから、この発言はちょっと意外だった。
「そりゃ……。岬さんは仕事の先輩で同性だけど、他はどこのだれだか、年齢も性別もわからないわけでしょう?不安というか、心配というか……ね」
数巳の言葉を聞いて、胸がきゅんとする。
心配してくれてるんだ。そっか、そうだよね。
私だって、もし数巳が見知らぬ女性と会うとなったら、抵抗があるもん。
「たぶん、ほとんど女性と思うんだけど……。一人の書き手さんは男性なんだって。あと、読み手さんを連れてくるとなっているから、予想はつかない」
嘘はつきたくなくて、わかっているままを話す。
「まぁ、理紗は大人なんだしね。束縛していいもんじゃないってのも、わかってるし。お昼の集まりで、夜には帰ってくるんでしょ?」
「うん!いつも、ランチとお茶、個室を予約できる店をはしごするんだって」
岬さんの話だと、小説の話とかネタとか、ペンネームというかハンドルネームで呼び合うのとか、どこで聞かれているかわからないから、個室を利用するらしい。
サイト『さよなら、さよなら、さよなら?』のYUKIさんはお酒が飲めないのに加えて喘息の持病があって、煙草の煙も身体によくないらしい。
他の方々も飲むよりは創作について語り合いたいらしくて、昼間に集まるのが慣例になったとのこと。
あと、カイトさん、YUKIさんは女性だけど、新山斎さんは30歳前後の男性だって岬さんは教えてくれた。
『旦那さんに、また、ウワキと誤解されちゃ困るもんね~先に言っとかないと!』
と、岬さんは笑っていたけれど。
まぁたしかにそうだよね。
二人っきりになることはないとはいえ、なんとなく、隠し事はいやだなぁとも思う。
私が数巳の答えを待っていると、数巳はほほ笑んで言った。
「行っておいで。」
「ほんと!?ありがとう!」
私が身を乗り出して数巳の方に向くと、数巳はほほ笑みを苦笑いに変えて、ちょっと厳しめの口調で続けた。
「ただし、夜までには帰ること。もし遅くなりそうだったら、ちゃんと俺を迎えに呼びなさい」
「はあい……」
私が返事すると、数巳はそっと顔を寄せてきた。
「そんなに嬉しそうだと、ちょっと妬けちゃうな」
私も笑って、唇を数巳の頬に近づける。
「心配かけてごめんね。でも……」
「でも?」
「……数巳が一番、特別に好きだよ」
触れた頬のあたたかさを感じながら、告げると、数巳の腕がすっぽりと私を抱きこんだ。
「信じるよ。すぐに夢中になってしまう理紗も可愛いしね」
「もう!なんだか、最近あまあまなことばっかり言うんだから!」
「そりゃぁ、ネット小説の王子様に負けられないからね」
と言って、数巳の手が少しずつ不穏な動きをしはじめる。
私が「ちょっとぉ…ん…明日も仕事だよ……」と言って身をよじらすと、数巳は私の首もとに顔をうずめながら、からかうようにつぶやく。
「ほらほら、今からは俺に夢中になって……俺の可愛いお姫様」
もう!
なんだかんだ言って、数巳は私をころがすのがうまいんだ……と、思いつつ。
……そのまま仲よしの夜となったのでした。
(明日も仕事なのに!)