第二話-1
第1話から1,2カ月後という設定です。
「え、オフ会!?」
私があげてしまった声に、岬さんは、「しーっっっ、ここ店内だから!」と指をたてる。
「あ、すみません……」
こしょこしょと小声で、あやまりつつ……心臓がドキドキしてとまらない。
テーブルのカプチーノを飲んで、すこし心を落ち着けようとするけど、やっぱり、駄目。大好きな「床のほら穴」のカプチーノでも心が落ち着かない。
「あなたの大好きな『エルディバランシリーズ』の作者さんも来る予定よ」
と、いう岬さんの言葉が、あたまの中をくるくるまわっている。
「で、でも、私はネット小説は読み専門なのに……。書き手さんのオフの集まりなんじゃないんですか?」
と、私がおずおずとたずねると……。
岬さんは、ホットコーヒーを飲みながら、空いた片手で綺麗な黒髪をさらりと肩にながして答える。
「最初はそういう話だったんだけど、今回は、オフ会っていっても旧知の仲の4名しか集まんないの。この4名はもう何度も会ってるから、それなら書き手が一名ずつ読み専門のオフの知り合いを連れてきたら、生の感想も聞きあえるんじゃないかって話になったのよ」
「そ、そうなんですか?か、感想……」
「小規模の集まりだし、私は他の書き手さんたちと何度もあってるからあなたと話つなげられるし、緊張する必要はないのよ?」
岬さんは、綺麗な唇をにんまり引きあげて、
「ね?だから、おいで?」
と、麗しく笑む。
う、うわぁぁ、いきたい!
心からそう思った。
岬さんが挙げた4名のネット小説書き手さんは、どの人のものも読んでいた。
まず一人目は、岬さん。小説家としての名前は「夕月わかな」。
サイト名は『Lovery!』
学園青春恋愛モノが中心だけど、最近はオフィス恋愛やファンタジー風味も取り入れたりした新作も連載しはじめている。書籍化も電子書籍も人気の作家さん。
二人目は、『エルディバラン王国シリーズ』などのファンタジー小説を手がける、「カイト」さん。
独自サイトのサイト名は『森羅万象』。
私がはまっている、ガイルとリリアの「騎士×聖女」モノが今連載中。
カイトさんは電子書籍や書籍化はしていなくて、全部が無料でサイトで読めるのが本当にありがたい作家さん。ブログによると、どうやら既婚者の女性なのかなぁという感じはするんだけど……。
三人目は、コメディ恋愛物が人気のYUKIさん。独自サイトは、四コマ漫画を描いているミオさんと共同で展開してる。
サイト名は『さよなら、さよなら、さよなら?』
ブログ日記で、二人はYUKIさんとミオさんは姉妹で二人暮らしってことを公開している。年齢はミオさんが10代でYUKIさんが二十代前半みたい。
四人目は、長編ファンタジー物とミステリ作品が多い新山斎さん。
「斎」は「いつき」って読むらしい。
新山さんは独自のサイトを持っていなくて、小説掲載サイトで投稿している人。
新山さんの作品、長編ファンタジーもミステリも恋愛が主軸じゃないんだけど、キャラクターがいきいきしていて、主従関係とか派手じゃない恋愛要素とか友情とか、気持ちの動きがしっかり出ていて読み応えがある。
戦いや事件を乗り越える中で、人がどう生きて死んでゆくのか、苦しみや喜びを書き出す深い作品の作家さんなんだ。
実は、新山さんの作品は私の読む中では異色といえる。
私はドキドキハラハラ恋愛モノが好物だからね!
そんな私が新山さんの作品を知ったきっかけは、エルディバランシリーズのカイトさんがブログで絶賛してたから。
興味がでて読み始めたんだけど、その深い洞察力、描写力、描かれる人間の生きざまにはまった。
新山さんは独自サイトも公開してないし、ブログ日記などもないし、作家さんの素性がなんにもわからない作家さん。
こんなすごい作家陣さんと、その作家陣さんが「読者」として選んだ人たちと小説の話ができるなんて、夢のようじゃない!?
いいのかな……。
行きたいな……。
「来月の日曜日、ですか?」
「そ、秋の暮れにしっぽりとネット小説の感想会といきましょ?」
スケジュール欄は、あいてる。
数巳は隔週で通うビジネス英会話レッスンが午前中にあるけど、私は終日フリー。
「い、いきます!あ、でも……」
私がまごついていると、
「あ、いちおう、旦那さんには声かけといた方がいいわよ。私も、そういうオフとかで会う場合は、変な誤解を生まないように家族に伝えるようにしているわ」
さすが岬さん、私がまごつく理由をくんでくれた。
「……じゃあ、多分、数巳も反対しないと思いますけど……。今夜、話してみます!」
「ふふ、楽しみにしてるわ」
やったぁ!
とっても明るい気持ちで、ランチを終えたのだった。