第一話-エピローグ
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肌に冷気が触れて、目が覚めた。
私がふっと冷気が入り込んできた方をみると、数巳と目があった。
「ごめん、起こしちゃった?まだ五時前だし、寝てて大丈夫だよ」
数巳は、二人で寝る狭いベッドの隣で上半身を起こしていた。
「ん…私も起きる。そのまま寝ちゃったから、シャワーあびたい」
私もごそごそと数巳の隣でベッドの中で身をうごかす。
えぇぇっと…私の服…どこかにあったっけ…。
布団の中を手でまさぐるけど、それという感触はなく。
あれれ…?と想っていると。
そのうち、
「服なら、たぶん、廊下。昨夜のまんまだと思うよ」
という、数巳の笑いの含んだ声が聞こえた。
そういえば……と、昨夜の、玄関→廊下→寝室、に移動するベタベタな状況を思い出す。
……あちゃー、いやはや『お久しぶり』というのは燃えるものですね?とか言い訳したりして。
あぁぁ…でも、なんだか身体がギシギシと凝り固まっている気がするし。
微妙に筋肉痛なような。
「シングルにふたりって、狭いね」
私が布団から顔だけだしたまま、起き上がりかけている数巳に声をかけた。
「そう?…俺は、思ったよりシングルでするのもいいもんだなぁって思ったけど。密着できるし。はじめてだよね、シングルベッドでしたの」
と、明るい声で返事する。
なんだかやけに元気だなぁ。
「…狭いし肩がこったよ」
と、私がちょっとため息つくと、数巳がくすっと笑う。
「なんで、笑うのよ」
「…それは、お久しぶりだから、筋肉痛なんじゃない?いろいろ激しくしちゃったしね」
と、にっこり笑って数巳が言った。
「…この、むっつりすけべっっ。攻めてきたのは、そっちなんだからねっ」
と、私が枕を軽くぶつけると、笑いながら数巳はベッドを下り、裸身のまま寝室をでていった。
しばらくすると、自分もアンダーシャツと下着を身につけ、私には新しいバスローブと氷と水の入ったグラスを持ってきてくれた。
「廊下の服は洗濯かごにいれておいたから」
「…ありがと…。なんだか、すごく気がきくね」
冷たい水がのどをうるおしていくのが、とても気持ちいい。
飲み干した後の私の手からグラスを受け取ると、数巳は、
「機嫌がいいんだ。いろんなモヤモヤが全部すっきりした感じ。今週の仕事、はかどりそう」
と笑った。
数巳の笑顔は、穏やかで、とてもやわらかかった。
「俺が朝食作るから、シャワー浴びてきたら」
「……なあんか、本当にいたれりつくせり…」
私の言葉にただ穏やかに微笑みながら、数巳がそっと触れるだけのキスをした。そして、「じゃ、身支度できたら朝食にしよう」と言って、寝室から出て行った。
数巳が出て一人になった後、私もベッドから下り、さっき数巳がもってきてくれたバスローブをはおる。
ふとベッドのサイドテーブルに置いている携帯電話の充電器が目に入った。
今、その充電器は空だ。
私の昨日つかったバッグも、きっと玄関か廊下あたりに無造作にあるだろう。
………そのバッグの中に、携帯電話は入ったまま、かな。
ケータイのことを思ったとたん、ついいつもの習性で、
(あ、ガイアとリリアの話、更新されたかなぁ)
と、ネット小説のことを思い出した。
その時……まさに同時に。
トントントンとノックの音。
一瞬、びくっとなる。
「は、はあい」
と、少し間抜けな返事をすると、ガチャリとドアが開き、数巳が姿を見せた。
手には、私のバッグを持っている。昨日、私が使っていたもの。
「廊下に落ちてたから」
と、言って、私に手渡してくれる。
私が腕を伸ばして、そのバッグを受け取ろうとすると。
数巳はサッとよけた。
「?」
肩すかしをくらったように、私は行きどころのない手を、そのまま彷徨わせた。
そんな私に、数巳は真面目な顔で言った。
「……バッグの中にケータイが入ってるだろうけれど。朝食が終わるまで、自粛してくれると…うれしい」
ひゃあ~。
数巳、千里眼ですかっ。
さっき、一人の寝室で、ガイルとリリアのことを思い出して続きが気になったこと、まるでバレてるかのようですっっ。
「小説を読むのは趣味だと思うし、その世界に入れ込んだって浮気だとは思わないけど…。俺のことも…見て欲しいというか…」
……うん。まぁ、そうだよね。
「ん…自粛…します。もちろん、趣味だから、読むけど。数巳のことを後回しにしないように頑張るね…」
私がそういうと、照れたように数巳はまた笑った。
それから、
「もし理紗がつらいようだったら、ベッド、ダブルに買い替えてもいいね」
と言った。
「えぇ?せっかく買ったばかりなのに」
「う~ん、俺は別にもうシングルでもいいんだけど、理紗がつらいでしょ?」
「……つらい?」
数巳は、私にバッグを手渡してくれながら言った。
「今回のこと、理紗が俺以外のことにはまる余裕を作らせてしまった俺自身も悪かったなぁと考えたんだ。だから…」
「……だから?」
なんだか緊張しながら聞き返してみると。
「もう、理紗のことを放さなければいいんだよな」
「え?」
聞き返す私に。
「理紗の身体も時間も心も、俺で染めてあげる。埋め尽くしてあげるよ」
「…な、なに恥ずかしいこと言ってるのよぉっっっっ」
「そういう、恥ずかしいこと言ってくれる王子様の話を読んでるんでしょ?俺のお姫様」
そう言って。
にんまり笑って、数巳は、私のほっぺたにキスをしたのだった――……。
fin.